Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『ブルックリンの恋人たち』

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監督:ケイト・バーカー=フロイランド キャスト:アン・ハサウェイ、ジョニー・フリン/2014年

皆様お久ですね。私は元気です。バタバタしていて、更新ができませんでした。

こないだね、面白い漫画を見つけたから親友のリエコに教えたの。二次元の推しにそっくりな人が現実に現れる・・・というひっちゃかめっちゃかなギャグ漫画なんだけど、その流れで「こういう意味の『推し』って昔なんだった?」と訊いたらさ。

リエコ「『幽遊白書』の飛影と『ダイの大冒険』のヒュンケル」

・・・マジで(笑)!?激古いのはお互い様だから仕方ないとして、何につけても勝手にトラウマ抱えたがる系のひねくれ&めんどくさ男子ばっかりじゃない?ヒュンケルって、確か親の仇をカン違いして赤の他人を恨んで人生半分無駄にしたような奴だったよね?(私は過去になんか抱えがちの男のキャラが嫌い)

でも、なるほど。だから旦那もああいうメンドくさ・・グエッホ、ゲホゲホ!

リエコ「今は、『アシガール』の若君」

ヒュンケルからの脈絡ゼロ!おまえに何があった。
あ、なるほど。やっぱり旦那との生活を経て、手がかかる男が如何に使えないかを思い知・・・ゴホゴホ、イエッホ!

リエコ「(怒)。じゃあ、お前はなんなんだよー」
私「『アルスラーン戦記』のダリューンだった」
リエコ「天野喜孝先生の絵の輪郭しか覚えてねぇわ」

以上、40代主婦の昼下がりの会話をご紹介しました。
じゃ、そんな感じで『ブルックリンの恋人たち』です。いい映画だったよ。

 

◇あらすじ

ロッコに暮らすフラニアン・ハサウェイは、ミュージシャン志望の弟が交通事故で昏睡状態に陥ったため、家族が暮らすニューヨークに戻ってくる。弟の意識が戻る可能性は低いと医者に聞かされ動揺するフラニー。弟と疎遠になっていた彼女は、自分が今まで弟のことを何も知らないでいたことを悔やみ、彼が何を感じてきたかを知ろうと、弟の日記を手にその足跡をたどっていく。そんな中、弟が憧れるミュージシャンのジェームズ(ジョニー・フリン)と出会い、フラニーとジェームズは音楽を通じ、互いにひかれ合っていく。(映画.com)

プラダを着た悪魔(2006)にて監督アシスタントを務めたケイト・バーカー=フロイランドの初監督作品だそうで、主演のアン・アサウェイがプロデューサーも務めたそうです。また、ジェームズ役のジョニー・フリンは俳優の他にミュージシャンとしても活躍しているそうだよ。適当に拾ってきた情報でごめんなさい、雰囲気だけ感じ取ってください(てきとう)。

まず言及すべきは、なんといってもアン・ハサウェイのハンサムなショートカットと、それによって際立つハサウェイな魅力!まぁ、これから色々書くけど、これに尽きる。繊細でどことなく感受性の強そうなキャラクターのためか芝居は終始抑えめで、派手な顔にパワフルな性格やアクションがプラスされるいつものアンハサの印象とは全く異なる役だった。とにかく、髪型とワークパンツにTシャツの無愛想な服装がハサウェイすぎるぅ・・・。こんな役をやっていたんだね。私は断然このアンちゃんが好きだなぁ。

さて、弟ヘンリー(ベン・ローゼンフィールド)の事故の知らせを受け、急いで帰国したアンちゃん。病室で眠ったままのヘンリーを前に涙を流す。この辺りは、何もあなたのせいではないのだからそんなに自分を責めないでも(壁を殴ったりする)、とは思うのだが、彼がミュージシャンを目指すことに反対して取り合わず、長く口を利かずにいたことがアンちゃんの心に重く圧し掛かっている。元は仲の良い姉弟だったんだろうね。後で音楽に囲まれて育った一家であることが分かるシーンもあり、姉は写真家、弟はミュージシャンと、ともにクリエイティブの道を目指しているにも関わらず、弟を応援してやらなかったことに強い自責の念を覚えているのだ。

アンちゃんは、ヘンリーの荷物の中から自作のCDと日記帳、そして彼が敬愛するミュージシャン、ジェームズ・フォレスターのライブチケットを見つける。日記帳には、お気に入りのレストラン、歌手やバンドなど彼が愛するものがびっしりと書き込まれており、アンちゃんはそれを基に弟の音楽に彩られたブルックリンでの日常を探訪する、といった内容だ。

 

◇昼=現実

特徴的なのは昼と夜の対比。昼間のシーンの舞台はほぼ弟の病室で、ベッドの白いシーツやアンちゃんの沈鬱な表情も相まって全体的に寒々しい雰囲気を醸し出す。逆に、アンちゃんが日記帳を片手に街を歩くシーケンスは、多くのライブが夜行われるため、ほとんど夜だ。彼女の表情は相変わらず晴れないが、それでもネオンに照らされたブルックリンの街並みと多様なジャンルの音楽のライブシーンには、やっと病室から離れて身体が暖かくなってきたような感覚があり、観ている側の肩の力もホッと緩む。
大袈裟に言うならば贖罪の旅だった街探訪が、ジェームズという同行者を得たことでどんどん楽しいものになっていくのも、二人がぼやけたブルックリンの夜景を背景に互いの悩みをぽつりぽつり打ち明け合う場面も心地が良い。

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逆に、楽しい夜の時間が増えれば増えるほど、病室のシーンに切り替わった時の室内の冷たさが現実的で。
でね、私、絶対「弟がこんな状態なのに恋愛に現を抜かすのが受け入れられない」とか言う人いるんだろうなと思ってレビューサイト覗いたら、結構な数いたわ。学級委員長がまたいたわ。クラスに一人でいいのに沢山いよるわ。
サッカーで言うなら(またか)、カード累積で出場停止になった選手が試合と同時刻に家族で外出を楽しんでる写真をSNSにあげて批判されるのと一緒ね。正しい姿勢は、試合には出られないが客席から真剣な面持ちでチームメイトの奮闘と試合展開を見守り、ピッチの外でも戦っていること(このとき眉間に皺を寄せてメモなど取っていると株は急上昇&間違ってもスマホを見てニヤついている顔をカメラに抜かれてはならない)。それをせず家族で休日を楽しむなんて「気持ちが足りない」ってわけだ。気持ち送って点取れたら監督いらんがな。

弟が生死の境を彷徨っているのだから、アンハサも寝食そっちのけで憔悴しているべきというのか。くだらね。誰が観たいの、それ?アンハサが弟のために祈り続ける映画が観たいの?どんな映画だ。祈って昏睡から目覚めたら医者いらんがな。

仕方がないんだよ、この姉弟は実はとてもよく似ていて、姉も同じくジェームズに惹かれるのは無理からぬことなのだ。それにジェームズときたら、結構な売れっ子のくせに謙虚で控えめ、密かに創作活動に悩みを抱えているシャイボーイ。突然現れた女に「弟が事故に遭ったの」と手作りCDを渡されて素直に同情し、わざわざ見舞いに来てくれるようなグッドガイだ。歌う歌は、陽だまりがどうだ雨のしずくがどうたらとポヤポヤした曲ばかりで(ギターを奏でていたと思ったら突然バイオリンも弾く)、まあ私がこういう曲聴くとしたら、二年に一度、なんの気まぐれか刺繍でもしてみようかしらと思って刺繍糸買ってきてBGMもたまにはこんな感じのを聴いてみようかしらって気分のときに選択する類の音楽なんだけど(そして刺繍には一日で飽きる)、ウン、ジェームズはいい奴。惚れる。

なにより、アンちゃん自身が上記のレビューのように、不謹慎だと自覚する描写がきちんと用意されている。ジェームズに好意を抱き始めていた彼女は、弟に付き添っているときにふとYoutubeで彼を検索する。すると、楽しそうにギターを弾きながら歌うジェームズの映像が見つかり、思わず口元を緩めて見入った後に、はっと顔を上げる。そしてカメラは病室で座るアンちゃんを引きで映す。つまり、状況を忘れジェームズとの時間を楽しんでいたことへの罪悪感が映されているのだ。こはちょっと胸が痛くなったよ。

 

大和撫子問題

ただコレさぁ、この二人、寝ないで欲しかったなぁ。結局、わたしも慎ましやかな大和撫子ってことですよ。何言ってるんだか分からないけど。最近知り合いと、日本の「言わぬが花」って文化の美しさについて話したんですよ。主張on主張、己の欲望にストレートに従う、「This is me!」の社会も大変結構ですが、口に出せなかったこと、互いに確認し合いながらついに形にならなかったこと、そこに感じるキュンがあるじゃない、恋愛に限らずね?日本にはそういう品の良さがあるじゃない(やなぎやさん本作アメリカの映画です)。

そういう慎しみ深さというか、繊細さを芸術肌の二人には感じたのにな!?

もちろん、これが限られた時間の恋であることは二人とも暗黙のうちに理解している。
ジェームズ側の夢の時間の終わりは、予定のスケジュールを終えればブルックリンを去ることであり、その刻限が迫りつつある時、思いがけずアンちゃんの方に契機が訪れる。ヘンリーの意識が戻ったのだ。もちろん喜ばしいことではあるが、ヘンリーと音楽により結び付いていた二人だったから、それがなくなれば一緒にいる理由がない。ヘンリーの目覚めは同時に二人の別れを意味していた。だから、ジェームズはアンちゃんやお母さんに何も告げずに病院を去るのだ。

しかし、最後にもう一つ、二人の今後を変えるかもしれない道が用意されていた。ジェームズのこの地での最後のライブが行われる夜、ネットで調べるとチケットは余っていた。店へと急ぐアンちゃん。窓口に駆け寄りチケットを求めると「完売したよ」と告げられる。曲が作れないことに苦しんでいたジェームズは、中でアンちゃんを想って作り上げた新曲を歌い始めたところだった。外のビジョンでそれを聴き微笑むアンちゃん。そして、来た道を引き返して行く。

あー、せつな!チケットが完売してなかったら?会場に現れたアンちゃんをステージからジェームズが見つけたなら?違う未来が二人にはあったかもしれない。しかし、道が分かれていくさまが、またよかったんだな。

今年観た恋愛映画全二本中、堂々の一位。
またこういうアンハサが観たいなー。

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