Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『アンタッチャブル』

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私は変な人に懐かれがちなのですが、「ヘンな奴だな」って感じた人は、どこまでもヘンなものですよね。数年前、職場に中途採用の女性が入ってきました。年齢は私のちょっと下、人懐こくてコミカルな性格、名を仮に佐々木さんとしましょう。
 
何回か昼ごはんに行くうち、わざわざ会社のメールで「やなぎやさんに、さん付けで呼ばれるのイヤです!ササって呼んで下さい!」と言ってきた辺りからイヤな予感がしたのね。
 
ササは、私や仲の良い同僚たちが着物好きと知ると、自分も着付け教室に通い、私がよく行っていた古着専門の着物屋さんに足繁く通い出しました。それは別にいいのだけど、私が気に入って、でも結局棚に戻したものを「買わないんですかー、じゃあ買っちゃう~」と買うのが嫌だった。
 
どんなに練習しても着付けはド下手クソだし、一度、数人で着物で出かけたとき、思いっきり左前に着てきて全員絶句。「コーヒーには絶対牛乳を入れる」と拘りがあって、海外に行ったとき、お店の人が牛乳はないと言うのに粘って無理やり出させたことを武勇伝にしていた・・・。
 
あ、思い出すと気分が暗くなるわ。ヘンな人だなと感じているのに付き合い続けるものじゃないよね、時間の無駄遣い。
イヤな話をしてごめんなさいね。彼女が大好きといつも言っていた映画がアンタッチャブルだったの。『アンタッチャブル』にちょっと泥が付いたよね。
 
相変わらず、この作品の位置づけも監督の他作品との比較も他人のレビューも研究しないままのだらだらした感想となります。ブライアン・デ・パルマ監督は好きなんだな!
 
 
◇あらすじ
1930年、禁酒法下のシカゴ。財務省から派遣された特別捜査官エリオット・ネスケビン・コスナーは街を牛耳るギャングのボス、アル・カポネロバート・デ・ニーロに敢然と戦いを挑む。ベテラン警官のマローンショーン・コネリーを始め、射撃の名手ストーンアンディ・ガルシア、税理士のウォレス(チャールズ・マーティン・スミス)といったメンバーに支えられ、ネスの捜査が始まる。しかし巨悪カポネの差し向けた殺し屋によって、ひとり、またひとりと犠牲者が・・・。(映画.com)
 
私たちの世代の映画好きにとって、避けて通れない俳優、それがケビン・コスナー。『アンタッチャブル』で成功したコスナーは、フィールド・オブ・ドリームス』(1990年)、『JFK』(1991年)、『ボディガード』(1992年)、『パーフェクト ワールド』(1993年)などで更に名を売った。繰り返し観ていたせいか、当時はダンス・ウィズ・ウルブズ』(1990年)が好きだった。皆さんもやりましたよね、人差し指で角を作り、「タ、タンカ」と言いながら走り回ってバッファローの真似をしたでしょ?
 
その後のコスナーは、額の領土侵攻とともに、『ウォーターワールド』(1995年)、『ポストマン』(1997年)など駄作への出演が重なり段々と忘れられてしまいました。
それでも、やっぱり私達世代には人気の高いコスナー。さあ、敢えて言いましょう。
 
 
声がねえ・・・。
 
 
そう、『必死剣 鳥刺し』にて問題視した豊川悦司と張るくらいに声がひどい。豊川悦司はヘリウムガス系だけど、コスナーは、なさけな系。あと肩幅がとても狭い。従って、バッファローを追いかけようが、犯罪者やポストマンを演じようが、声と肩幅が観る者の脱力を誘う、なさけな型俳優代表が私の中のコスナー。
 
そして、実にイメージ通りの役を演じたのが、この『アンタッチャブル』となっております。この映画、コスナーがカッコイイと皆言うが、カッコいいか!?
 
 
◇なさけな特別捜査官
コスナー演じるエリオット・ネスがどんなキャラクターかは、最初の倉庫手入れシーンで分かる。張り込み車中、ワイフが書いた「あなた、がんばって!」というメモを見てニヤけながらサンドイッチを頬張り、新米の警官に「手入れは初めてか?俺についてこいよ」などと言うが、あんたこそド新任、そして初めての手入れです。
 
この捜査は当然、賄賂を掴まされた警官からカポネ側に漏れており、ネスが酒のボトルだと思って引き抜いたのが和傘の柄という間抜けな結果に。さらに、その傘を開いちゃうところが、まさに私のコスナー。
 
まずはシカゴ暗黒街の洗礼を受けるのだが、ネスのピュアピュアで何の警戒心も抱いていない様子が腹立たしく、また失態を揶揄した新聞記事を、戒めに部屋に貼る優等生ぶりも好かない。
 
しかもこのボンボン、偶然の勢いを借りて、関係のない人々を戦争に引き込む。ストーンはピチピチの警察官だから良しとしても、何事もなく定年を迎えたいベテラン警官のマローン、畑違いの経理のウォレスは完全に巻き込まれ事故。そしてこの二人が、カポネの殺し屋の犠牲者となるのだ。
 
 
男のロマンのテーブル
まあ、男のロマンの映画ですよね。男のロマンなんか知らないけど。巻き込まれ事故、とは書いた。だが実際は、マローンもウォレスも、理性と諦めの中で眠らせていた本能に目覚め、一世一代の狩りに血を滾らせる。マローンはこれまでの鬱憤を晴らすかのように嬉嬉として先陣を切り、ウォレスもカウボーイの気持ちになって興奮する。
 
ネスが妻子を余所へ逃がして身軽になったところで、カポネと闘う決意を新たにし、どこか浮わつきながら夜の道を走る四人。並んで馬を駆るカナダ国境のシーンでは、西部劇に出てくる正義の保安官さながらだ。行き当たりばったりに集まった「アンタッチャブルズ」は、徐々に結束を強めていく。
 
カポネを演じたロバート・デ・ニーロは、本作でも髪の毛を抜いて役になり切る得意のメソッド演技で臨んだ。このスタイルは多少映画を観る人には大体、評判が良くなく、私の周囲では友人のシネフィルS氏などもデ・ニーロを嫌っている。でも、やっぱりカッコいいし愛嬌があるし、私はデ・ニーロ好きだな。「デ・ニーロ」って聞くと、いつもこの映画のオペラを観て咽び泣く顔が思い浮かぶ。
 
ところで、主役の四人とカポネの組織の力関係が「食卓」で表現されるのが面白い。
デ・ニーロ=カポネが権力を誇示する画面は、彼を丸く囲む人々やゴージャスな円卓のディナーなど、円形が特徴的だ。一人や二人欠けたとしてもカポネに何の影響も及ぼさない、組織の巨悪さを誰しもが連想するだろう。
 
対して、ネスら四人が祝杯を上げるのは、ダイナーの四角いテーブル。こじんまりしていて、全員の距離がギュッと近い。各辺を為す四人の、誰か一人欠けても「アンタッチャブルズ」が成り立たないことを示唆している。だからこそ、一人、また一人と欠けていく展開が寂しいのだ。四人でなければ、このテーブルを囲むことはできないのだから・・・。
 

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結束のテーブル。
 
 
◇爺さんの殴り合いと、長回し
私のお勧めナンバーワンは、元は同期だが、片や犯罪組織に膝を折って出世した警察署長と、片や矜持を貫いたヒラの老刑事マローンが、裏通りで殴り合うシーンだ。お互いに自負とコンプレックスを抱かずにはいられない相手で、常日頃はすれ違いざまに嫌味を言い合う程度であったが、ついに本音が爆発。
 
「悪人に尻尾振りやがって」「うるせえ、負け犬」と罵り合いながら、腹の出た身体でよたよたと殴り合う。キレも俊敏さもない無骨なストリートファイトは、視覚的には滑稽で、だが二人の心情を慮れば少々もの悲しい。舞台を照らす赤いライトが、否が応でも雰囲気を盛り上げる。私はこのシーンがとても好きだ。
 
散々に語り尽くされているが、ウォレスとマローンが殺されるときの長回しは見応えがある。特にウォレスの場面は、スタートから嫌な予感しかしない。
 
直前の西部劇のパートで、カポネの組織の一人を捕らえる勝利を収め、警察署に凱旋した四人。カメラは、興奮冷めやらぬままエレベーターに乗り込むウォレスと、中で目を光らせる殺し屋ニッティを映した後、そのまま廊下を歩いてくるネスとマローンへと向けられ、しばらくの間、会話する二人を追う。この間が、観客にとっては嫌な知らせを待つ時間だ。
 
マローンのシーンでは、カメラは、彼を自宅の窓の外から再び長回しで追いかけ、観客にウォレスの死を思い起こさせる。異なるのは、このカメラが殺し屋の視点になっていることだ。殺し屋は、部屋の窓を開けて中へと侵入し、マローンの背に迫る。マローンが銃を持って振り返ったときにはホッとするのだが、切り替わったカメラが映す殺し屋はニッティではない。「どこかにアイツがいるからそっち行っちゃだめ~」との祈り虚しく、殺し屋を銃で脅して追い立てたマローンは、外に潜んでいたニッティに蜂の巣にされてしまう。何度も観ても、ショッキングだ。
 
 
◇ネスさんが本領を発揮する
さて、マローンの自宅に駆けつけたネス。野次馬を掻き分けて家の中に飛び込み、血塗れで倒れているマローンを発見、そして叫ぶ。
「ガァッ、デェーム!」
 
 
ちょ、待てよ(キムタク)。
 
 
この時ほどコスナーの声の高さを呪ったことはない。吐き捨てるでもなく、低く口の中で呟くでもなく、「ガァッ、デェーム!」と甲高い、こう言ってはなんだけどアホみたいに軽い声なのだ。
 
マローンは老骨に鞭打ってストリートファイトを演じ、命と引き換えに重要な情報を入手した。しかしネスと来たら、何ひとつ役に立たない上に、一度は戦いを投げ出しかけたのだ。まったく、こっちがガッデムだよ。
 
それにしても、マローンを演じたショーン・コネリーは死に掛けの演技が本当に素晴らしい(大事にしていたキーチェーンを投げ捨てるのが泣ける!)。 インディ・ジョーンズ 最後の聖戦で、ドノヴァンに撃たれた後の、今にも死にそうなパパ・ジョーンズもいい〜。
コネリーさんには、特別賞として『死に掛けでショーン』を贈りたいと思います。喜んでもらえるかしら?
 
名シーンと語り継がれる駅の階段シーンは、もちろん名シーンだ。異論はない。しかしカッコいいのはストーンである。走りながらネスに銃を投げ、落ちてくる乳母車の下に身体を滑り込ませて足で平衡にキャッチ。その態勢のまま、帳簿係を人質に取ったマフィアの男に、ひたと狙いを定める。どれだけマルチに仕事をこなすのか。
 
ここで、ネスの「狙いは?」との問いかけに対するストーンの台詞については、皆さん自分なりのベストがあるようで。私は昔、洋画劇場で観た際の「完璧です」なんだな。大人になって以来、何度も観ているけれど「完璧です」には当たったことがない。「任せろ」とか「バッチリ」とか、どれもしっくり来ない。
 
さて、場面を少し前に戻そう。ストーンの動きは冷静かつスピーディ、だが、そこに至るまでのネスの行動がドンくさい。ネスだけでなく、件の乳母車を押した母親が異様にドンくさい。階段の下で、赤ん坊(というにはデカい子供)を乗せた乳母車と荷物を抱えて右往左往し、荷物を置いてみたり、やっぱり持ったまま乳母車を一段ずつ引き上げたり、かれこれ30分ほども(やなぎや体感時間)エッチラオッチラ、のたくっている。
 
そしてネスも、身を潜めて帳簿係を待ち伏せながら母親のことが気になってしまい、「えー、どうしよ、手伝うべき?でもなあ」と、これまた30分ほども(やなぎや体感時間です)、のたくっているのである。手伝うなら、とっとと手伝いなさいよ。
 
結果的に、ネスの優柔不断が先程の事態を招き、ストーンにケツ拭いてもらう図式なんやでええ。偉そうに「狙いは?」じゃないわ。
 
さらに、ネスはラストで感情に任せて殺し屋ニッティを屋上から突き落としてしまう。その際の顔と言葉はまるで小学生。ここでも毎回、「成長のないやっちゃな・・・」と幼稚さに呆れるのだが、他の皆さんはどうなのだろうか。是非とも聞いてみたいです(ほら、ササと話しても、お約束通り階段のシーンがカッコいい!しか聞けなかったもんで)。
 
ここまでの感想で誤解を生んでしまったかもしれないが、私はコスナーが好きだし、この映画も、かなり好きである。

終始ネスのダメっぷりに着目している私から観れば、これは「警察官」の映画だ。門外漢の役人が気焔を吐いて捜査に乗り出すが、何もできず警官たちに助けられ教えを受ける。だが最も敬愛する警官を失い、警察を去る悲しい男の物語。
 
ネスがストーンに、マローンの形見のキーチェーンを渡すのは、単に彼が警察官であるからでなく、自分は「そちら側」には立てなかったことへの苦い思いがあるのではないかと思うのだ。
 
ところで、やなぎやは地獄の盆休みに入ります。映画があまり観られません。島に行きます。海とプールが、あんまり好きじゃありません、焼けるし頭痛くなるしベタベタするし。アジアのどっかを、ひたすら歩く旅行なんかがしたいよなー。