Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『ジョニー・マッド・ドッグ』

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監督:ジャン=ステファーヌ・ソベール、キャスト:クリストファー・ミニー/2007年

 

3回目は何にしようかしらと思っていたら、とんぬらさんに「インスタに書いてたやつをこっちに移しちゃいなYO!」と言われました。なるほどなるほど。確かにあちらはあちらで一所懸命書いていたから勿体ない。

それはいいとして「僕が観る気になるようなレビュー書いて下さいね」ですって。オーケー、じゃあ期待にお応えして、狂犬ジョニーのガチ戦争映画『ジョニー・マッド・ドッグ』のレビューにします。 そしてこの言葉を贈りましょう。

「死にたくなければ、生まれてくるな!」

とんぬらさん脚色してすみません、ちょっと疲れててねえ、げほげほ。

◇あらすじ

内乱の続くアフリカ某国。政府軍への抵抗勢力側に少年兵だけで構成される部隊があった。彼らが暴虐を尽くす様子を、隊のリーダー『マッド・ドッグ』を中心に描く。

アフリカの少年兵の生産方法は我々も知っている通り悲惨なもので、マッド・ドッグらも元は、自分が死ぬか親を殺すかの選択を強要され、後者を選んだ少年達だ。部隊は上官ネバー・ダイ将軍の命令の下、政府側の人々に対する略奪、強姦、殺戮を繰り返している。

マッド・ドッグは躊躇なく人を殺すが、その裏にはネバー・ダイに認められたいという欲求がある。本来肉親を殺した憎い相手のはずなのに、優しい言葉を掛けられるうちに愛されたいと思い込む。子供っていうのはそういうものなんです。基本的に愛情に飢えているし、なので刷り込みもそう時間はかからない。

少年たちにとって襲撃は使命だが、ゲームでもある。そして「仲間」の存在が刺激剤となっているのも印象的。浴びせ合う怒声や、死地を抜けた後の一体感で互いに奮い立つ。一人、略奪したウェディングドレスをずーっと着ている少年がいて、砂埃の中ドレスの白さが妙に目につく。ドレスを着て仲間と遊ぶ様は、まるで仮装パーティ。渋谷のハロウィン。

 

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渋谷にこういう人たち絶対いたでしょ。ネバー・ダイの下にぶち込んで一ヶ月も鍛えれば簡単に兵士になりそう。


カメラはマッド・ドッグらと、反対に父と弟を守って逃げる少女ラオコレを交互に映す。襲撃する側と襲撃される側両方の視点から、同じ戦争を描く仕様になっている。
マッド・ドッグは勇敢で美しいラオコレに惹かれるのだが、少女にとって彼はけだものでしかない。観ている側は、とにかくやりたい放題のガキどもに苛々させられている。だが終盤で、将軍にあっさり見捨てられたときのマッドドッグの顔、少女の決然とした行動に対するマッド・ドッグの反応で、あ、この子も子供だったっけと映画を観る前の状態に立ち戻るのが、なかなか衝撃的な感覚。

マッド・ドッグらは確かに戦争の被害者で、でもここまでやったら、もう無罪ではない。というより戦争が終われば、自分は普通の生活には戻れないと気付くんでしょう。

 

◇リアルさにとても拘るのね

監督は、これが初長編となるジャン=ステファーヌ・ソベールさん。
撮影はリベリアで行われたが、映画内に具体的な地名は出てこない。劇中の出来事は世界各地で起こっていることなのだという意図だろうと思う。マッド・ドッグら少年兵を演じたのは、現実にも兵士だった少年たちだ。

映画での役を実際の人物に演じさせる手法は他の映画にも見られるが、この監督は妥協を許さない人らしく、一年の間彼らと寝食を共にして関係を築き、相互理解を図った。
その成果か、同じテーマが描かれるブラッド・ダイヤモンドより、こちらの作品の少年兵の方が格段に生々しい。例えば、少年たちの言葉の幼稚さと獲物に対するねちっこさ。レイプシーンにしても同世代の少年を取り囲んで殺すシーンにしても、行為は大人顔負けの残酷さなのに、語彙はとにかく貧困だ。敵とみなした相手への小突き回し方や絡み方はしつこく、動物じみていて言葉が通じない様子が絶望感を煽る。

彼らは襲撃シーンについて、自分達から「やり方は分かっているからやらせてほしい」と申し出たそうで、これはインドネシア内戦での虐殺をテーマにしたアクト・オブ・キリングでも耳にしたことがある。こちらも虐殺を行った加害者たちに同様の役を演じさせた映画で、やはり「やり方は分かっている」と虐殺シーンを自分達から積極的に演じてみせたそうだ。

忘れたいであろう体験を演技で追体験させるのは、少年にとって強烈すぎるリハビリのようにも感じるが、映画に現実味を持たせるための手法が彼らにプラスに作用すればと思うし、何より戦争映画としての出来が素晴らしい、そこが重要。

ところで同監督の新作『暁に祈れ』が近日公開となるが、こちらはタイの刑務所が舞台で、囚人をやっぱりホンモノの囚人が演じているという話題作。どこまで「リアルさ」にこだわるのかな?内容は面白そうだけど、ちょっと次の作品では、この手法から脱却して欲しいところ。