Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『ワイルドライフ』

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監督:ポール・ダノ キャスト: キャリー・マリガンジェイク・ギレンホールエド・オクセンボールド/2018年
 
以前、世間の四、五歳児のブームが「ウ●コ」であるところ、うちの息子の場合は「ブタみたいだね。」であると報告をしました。ところが最近になって、「おんか(おかあさん)、この絵見て~。水色のウ●コ!」などと言うようになり・・・。遅れてのウ●コ期到来。世のガキのウ●コ期が、うちの息子のブタ期なのだと思っていたのに、これはどういうこと?息子にだけ余計なブタ期があったということ?
 
このウ●コ期、就学前には終わると思うでしょう?
小二の娘の報告によれば、先日給食に渦巻き状のデニッシュが出た際、男子がそれを分解して細長くし、「ウ●コ!」と言ったそうで。しかも、それをやったコに他の男子が「マジでお前、天才だな・・・」と羨望のまなざしを向け、次々とデニッシュを解体し出したというのです!男子のアホ期、いつ終わるのでしょうか。
 
最近の息子の流行りは私に「おんかは、まだつかえるよ」と優しく囁いてくること。「おんかはまだ、ここ何年かつかえるよ」「おんかは、まだ下駄としてつかえるよなど日々恐ろしいアレンジを加えてくる五歳児!ひぃぃぃ~っ、本気で将来が心配。
 
さぁ。本日はアホ男子とは縁遠く、大人にならざるを得なかった少年のお話ワイルドライフです。少年ジョーを演じたのはエド・オクセンボールド。おじいちゃんのオムツ&おばあちゃんのオケツ映画として知られる『ヴィジット』(2015)で、少年タイラーを演じていたコだよ。あのラップは最高だったよね。
 
 

◇あらすじ
1960年代、モンタナ州の田舎町で暮らす少年ジョー(エド・オクセンボールド)は、仲の良い両親ジェリー(ジェイク・ギレンホール)とジャネット(キャリー・マリガン)のもとで豊かではないが幸せな毎日を送っていた。ところがある日、ジェリーがゴルフ場の仕事を解雇され、山火事を食い止める危険な出稼ぎ仕事へと旅立ってしまう。残されたジャネットとジョーもそれぞれ仕事を見つけるが、生活が安定するはずもなく、優しかったジャネットは不安と孤独にさいなまれるようになっていく。(映画.com)
 
お待たせしました、ジェイク・ギレンホール祭り第二弾です。いつ、そんな祭りが始まったんだ。さっきだ。そして今回で終わる。

監督は、本作が初監督作品となるポールのダノちん。ジェイクが立ち上げたナイン・ストーリーズ・プロダクションズ製作作品です。
ダノちん&ジェイクと聞いて誰しもが思い浮かべるのが、コレ↓ですよね。
 

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ジェイクの取り調べに、「ノオーゥ」「ノオーゥ」と気持ちの悪い声を出すダノちん(『プリズナーズ』)

 
 
父親の失業をきっかけにバラバラになっていく家族を描いた本作。
物語は、越してきた地で得たゴルフコーチの職を、ジェイクが早々にクビになるところから始まる。この時点では、まだ優しく、しっかり者の妻キャリーは「あなたならもっといい仕事がある」とジェイクを励まし、「父さんは失業する度に仕事を見つけてきた」とエドを諭す。しかし、家庭に燻っていた「職の安定しない父親」という下火は、ついに大火事を引き起こすことになる。
 
家族の変化は、主にエドの目を通して描かれていく。ゴルフ場で父を見守るエドの不安気な表情から、観客はジェイクが解雇されたことを知り、キャリーがその事実を告げられるシーンでは、彼女に据えられたカメラが、エドが何より母の反応を心配していることを伝える。
 
このように、エドは自分のことよりも両親に気を配る大人びた少年だ。対して、本作のジェイクは、甘ったれでプライドの高さゆえに転職を繰り返しがちなドリーミング野郎。後日、ゴルフ場のオーナーからあった復職の申し入れも蹴り、ついには「俺は山火事を消しにいく」と家を出ていってしまう。
 
山火事は、その出来事自体は重要でなく、火種がやがて燃え上がる様が、また「下草を焼き払い森を再生させる」という点で、家族の有り様を象徴している。
 
エドは父の行動を、驚きつつも受け入れようとする。初雪が降る頃には父は帰る、父が帰れば家族は元に戻る、というエドなりのゴールがあるからだ。だからこそ、父よりも醜く年を取った男と関係を持ち、子供のように甘える母に理解が及ばず、困惑してしまう。
 
 

◇バービー人形としてのキャリー
ここからのキャリー・マリガンの、良き妻良き母であった女性が変貌していく様は見ものだ。行動や口調も然りだが、心理的な変化を表すファッションが楽しい。まずはピンク色のカーディガン。最初にこれを羽織っているキャリーは慎ましくも野暮ったいが、ジェイクが去った後、同じカーディガンを素肌に着て庭に立つ場面では憂いを含んだ表情も相まって色っぽい。
 
突然、私のファッション感をぶちこんですみませんが、カーディガンってのは、すごいヤツだと思いませんか。シャツの上に羽織ると清潔感があってキチンと見えるし、同じ服装でも袖を通さず肩に掛ければ、ユルッと力の抜けた感じに。「オンオフの切り替えにマストなヘビロテアイテム☆オフィスでのデキる女風からカレとの夜デートでは、さりげなくスキを演出して!」 とか定期的にファッション誌でも取り上げられている、たぶん。
前ボタンを留めて一枚で着れば、カジュアルにもセクシーにも使えるじゃないですか(あ、こういう言い方するから、息子が「つかえる」とか言うのかしら・・・)。
 
キャリーのカーディガンの着方を見て、私は、ほらね!と思った。
「おかあさん」だった人が、見知らぬ女性に見える瞬間、それを演出する小道具としての厚ぼったいピンクのカーディガンです。
頭を包んでいるスカーフは、ちょっと私には使いこなせない。あと、私はリカちゃんでなくバービー派だったの。
 
赤のセーターに深緑のワンピースといったキャリーの服装は彼女の変化を観客に印象付け、若い頃に好きだったという、やや幼稚な紫のブラウスをはしゃいで着て見せる頃には蓮っ葉ささえ感じさせるように。極めつけは、浮気相手のミラー宅を訪ねる際の背中と胸がばっくり開いたドレス。比例するように、彼女の振る舞いはヒステリック且つ幼いものへと変わり、反抗期のごとく親を放棄した母と冷静にならざるを得ない子の、母子逆転現象が起こってゆく。
 
その間、山火事を消しに行ったジェイクは、まったく出てきません。
 
 

◇家族は再生できるか
キャリーの行動を「浮気」と呼ぶのは、どうも違和感がある。ミラーに惹かれたというよりは、若くして結婚した過去を悔い、別の人生をやり直したいと望んだ結果、短絡的な思考が向かわせた先が権力のある男を得るという選択だったのだろう。ミラーは、たまたまそこにいた金持ちで包容力がある(ように見える)男に過ぎない。
 
やがてキャリー自身も、この状況が本当に自分が望んだものであるのかが分からなくなった頃、ようやく初雪が降る。母を持て余し、父のいる山に向かおうとバスを待つエドの前で雪が舞い出し、エドがバスに乗らずに駆け出すシーンは美しい。
 
さて、初雪とともに舞い戻ったものの、妻の裏切りを知って荒れるジェイク。
 
あ、やっぱり、そこは怒るんだね・・・。怖い怖い、その、いきなりバーン!って席立ったりされるのコワイ。いやまあ、怒るだろうけど、放ったらかしてったの、おまえやん?
 
キャリーの相手がミラーであると知ったジェイクはミラー宅に突撃、ガソリンを撒いて放火する。
 
 
さっきまで火ィ消しに行ってたのに、火ィつけた。
 
火消したいの?つけたいの?
さすがジェイク、考え得る中でも最悪の報復手段を採って私をびっくりさせてくれたが、この騒ぎにより現実へ引き戻されたキャリーの反抗期は終わりを告げる。

その後、家族はどうなったのか。
 
本作の印象的なジャケットは、エドがアルバイトをする写真店で家族写真を撮ろうとするシーケンスの一幕だ。
円満であった頃の食卓ではエドが中心になり、三人の支点を担っていた。事件の後、各自が異なる席についた同じ構図の食卓は、家族のちぐはぐであることを感じさせる。
 
だが、エドの発案で写真を撮るとき、それまで視線を合わせなかったキャリーとジェイクの二人は、エドのために空けた椅子を挟んでそっと視線を交わす。再生の予感を感じさせるラストシーンだった。
 
徹底的にぶっ壊すことで再生を試みる映画と言えば、同じくジェイク主演の『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』(2015)を思い出さずにはいられない。ジェイクがとてもジェイクらしい良い映画だったが、本作でも、積み上げたものを壊し、更地としたのちに再生させるところが共通している。
あと、どっちも原因は自分。←ここポイントね。
 
ジェイクには、今後もぶっ壊し俳優として、ぶっ壊し映画に積極的に出演して頂きたい。
 

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そういえば、キーボードもぶっ壊してたな❤︎