Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『ハイドリヒを撃て!』

f:id:yanagiyashujin:20181129161005j:plain

監督:ショーン・エリス キャスト:キリアン・マーフィジェイミー・ドーナン/2016年

※原題:『Anthropoid』、邦題:『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』。

邦題には触れまい。ポスターもなんかひどい。

 

◇あらすじ

第2次世界大戦直下、占拠地域をヨーロッパのほぼ全土に広げていたナチスで、ヒトラーの後継者と呼ばれたナチス高官ラインハルト・ハイドリヒは、ユダヤ人大量虐殺の実権を握っていた。ハイドリヒ暗殺計画を企てたイギリス政府とチェコスロバキア亡命政府は、ヨゼフ、ヤンら7人の暗殺部隊をパラシュートによってチェコ領内に送り込む。(映画.com)

 

先日プルートで朝食をを観ていたら、夫がキリアン・マーフィを指して「なんでこの人好きなの?」と言ってきた。は、見ればわかるざんしょ?高橋一生がエロカッコいいと言われることに、この島国の限界を感じ絶望している私に、そんなことを訊かないで下さい。
しかし、確かにプルートでは、あのエロボイスが封印されている上、まあ色々わからないですね。そこで、キリアンがエロカッコよさを際限なくダダ漏らす『ハイドリヒを撃て!』を観せることにしました。ピーキー・ブラインダーズ』でも悶えますが、映画ブログなので自制します。

 

f:id:yanagiyashujin:20181129155042j:plain

ヒィィィィ!カッコEEEEEEEE!どうぞもっと上から見下ろしてェェォォ!

 

◇七割地味問題

先に言っておくと、この映画、七割は退屈です。基本的に男達が狭い部屋に籠もり、密談したり抑えた声で怒鳴り合ったりしているシーンがほとんどなので。
私はキリアンをガン見し続けているので、気にならないけどね。貌つきはもちろん、また劇中の髪型が好きでだね。片側に流した長めの前髪を、たまに煙草を挟んだ指で払ったりするの。たまらん。もっとたくさん映画出てよー。

映画が始まって30分ほどで、隣で夫が「たしかに、キリアン・マーフィ、かっこ、いい、ね」と言い残して舟を漕ぎ出しました。更にイライラしたのが、実行メンバーのトップであるオパルカ少尉が映ってるときにハッと目を覚まし、「あ、チョルルカ先輩だっけ・・・」と。誰だよチョルルカって。十中八九サッカー選手だろうけど、先輩ってなんだよ。

 

◇女は必要か?問題

パラシュートでチェコに潜入したヨゼフとヤンは、レジスタンスの幹部であるハイスキー(トビー・ジョーンズ)やヴァネックらと面識を得て、民間人の協力者の家に潜伏しハイドリヒ暗殺の計画を立てることとなる。
そこで登場するのが二人の女性マリーとレンカだ。当初はヨゼフらが街中で情報収集を行う際に怪しまれないよう、カップルを装うための要員なのだが、ヤンはマリーに、ヨゼフはレンカに惹かれていく。

前半の退屈さは多分にこの恋愛パートにあると思っている。特にヤンは露骨にマリーに一目惚れするので、任務か恋かの板挟みになる未来が当然予測でき、サスペンスフルな展開を期待する観客にとっては、いきなり水を差される形となる。大体この映画を観る人は、いかにしてナチの野獣(笑)を仕留めるのかの智謀知略戦、硝煙漂うドンパチが見たいのであって、その点が据え置かれたまま、女のせいですっかりビビったヤンの「怖い・・・俺たち逃げられるのかな」などの姿を見せられればシラけることは必至。

 

この作戦は、暗殺そのものもさることながら、事後に課題がある。徹底的な捜査網が敷かれ、苛烈な報復を受けるだろうことは想像に難くなく、ましてや実行者が無傷で国外脱出できる可能性などほとんどない。非情な任務に赴く男達の、決意を挫く要素として女を登場させる(しかもそれぞれになんとなくタイプがマッチしてるんだわ)、恋を通して彼らの人間的な部分を描きたい気持ちはわかるが、そのやり方は手垢がつきすぎている気がしてしまう。そして後述するが、無駄な時間も食う。

彼らがシビアな状況下でふと気を緩ませる瞬間、愛しい人に想いを馳せる表情を映したいのであれば、写真一枚の道具でよかったのではないでしょうか。奇しくも、ヨゼフが窓際で煙草を咥えながら、レンカの写真を取り出して見つめるシーンがある。これでいいじゃん。あ、恋人いたんだ、どんな女性だったのかな、って観客も想像する、その方がいいじゃん。

ただ、このロマンスパートは、二人の男を比較し、それぞれの人物像を観客に理解させる効果はある。ヤン&マリーカップルがとっととデキ、匿われている一家の食卓にて「発表がありまーす!僕のプロポーズを彼女が受けてくれました!」と言い出す最高に空気を読まない奴らであるのに対し、ヨゼフとレンカは直情的な2人に苦笑し、部屋の中で手を取り合って静かに踊り、想いを確かめ合う。つまり彼女らの存在は、ヤンとヨゼフの性格と、任務への覚悟の違いを明確に伝えてくれる。

またヨゼフは、よく銃を持つ手がブルブル震えるヤンに比べ、ほぼ私情を見せない冷徹な男だが、あるシーンではレンカのおかげで彼が感情を爆発させる姿を一分くらい拝むことができる。ちなみにレンカは桐谷美玲レベルのガリガリレディ。色気はゼロである。

 

f:id:yanagiyashujin:20181129155014j:plain

泣いて取り乱すキリアンの麗しき姿を、一分だけ我々に届けてくれた。ありがとうレンカ(写真なし)。

 

◇煙草吸いまくりの件

もう一つ、ヨゼフの神経質で脅迫観念じみた性格を示すのに、効果的な装置が煙草だ。とにかく煙草をよく吸う。ピーキー・ブラインダーズ』でも、常に煙草と酒をやってらっしゃる。彼の習慣、性格を表す効果以上に、絵になるんだわー。

 

f:id:yanagiyashujin:20181129155051j:plain

もう、悶え死ぬ!!

 

現実で煙草が好きかと言えば、吸わない人間としては、当然傍で吸って頂かない方が有難いし、洋服や髪に匂いがつくのは嫌いだ。歩き煙草をしている人間を見たら不快になる。だが、キリアン・マーフィが煙草を咥えながら歩いていたら許す。私は映画の中での煙草が好きなので、居酒屋で煙草吸ってる人に対し顔を顰めるような行動はしませんよ。

 

◇何故前半退屈か問題

ロマンスに時間を割いたことで、この映画に必要な描写が為されなかったためと個人的には思っている。すなわち、いかにチェコの人々がナチスとハイドリヒの圧政に苦しめられていたかの描写だ。ラインハルト・ハイドリヒは、SSではヒムラーに次ぐ地位の人間、いわばナチスのナンバー3。残忍さゆえに「金髪の獣」「プラハの虐殺者」と呼ばれた。

ヨゼフらの計画に反対するヴァネックに、その理由として「ハイドリヒを殺せば、チェコが地図上から消える」とまで言わしめるナチの恐ろしさ。これをマリーの、「人種や宗教、タバコが理由で殺されるのよ」という台詞のみで説明するのは乱暴だし、度々申し訳程度にドイツ兵が行進したり人々を小突く場面が挿入されるが、それで「恐怖」を表わそうとはあまりに杜撰じゃないの。
ヨゼフらが任務に命を賭ける理由はなにか、その点を設定として観客にインプットしなければ、せっかく力を入れた終盤が生きない。
従って、やはりロマンスパートはざくっと諦めて、ナチどもがいかに憎むべき存在かを描いて欲しかった。そうすれば、最後まで抵抗し続ける男たちの姿を、よりリアルな絵として観客に伝えることができただろう。

 

◇「メガネ、メガネ」

地味な七割を引いた三割に当たるのが、ハイドリヒ襲撃と教会立て篭もりの攻防だ。襲撃シーンについては文句ないし、教会での激しい銃撃戦は迫力と絶望感に満ちていて良い。しかし終盤の見どころについては、暗殺計画を全面的に支援したトビー・ジョーンズ演じるハイスキーの死に様が、かっ攫ったと言わざるを得ない。

ナチの追跡の手が迫っていることを感じ、隠れ家にて服毒自殺する覚悟を決めているハイスキー。おもむろに眼鏡を外して置き、バスルームへ。毒薬のカプセルを取り出すが、ナチ共の扉を破る音に手が震え、床に落としてしまう。眼鏡なしでは物が見えないハイスキーは、這いつくばって両手で床を撫で、必死にカプセルを探す。

ある程度の年齢以上の日本人なら間違いなく、「メガネ、メガネ・・・」と思うシーン。誰もがハイスキーの危機に息を飲んだらいいのか、横山やすしの姿を重ねて噴き出してよいのかと迷い、この緊迫した状況で完全に気を散らされる、全日本人殺しのシーンなのだ。 なんでメガネ外してきたのよ?


ナチ共はバスルームの扉の前まで迫るが、ハイスキーはまだメガネ、じゃなかった、カプセルを探している。ついに扉が破られる。

f:id:yanagiyashujin:20181129155114j:plain

ジャン。よかったよ、無事死ねて・・・。天国では眼鏡なくすなよ。

 

というわけで、キリアンのエロカッコよさ、トビー・ジョーンズの「メガネ、メガネ・・・」が見られる良き映画ですぞ。是非、ご鑑賞下さい。