Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『不滅の恋』を書こうと思ったら脱線した話

大学を卒業して映画字幕のお勉強をしていた頃、ちょっと変なバイトをしてました。

詳細は省くけど、特殊なお仕事内容ゆえに妙に芸術肌の人が多かった。小説家や脚本家を目指す人、インディーズのバンドマンなど。
 
その中に、おちあいさんという漫画家を目指している人がいて。他の男は全員、金もないくせに女グセが悪かったり自己評価が山のように高い鼻につくヤツばかりの中、おちあいさんは服装はド派手だったが性格はそう奇天烈でなく、どちらかというと真面目な面白い人だった。今もこのブログ読んでるかもしれない。えっへ、おちあいさんメンゴ。
 
大阪だか京都だかの美大卒だったおちあいさんは、絵だけでなく小説や映画にも詳しく、よく良い映画を教えてもらいました。いくつか勧められた中には、今でも観返すものがあります。タランティーノの映画、リトル・ヴォイス』(1998)、『不滅の恋』(1994)など。今回は『不滅の恋』について書こうと思ったんです。
 
 
◇芸術系の人
 
本題に入る前に早くも脱線するが、私の周囲には割と美大卒とか音大卒とか芸術肌の人が多い。筆頭が夫。私が自分とは真逆の、自分にないものを持つ人間を好むためでしょう。

当然ながら、みんな個性というかクセが強い。その中でも最凶が、夫と付き合い始めた頃に紹介された夫の親友、西田だった。私の感覚では、芸術肌の人というのはヒネくれていて面倒くさいが、基本的には謙虚で繊細、偏屈に見えるのは思考が深いゆえ、しかし親しくなるとヒネてて面倒といった印象。
西田はマジでタチが悪かった。デリカシーがないのと、巧妙に人のコンプレックスを突いてくるのだ。
 
夫、西田、西田の彼女(現在嫁)と一緒に飲むと、彼らは全員同じ美大卒、私だけが違った。ただでさえ、話題も考え方も「一般的」なものではなく、私は聞いているだけだったのだが、言葉の端々に、一般の大学に入り就職活動する類の人達、いわゆる「レールに乗った人々」をバカにするような空気があった。
 
まさに私がその類だったが、もちろん配慮はされない。終始、居心地の悪い思いで座り、「俺たちってこんなこと考えてんのよ」みたいな話を「すごーい」と聞いていなければならなかった。今なら夫と二人きりになった瞬間、後頭部に飛び蹴りを喰らわせるが、当時は付き合いたてだったからねえぇぇぇ。
 
さて、あるとき、西田と夫の三人で飲んでいて夫が酔い潰れて寝てしまった。西田が、今度中国旅行に行くのだと話し出し、そこから中国でどれくらい英語が通じるかという話になった。西田が薄笑いを浮かべて言った。
 
「やなぎちゃんみたいな優等生は、あれでしょ、まず間違いがないように喋ろうとして、結局あんまりコミュニケーション取れないタイプでしょ?」
 
 
・・・。
 
途轍もなくムカついたのは、もちろん当たっているからだ。西田は私が「レールを歩いてきた人間」であることを知っている。当然そういう人間が抱いているコンプレックスも知っているはず。それを、わざわざ友人の彼女である相手に面と向かってぶつけるのは、もう悪意としか思えなかった。
 
ついに堪忍袋の緒が切れた私は西田に言った。
 
レールの上を歩いてきた人間をバカにできるのは、レールの上を歩いたことがある人間だけ。さらに優等生をバカにできるのは優等生であった人間のみ!
 
こちとら物心ついたときから優等生をやってるの。子供のころから優等生、これはもはや身に沁みついた「習慣」、下手すれば「反射」と同一。頭の中で死ぬほどの疑問と不安と罵詈雑言が渦巻いていたとしても、「ああ親に心配かけちゃうな」とか「私が大人になればいい話」などと、望んで得たものでもない良識が邪魔をし、ブチ切れたり逸脱することを思い留まってきた人生。ひたすら良い成績を目指し、トップを取ったならばキープし続けることを自分に強いた学生時代。
 
これまでのお前の無礼の数々にとっくにブチ切れているところ、「でも傷つけてしまうかな」「彼氏も悲しい思いするだろうな」と懐の深さでもって笑顔で思い留まり、つまりお前は私の尊い精神犠牲の上に胡坐をかいて「芸術が」などと好き勝手に吠えているんだよ、この滑稽な犬め!
 
ちなみに、美大の学費どころか二浪分の専門学校代まで親に払わせたお前と違い、私は学費は奨学金で賄い交通費と昼飯代をバイトで叩き出していたリアル苦学生だ、バッキャロー!
 
もう一度言う。レールの上を歩いてきた人間をバカにできるのは、レールの上を歩いたことがある人間だけなんだ!

と言った。
 
 
心の中で言った。
 
 
実際はニコニコしながら、こう言った。
 
「前から思ってたんだけど、私達って異世界の住人だよね。私が想像する美大の人ってね、そうねえ、例えば皆で部屋で飲んでて『外に行こうぜ』ってなったら、ある女が突然『着替えたーい、でも着替える服がなーい』って言って、いきなり皆の前で服脱いで、テーブルクロスかカーテンを外して体に巻き付けて、『ハイ、ワンピ完成!いこ!』ってやって、その行動と格好が奇抜でしょ、奇抜ゆえにオシャレでしょ?みたいな女がたくさんいるイメージ。『人と違う』自分を血眼になって探してるイメージなんだけど、ちがう?」

西田はゲラゲラ笑っただけだった。
 
ケンカ売っても、買わないのかよ。
 
ムキになってる自分が余計アホみたいに思えてくる。
そう、彼らといると、自分がものすごくアホみたいに思えるから嫌だった。
 
さて、現在も夫と西田は仲良くしている。
私が、あの事件から西田をどうやって受け入れたか。それはこうだ。あるとき、西田が夫にこう言ったのだ。
 
「やなぎちゃん、今までのお前の彼女の中で、ピカイチいいな!」
 
だから、デリカシーな。
 
 
◇なんの話でしたっけ
 
おちあいさんに教えてもらった『不滅の恋』のゲイリー・オールドマンが大好きって話だよ。
 
それは次回、書くかもしれません。チャオ。