Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』

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監督:アレクセイ・シドロフ キャスト:アレクサンドル・ペトロフ、ビンツェンツ・キーファー/2018年
 
あっけおめー。
皆さん、何か面白いことがありましたか?私は料理ばっかりしてました。

正月ボケしながら出社したら、隣の席の新潟男子が開口一番、「やなぎやさん、実家帰ったら、知らない間に妹が結婚してました」と面白い話を披露してくれました。
賢くて静かなユーモアを持った青年だと思うのですが、何しろ自分でも認めている通り、反応と感情が薄ーい。家族との関係が特殊で、これまで報告してくれた「知らない間に」エピソードが面白く。
 
・知らない間に、兄に子供ができていた
・知らない間に、兄が家を建てていた
・知らない間に、自分を抜かした家族全員が温泉旅行に行っていた
 
まあ、最後の旅行の話はね。友達のつっちーも昔、家帰ったら誰もいなくて、母親から「ハワイ行ってきます。大丈夫、あんたはまた行けるよ」とメールが一本来ていたと憤慨してたっけ。わたしも将来、息子をそんな風に扱うような気がする。
 
さて本日は、正月に自由時間ができたので夫を引きずって行って鑑賞した『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』をご紹介。上映しているのが池袋のシネマロサのみだったので、何十年かぶりに行ったわ、懐かしかったー。
 
『映画.com』での点数4.0と世間の評判は異様に良く、熱狂的なファンも生まれている様子。なにより、映画とカレーを愛するミキちゃん(S氏の幼馴染という可愛そうなコだ!)が、2019年のベストテンに挙げていた作品。そして、少年少女にお勧めしたいサッカー漫画『フットボールネーション』の作者大武ユキさんが昨年から盛んに推してらっしゃる映画。
 
残念ながら、私は酷評気味です。
この盛り上がり方、ちょっと盲目的というか、マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)のときと似ているよな。
 
最初に断っておくと、「あなたはあなた、わたしはわたし」を貫いてきたので、「好きな人に悪いかしら?」と思いながら書くくらいならブログなどやらないし、「あくまで個人の意見です」なんて当たり前なことも言いたくない。
例え私が、このケーキは不味いと言っても、美味しいと思う人はそのケーキがどれだけ美味しいかを自信を持って語れば良い。
 
とはいえ、ですよ。
私も、かわいいミキちゃんや大武ユキさんに不快な思いなどさせたくないし(ユキさんは読まないだろうが。)、本当に嫌いなら、わざわざ時間を割いてブログを書いたりしない。いずれ子供達が観たいって言ったら、脇で居眠りしながら、もう一回観てもいいくらいの気持ちではある。
 
 
◇あらすじ
第二次世界大戦時、ソ連の士官イヴシュキン(アレクサンドル・ペトロフは、ナチス・ドイツ軍のイェーガー大佐(ビンツェンツ・キーファー)に敗れて捕虜となる。三年後、収容所で行われるナチスの戦車戦演習のため、ソ連軍の戦車T-34の操縦を命じられたイヴシュキンは、仲間とともに無謀な脱出計画を立てる。
 
とにかく大味な映画である。それ以外、言い表しようがない。
脚本、設定、撮影、演出、すべてが大雑把。心に響かぬ音楽も辛い。
『鬼戦車T-34』(1965)のリメイクなのかな?あちらは映画館に突っ込んだり、もっと無茶苦茶していた記憶があるが・・・。んで、バッドエンドなんだよね、当たり前だけど。
 
それなりに戦争映画を観ている立場から言うと、戦争映画の醍醐味は、ほぼない。下調べが緻密?残念ながら感じないねぇ。戦車と戦車をぶっつけたい!が先にあって自ずと舞台が大戦時になったようにしか見えず、かと言って、鋼鉄の肌を美しく撮ることに執心するでもなく、戦車に魅了された兵士たちのドラマを描くわけでもない。キャラクターありきの物語が進む。
 
ドイツ軍のイェーガー大佐を演じたのは、前回の記事で2019年ヤナデミー賞大賞に輝いた『犯罪「幸運」』のカッレくんことビンツェンツ・キーファー。カッレくんに軍服着せるとは、やってくれるじゃないの。
 
 
◇ストーリーを追っていきましょう
序盤のネフェドヴォ村の対戦から三年後、イヴシュキンは捕虜として、イェーガーは収容所の責任者として再会する。ソ連軍から奪った最新型T-34戦車を相手に実戦同様の演習を行おうとするイェーガーは、イヴシュキンと彼の部下たちを敵の戦車部隊役に指名、演習への参加を命じる。戦車の中を片付けていたイヴシュキンらは、兵士の遺体の下に砲弾と手榴弾を見つける。
 
・・・。
 
ドイツ軍は、敵の戦車の中を調べもせず捕虜に受け渡すと・・・いうのかッ?
 
いやあ、、、私、ドイツ好きじゃん?
スターリングラード(1993)やヒトラー最期の12日間』(2004)などのドイツの敗戦をドイツが撮った映画が好きだし、浦和レッズのレジェンド、ギド・ブッフバルトもドイツ人なわけ。退団セレモニーには白馬に乗って登場したんやで?
私の永遠の脳内彼氏、『エロイカより愛をこめて』の少佐も愛国主義のドイツ人、だから、ドイツ軍をナメくった映画はそれだけで評価下がるんだよね。
 
さて、ザルすぎるドイツ軍の監視に労せずして砲弾を隠したイヴシュキンらは、その後も戦車の整備を進めつつ砂で演習場のミニチュアを作って逃亡計画を練ったり、ペラペラと自由にロシア語で会話したり、捕虜生活の間にいい感じになった翻訳担当のアーニャと目と目で通じ合ったりと、やりたい放題。
 
こうなると、イェーガーがどんだけマヌケなの?という話になってしまう。
挽回するかのように、「演習場の周囲に地雷を埋めろ」と薄笑いを浮かべるイェーガー。ああ、お見通しなんだな、どうなるイヴシュキン隊!と観客をワクワクさせてくれるのだが。
 
アーニャがこの事実をイヴシュキンに告げると、地雷の件は、すっかりなかったことに。イェーガーは、地雷どこに埋めたん。自分の頭ン中か?
 
演習当日。イヴシュキン隊は隠しておいた砲弾をぶっ放してドイツ兵を蹴散らし、脱出に成功。楽しく街道を転がして、腹が減ったなと街で食料などもゲット(途中のバス停でアーニャも乗せた)、特に労せずにして、あと一時間で目的地のチェコ国境というところまで辿り着く。
 
・・・。
 
そうだね、うん、手段は色々あると思うが、ドイツ軍には、爆撃機とか。ない?
 
気を揉む私に応えるように、やっとこさイェーガーが言う、「空軍に連絡だ」。それそれ~。もう、おそいってー、数時間前に言うべきだって。
 
次の瞬間、出てきたのは偵察機だった。
ううん、違うよ、偵察機飛ばしてどうするの?頭ン中の地雷が爆発したの?
 
イェーガー「あ、空軍ですか?捕虜に戦車で逃げられちゃって、ハハッ。爆撃機出して欲しいんですが。え?全機、故障中?オーマイイェーガー」。恐らくこんな感じだろう。
 
偵察機に同乗したイェーガーは、空からイヴシュキンらの戦車を見つけると満足そうに微笑み、そして戻っていった。こっからまた戦車で出動するんだって。その間に逃げられるぞ。しかし戦車でドライブ気分のイヴシュキンらは、もう少しで国境という森の中で野営をすることに。
 
・・・。
 
いま野営を、するんじゃない。
そこ、湖で泳ぐのはドイツを脱出してからになさい。あコラ、そこの二人、ヤるんじゃない。
そんなことをしてたから、ほーら、一度戻って出直してきたイェーガーに追いつかれちゃった。てか、もう戦車にこだわる意味。捨ててけ、目立つから。
 
※ラストには、わざわざ場所を変えて戦車同士が一騎討ちするというワケのわからん一幕があるが、もはや触れまい。
 
 
◇アップショットのカッコ悪さ
本作が全編を通じて鈍重に感じられるのは、スローモーション及びストップモーションとCGの乱用による大仰な演出が原因だろう。砲弾が発射される瞬間、着弾して爆発する瞬間、あるいは弾と弾が宙ですれ違う瞬間が都度、スローモーションで切り取られる。これがダサい。
 

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こんなことせんでええ。
 
また、人物の顔のアップショットの切り返しも、うまくない。ネフェドヴォ村での戦闘や、収容所で会話する場面では、主役二人の顔のアップが交互に切り返され、それ以外の情報が入って来ない単調な画面に瞼が重くなってしまう。
 
映画終盤、ある街を舞台に再び戦車戦へと突入するのだが、理解に苦しむのは、一番の見せ場となるべきこのシーケンスを、冒頭と同様の市街戦とした点だ。
 
狭い道を戦車が塞ぎ、近距離でジーッと睨み合う退屈な時間が続く。緊迫感を演出するために戦車と人を繰り返しドアップで撮るやり方にうんざりしているのに、またぞろ、戦車同士が目と鼻の先で戦車砲を突き付け合う息苦しい画を見なければならない。
 

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これな。
 
当然、戦車は走らせるべきだ。走らせずして、戦車の獰猛さを、戦車乗りが誇る卓越した技術をどう伝えるというのか?
キュラキュラと不気味な音を響かせて迫って来るキャタピラを撮れどちらのスピードが早いか、より頑強か、操縦技術が優れているか、それを横から上から下から撮れよ。
 
この世には、『レッド・アフガン』(1998)や『フューリー』(2014)などの優れた戦車ラブ映画がある。戦車偏愛映画『レッド・アフガン』では、こちらも口の中が乾くほど緊張したし、戦車対戦車の息を飲む攻防に関しては『フューリー』が素晴らしい。ドイツの化け物ティーガーと出会して戦闘に雪崩れ込む緊迫のシーケンスを見習ってほしいものだ。
 
また鬱陶しいのが、イヴシュキンの恋の相手アーニャを絡めるために発生する、ドイツ語⇔ロシア語の翻訳のムダ時間。例えば、こうだ。
 
・イェーガーがドイツ語で何か言う(字幕出ない)
・アーニャがそれをロシア語に訳す(ここで字幕が出る)
・イヴシュキンがロシア語で答える(字幕出る)
・アーニャがそれをドイツ語に訳す(字幕出ない)
 
イヴシュキンとイェーガーの会話であるはずなのに、アーニャを介するがゆえに同じ内容のセリフを×2で聞かされることの煩わしさ。単純に二人がロシア語とドイツ語を解する設定にすれば良かっただけの話である。
 
最後の、立場は違えどの体で友情らしきものをチラつかせる演出など、恥ずかしくて直視できなかったわ。
とにかくダメなのはコレを大真面目に撮っていることだ。無茶苦茶な感じに振り切れば、まだマシだったかも。
 
あと、も一つだけ言わせて。
キーファーくん(イェーガーね)を正面、煽り気味の位置から撮るな。その理由は、キーファーくんは前歯が、すきっ歯だからだ!
 
文句言い過ぎたから、フォローしようと思ったけど、あんまり出てきませんでした。
あ、白鳥の湖のところと、バス停で待ってたら戦車来た、は面白かったと思うよ。
 
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