Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『ヘイト・ユー・ギブ』

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監督:ジョージ・ティルマン・Jr. キャスト:アマンドラ・ステンバーグ、レジーナ・ホール、K・J・アパ/2018年
 
おはようございます。私のidは「やなぎやしゅじん」です。「やなぎや」の後に何が続くかなんて誰も気にしないでしょうが、一応つげ義春の漫画から取った「やなぎや主人」なんです。今後とも、やなぎや主人をお願いいたします。
 
本日は『ヘイト・ユー・ギブ』の感想となります。半分はラップ映画です、多分。
 
◇T.H.U.G. LIFE
YOYO, ラップ全然わかんないYO。ライムってなんだYO。カボスの仲間のライムじゃないYO。

わからないから、代わりに日本ラップのリリックを紹介するYO!
 
 チェケラッチョ おしゃれ手帳♪( byユーザロック)
 
 韻がどうこう 因果応報(by晋平太)
 
 やなぎや主人 高飛車な囚人(byやなぎや)
 
ふゥ~!
すげえパンチラインだな。ヤバすぎるスキルだぜ。
 
囚人てなんだ。韻は踏んでも踏まれるな! 
 
『グリーン・ブック』『ブラック・クランズマン』、黒人差別を扱った映画が多いYO・NE。どっちも未見だけど、スパイク・リーは鬱陶しいYO~。あいつが監督してるってだけで多分観ないYO~。
 
あらすじ、チェケラッチョ!↓↓
 
白人社会と共存していく方法を幼い頃から教え込まれてきた黒人の女子高生スター。治安の悪い地域「ガーデン・ハイツ」に生まれ暮らしながら、両親の方針で、白人の私立校に通い白人のボーイフレンドと付き合う彼女は、自分が黒人であることを忘れたかのような毎日を送っていた。そんなある日、久しぶりに再会した幼馴染のカリルが、彼女の目の前で白人警官に射殺されてしまう。(映画.com)
 

◇2つの顔
真面目だが2つの顔を持つ少女の目を通して、差別にアプローチする内容になっている。物理的な「顔」の話では、スターを演じたアマンドラ・ステンバーグは素晴らしいお貌をしてらっしゃる。整ったキツめのパーツに対し、アンバランスな眉やヘチャッとした全開の笑い顔が愛らしい。今後も使い出がありそう。
 
スターは名前の「starr」に"r"がダブっていることに引っかけて、高校での自分を「スター2」とし、地元とは異なった顔を使い分けていた。
彼女にはクリスという彼氏がいる。しかし、地元のパーティで再会した幼馴染カリルも、魅力的な青年に成長していた。それぞれの魅力は、履いているスニーカーと、彼らが好む音楽に表れる。クリスはいかにも流行りのリズムをスターのために作り、カリルは20年前に絶大な人気を誇ったラッパー2Pacの影響力を熱く語る。
 
ハイソサエティなクリスと、少々ダサいがキュートなカリル。彼らはそのままスターにとって、白人側に置くアイデンティティと黒人側に置くアイデンティティの象徴だ。その片方、黒人側が突然失われたことで、スターの均衡が崩れることになる。
 

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ここから「スター2」の顔になる。
 
 
◇人種差別の描き方
カリルを射殺したのが、例えば鬱憤を晴らすため黒人の車を止める、ガムをクチャクチャ噛んでいるような警官であったり、証拠を捏造する卑劣な警官であったならば、その後の展開は単純だ。目撃者の少女が脅しを乗り越え、悪に打ち勝つ王道のストーリーになるだろう。

だが、本作の加害者は警官になって5年目の新米で、彼もまた騒動の被害者となる。つまりこの映画は、スターが目撃者として証言することで警官個人を糾弾したり、分りやすい差別と対決するものではない。
スターは、カリルの事件の証人となるか否かの選択を迫られる中、「スター2」の顔を保てなくなってしまう。黒人側のアイデンティティが欠けてしまったことで直面する「現実」、これこそがテーマだろう。
 
映画での人種差別の描かれ方は、当然ながら実社会を映して移り変わる。以前は分りやすい言葉や暴力に対して、同じく正面から戦うものが多かったが、現在の流行りは「無意識の差別」。「私は差別しない」と胸を張る人々の中に、「差別しないという差別」があるというものだ。本作では、同じくそれを根底に置きながら、「無知」を強く糾弾しているようだ。
 
スターと警察官である叔父の会話で、叔父は「夜、黒人の車を止めて、その黒人が車の中に手を入れたら迷わずに撃つ」という。そのマニュアルの通りにカリルを殺されたことを知るスターは、彼の言葉に反発する。どうにもならない現実と、まだ現実を知らない少女がそれに対峙するシーンだ。
 
スターの学校の生徒たちの行動は、無神経で偽善的だが、彼らにとってこの行動は決して人種差別ではない。また、事件により決裂した友人ヘイリーも同様だ。ヘイリーは始めから説明されている通り、相当なパープー。ラップ映画を観れば「ダチをバカにされたらマジでボコす」などと恥ずかし気もなく言う、思ったことが口に直結するおバカの子である。
 
だが、決裂の原因となったヘイリーの言動に黒人であるスターへの配慮はないが、これもまた差別ではない。欠けていたのは、異なる人種を「友人」と呼ぶのならば不可欠な、バックボーンを知ろうとする思考や意志だろう。彼氏のクリスも「君は君だ」と誠実だが、「でも私は黒人なの」と訴えるスターのアイデンティティを無視している。恋人、あるいは親友であるスターのコミュニティは自分たちのコミュニティとどう違うのか。警告なく銃を撃つことを当然とするこの社会は本当に正しいのか。それを知らずに行動する学校の生徒たちやヘイリーの「無知」、またスター自身の「無知」が炙り出される。
 
「無知」「無神経」「偽善」、これらはこれらで責められるべきだが、ひっくるめて「人種差別」と断言すれば、これもまた互いの無理解の連鎖が止められない。スパイク・リーみたいな奴が何でもかんでも差別だとギャアギャア言うもんで、逆効果を産んでいるのも事実。
 
黒人が車の中に手を入れれば、90%の確率で撃たれる現実。
黒人たち自身が、この確率を上げているという現実。
何も知らないまま「Black Lives Matter」のプラカードを掲げている人々がいる現実。
 
まずは知るべきである、と意図はシンプルだ。
 
 
◇しかし好みではない
ところで、こういう映画が好みかというと、全く好みじゃない。
 
内容を現実で議論せざるを得ないような映画。「教訓」を避けられない映画。
映画で描かれる世界はあくまで「設定」であるべきだし、その設定について語るのは楽しいが、こういったあからさまな問題提起をされれば、何かしら議論せざるを得ない。映画っぽくないじゃない。映画を観てそんなことをしたくない。いいたいことわかってもらえるかしら。
 
というわけで、設定についてはあんまり言えることがないのだけど、二つ言わせてほしい。
 
ギャングのボス、キングアンソニー・マッキーが全く怖くない。
 
キリリとした端正なお顔。「ガーデン・ハイツ」の人々は多くが顔見知りでキングも例外でなく、スターのパパは彼の元右腕だ。またキングは、スターの異母兄セブンの母の現在の情夫。コレ、すごくわかりにくいよね。えーっと、スターのパパは、以前ママと一時期別れていた間に、別の女との間にセブンを製作、その後スターのママとヨリを戻し、スターと弟セカニを製作した。そして別の女=セブンの実母が、現在キングと付き合っており、オマケに二人の間の娘はスターの友人だ。
 
つまり、スターにとってキングは、血縁的にも完全に無関係とは言えない、親戚のおじさんのような存在。そのキングに「証言はするな」と脅されるわけだが、上記の理由から、「コイツどこまでやる気?せいぜい頭をひっぱたく程度じゃないの?」とナメくってしまい、あまり同族内にも敵がいる危機感がないのだ。そして、最後にはギャングらしからぬ放火の罪によりしょっ引かれるショボいご退場。ギャング感がまったくなかった。
 
もう一点、2Pacの曲に思い入れ過ぎたなと思う。『THE HATE U GIVE(THUG)』の歌詞、「子供たちに与える憎しみが全てをむしばむ」が繰り返し劇中でピックアップされる。この布石は、途中スターたちの父が警官に暴行されるシーンを介して、ラストシーンへと繋がる。
 
再び父に対する暴力を予感したセカニが、父の銃を抜き取って構える。家族、キング、警察官が三つ巴となって動きを止める画は、まさに「子供たちに与えた憎しみ」の歌詞そのものだ。だが、ストリートで育ったならばともかく、セカニは現実の厳しさをまだ肌に感じているはずのない子供。
その子供が、恐怖でなく憎しみを優先させて父の腰から銃を抜く、これに非常に違和感がある。銃を構えたのがセブンだったらわかるが、それでは「子供」に合致しない。だからセカニに銃を抜かせた脚本が、安易に見えてしまう。まあ、物語として、あのように終わらせるのが妥当なんだろうとは思う。
 
最後に、スターは「rr」を分けることを止め、学校で顔を作ることを止め、本来の自分で生きることを決意する。髪型の変化がそれを示しているのだけど、コーンロウが似合っていただけに残念。またこのような結末なら、ヘイリーを「身勝手な友達」と切り捨てず、黒人の自分を知ってくれと向き合うラストでもよかったのではないだろうか。
 
見るからにヘタレそうなクリスに、根性があったのには裏切られた。あと、クリスが作った曲が妙に耳に残る。
 
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