Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『独立愚連隊西へ』

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監督:岡本喜八 キャスト:佐藤允加山雄三/1960年

皆さん、大変です。

このブログの過去記事でちらりと取り上げた坂口拓(現在TAK∴)の77分ワンシーン・ワンカット撮影、おっぽり出して忍者になったため未完成だった『狂武蔵』が完成していたことを知っていましたか!
なんと山崎賢人まで出演している。『キングダム』のときに口説かれたんやろなぁ。さらに原案協力に園子温の名もあり、多分これ周囲の人の優しさで完成してるんだろうと思ったね。坂口拓って、人柄、超カワイイもん。昔YouTubeのチャンネル観たことあるけど、みんな好きになるよ、この人。ちなみにチャンネルの名前は「たくちゃんねる」だよ。

あと、現在の俳優名の「TAK∴」ってなんて読むんだろう。「タクさんカッケー」?「タクみつどもえ」? 誰か教えてください。

さて、本日は『独立愚連隊西へ』です。お待たせしましたよね本当に。やっぱり『独立愚連隊』の次は『独立愚連隊西へ』だよねって、皆も気になっていたでしょう、そうでしょう。前回『独立愚連隊』で全滅した独立愚連隊が、今度は西へ行くってよ。どういうこと?

 

◇あらすじ

またしても北支戦線。歩兵第四六三連隊は八路軍の攻撃を受けて玉砕し、軍旗は一人戦場を脱出した北原少尉とともに行方不明となっていた。軍旗捜索を命じられた大江大尉は、危険なこの任務に、左文字小隊を派遣する。この小隊こそ、今回の「独立愚連隊」であるッ!

 

前作との繋がりは、なんとありません。

「消えた軍旗の捜索」により時間が割かれ、敵から守り通した頃にはボロキレとなり佐藤允の腹に巻かれている(そして汗臭い)なんてオチからも、シリーズの根底に流れる反戦の精神をしっかりと継いでいるわけだが、まあ、いい加減飽きたよな・・・反戦の精神も。流石の私も飽きたよ。ただ、この軍旗を巡って、爽やかでニヤっとしてしまうような場面も多く。

さて、舞台はしつこく中国戦線。物語は至極単純だが、前作の俳優の多くが別の人物として出演している点が、何よりもややこしい。

佐藤允:大久保元軍曹 → 愚連隊のナンバーツー戸川軍曹
中谷一郎:石井軍曹 → ピー屋のオヤジ早川
中丸忠雄:藤岡中尉 → 八路軍のスパイ金山中尉
堺左千夫:万年一等兵 → そろばんで隊の運命を占う神谷一等兵
江原達怡:中村兵長 → 小峰衛生兵
(左が『独立愚連隊』、右が『独立愚連隊西へ』ね)

もうよく分からない。同じ俳優を起用するのに特に意図はなく、ただ喜八っつぁんに同じ俳優を起用する癖があるだけなんだろうね。二作を続けて観た上に最近記憶力が落ちている私は、「えーっと、コイツは味方なんだっけ」「こいつのアイテムはサイコロだっけ、そろばんだっけ」と混乱することしきり。

これだけなら変わり映えしないところ、愚連隊=左文字小隊の左文字少尉を演じた加山雄三が凛々しかった~。これが初主演作だそうです。誤嚥は大丈夫でしたか。

加山雄三の豪胆で実直な理想の軍人っぷりと、その少し後ろで「はい」だか「へえ」だが区別のつかない返答をしながら丁稚のごとく付き従う佐藤允とのバディ感が絶妙。前作では危険を察知すると手の平に汗をかくという謎の超能力を持っていた佐藤は、本作では戦場で女の臭いを嗅ぎ分けるというアホな鼻の持ち主である。この二人を先頭に一行が飄々と荒野を行く画には、それだけで幸福感がある。愚連隊のアウトロー感がいや増し、さらに隊のマスコット的キャラであるそろばん占いの神谷一等兵が、物語をコミカルに、そしてリズミカルに盛り上げていく。

・・・そういえば、前回更新通知をTwitterに上げたら、エゴサをされているのだろう佐藤允のご子息から「いいね」をもらったけれど、お父様を潰れたカニだの丁稚だのアホの鼻だの言ってすみません。

映画は軽快な歌と共に始まる。作詞岡本喜八、作曲佐藤勝、歌い手加山雄三佐藤允というもので、歌詞は↓こんな感じ。

 

イー・リャン・サン・スー、 イー・リャン・サン・スー♪
今度は何処だ~♪ 西か東か南か北か
何処へ行ってもハナツマミ ウェイ!

 

軽快とも能天気ともつかない音楽と共に霧の中から現れた愚連隊は、まだ軍旗捜索を命じられるとは知らず当てもなく行進している。佐藤が八路軍の女兵士たちの匂いを嗅ぎつけ、数か月女にご無沙汰の一行は嬉々として彼女達の尻を追いかけるのだが、気が付けば背後から八路軍の大軍に追われている。最後は全員が力尽きて地に倒れ、八路軍と愚連隊は互いに白旗を立てて軍使を送り出す。ここで八路軍の指揮官として登場するのがフランキー堺

フランキーが厳めしく作っていた顔をニカーッと崩すと、加山雄三も表情を緩ませる。

 

「なんなの、君たち、エライ足が速いけどマラソンでもやってた?」
「マラソンはやってないけど、ラグビーやっててさ」
「へぇ、俺は砲丸投げだけど、今のでマラソンも得意になったよ、ガハハ」

 

牧歌的な会話をかわした後、互いにビシッとした表情を戻り、(今日はお互いマラソンをして疲れているので)再び相見えたときこそ正々堂々戦うことを約束し休戦する。
このシーンとこれを布石にした後のシーンが良くてだね。

終盤、行方不明になっていた北原少尉を発見し軍旗を取り戻した愚連隊は、その最中にムードメーカーであったそろばんの神谷を失ってしまう。消沈する一行は八路軍の大軍と出くわし、絶対絶命のピンチを迎えるのだが、その相手は先日休戦をしたフランキー堺の隊だった。

フランキーは軍旗を渡すよう要求、ここまでかと唇を噛む加山雄三の前で、八路軍のスパイとして愚連隊に入り込んでいた中丸忠雄はフランキーに「あいつらは旗を焼いてしまって、もうないぞ」と嘘の報告し、加山にウィンクをして寄越す。中谷一郎は、保護していた中国人の孤児の少年をフランキーに託し、一行は戦闘開始のためその場を離れるのだが、少年は暴れてフランキーの手を振り払い中谷の元に走って来る。

テッテケテッテッテーと小道を走ってくる小僧がとてもかわいく、小僧を代表とする愚連隊と八路軍の間を行き来する人々、その人々によって運ばれる希望や人間らしさといったものが、愚連隊と八路軍対峙のシーンで爽やかに描かれる。

まるで、それを祝うかのように、フランキーは大声で部下たちに号令を下し、何十もの銃が愚連隊ではなく空に向けて発砲される。応じた愚連隊も空に向けて銃を撃ち、両者はまたしても銃口を向け合うことなく別れていく・・・。

今作が素晴らしいのは、こういった敵国との交流・・・なんて言ってしまうと固すぎるような、「彼らも人間だよね」といったシンプルな事実が観客に無理なく入ってくること。戦場の一角で交わされる敵味方を超えた男同士の友情、軍を捨てて中国の女と生きることを選んだ少尉、愚連隊の軍規違反を見逃す大尉のエピソードなどを、ドラマティックに仕立てるのではなくて、さらりと表現しているところが、劇中で描かれる事実同様に粋なのだ。

で、やっぱり、佐藤允がいいんだよね~。どんな困難でも「ちっくしょう」の言葉ひとつで受け止めてしまう潰れたカニのような・・・じゃなかった不敵な面構えが最高。

『日本のいちばん長い日』などの名作もあるが、私はこれまで観た喜八作品の中で、この映画が一番好き。


さてさて、『狂武蔵』はまだ上映しているのかな・・・。あら、イオンシネマ板橋で20時50分からやるから、ちょっと観てこようかしら。チャオ。