『モネ・ゲーム』
監督:マイケル・ホフマン キャスト: コリン・ファース、キャメロン・ディアス、アラン・リックマン/2012年
英語が話せないことで有名な日本人ですが、私の周囲は両極端、仕事場には英語が流暢で外国人とのコミュニケーションにも手馴れている人が多いです。
しかし、当ブログに何度か登場している友リエコなどは「そちらさんが日本語を話されたらええでっしゃろ」の姿勢を崩しません。
しかし、当ブログに何度か登場している友リエコなどは「そちらさんが日本語を話されたらええでっしゃろ」の姿勢を崩しません。
ある日、お店で食事をしていたとき。リエコが隣でビジネスランチ中の七、八人のフランス人に「ちょっといいですか」と突然話しかけ、「その料理ってなんですか?私も同じものを頼もうと思って」と完全に先方の会話をぶった切ったのには冷や汗をかきました。
またある日、着物で歩いていたら、外国人からパシャリと写真を撮られました。リエコはツカツカとそちらに歩み寄り、「いま何したの?写真?みせて」とデジカメを確認。そして、「コレ、写りが悪いから撮り直してくれる?」と撮り直しをさせていました。
なんで通じるんだろね?
こんな話をするのは、今日の映画と関係があるような。ないような。
コリン・ファースの雇い主ライオネルの商談相手として、日本人の集団が出てきます。英語は全く話せず通訳頼み(また通訳の英語がひどい)、全員揃ってドーモドーモとお辞儀する姿は、歪曲された悪しきイメージのジャパニーズ・ビジネスマン。脚本が日本に興味がないコーエンズなので(やなぎやの持論です)仕方ないと思いつつも、ここだけ観ると、あまりにも極端で悪意を感じるの。
実際、「人種差別だろ」なんてレビューも見かけましたが、よーしよし、どうどうどう。これ、フリなので大丈夫です。
ネタバレ全開でいきます。
この映画のラストを指して「どんでん返し」とするレビューの多さにびっくりしております。
本作のオチは、どんでん返しではなぁい。
と思うよ!
◆あらすじ
ジョエル&イーサン・コーエン兄弟が脚本を手がけた犯罪コメディ。学芸員のハリー(コリン・ファース)は、相棒の”少佐”(トム・コートネイ)と共に、印象派の巨匠モネの名画「積みわら」の贋作を制作する。協力者のPJ(キャメロン・ディアス)が絵画の所有者になりすまし、億万長者シャバンダーをカモにしようとするが、次々とトラブルに見舞われる。
『泥棒貴族』(1966)のリメイクですが、似て非なる映画となっております。
簡単に言うと、大手メディアグループの経営者ライオネル・シャバンダー(アラン・リックマン)の絵画蒐集癖に付け込み、彼の専属キュレーターであるコリン・ファースが、仲間の”少佐”と共に、贋作を売りつけようする話だ。ターゲットとなる絵画がクロード・モネの『積みわら』。一言に『積みわら』と言っても、同じ対象物を異なる時間や季節、天候の下で描き分けたもので、わらクズの山の絵が何十枚と存在する、素人にしてみれば、けったいな美術品だ。
ライオネルが執着しているのは『積みわら(夜明け)』と『積みわら(夕暮れ)』で、前者はオークションで日本人実業家に競り勝ち、現在彼の屋敷の美術室に収まっている。コリンらの計画は、贋作名人である少佐が描いた『積みわら(夕暮れ)』の絵がライオネルの目に留まるように仕向け、持ち主に仕立てたPJに1200万ポンドで交渉させるというもの。
コリン・ファースもキャメロン・ディアスもアラン・リックマンも好きな俳優です。
英国紳士の印象が強いコリンだが、本作ではコミカルで間抜けな姿を見せてくれる。ライオネル・カモ作戦を現実にするため、テキサスにPJを訪ねるコリンと少佐。事はトントン拍子に進み、彼女は喜んで計画に参加、ライオネルをうまいこと騙くらかし、華麗に1200万ポンドを奪取する・・・という冒頭の一連の流れは、まさに観客がコリンに期待するスマートな展開だ。
しかし、これは全て妄想。劇中のコリンは人と話すのも下手なら空気も読めず、やることなすこと裏目に出てしまう間抜けな人物である。
コリンの妄想の中のライオネルは粗野な振舞いやファッションセンスが笑ってしまうほどひどいのだが、これはコリンの逆恨みと嫉妬から生じた歪んだ虚像で、実際のライオネルはビジネスセンスを具えた傑物だ。
こんな情けないコリン・ファース、イヤよねー。
この冒頭で、きちんと説明されている、コリンは「都合よく妄想してしまう人物」であることが。ここを忘れないで欲しい。
この冒頭で、きちんと説明されている、コリンは「都合よく妄想してしまう人物」であることが。ここを忘れないで欲しい。
◆アンジャッシュ的「すれ違いコント」
たまたま私のツボにハマったのか、ハリーのSAVOYホテルのホテルマンとのやり取りや、飾られていた美術品を盗んで右往左往するくだりは爆笑もの。
フロントでのチェックインの場面。前のシーンで、ハリーはズボン(股間に近い部分)を氷で濡らしてしまう。濡れた箇所を拭いていた少佐のハンカチにオイルがついていて逆にシミになってしまったなどと、「ズボンのシミが取れない」描写が不自然なほど続くのだが、これはフロントマンとのコントのための前振り。
コリンとキャメロンは、「少佐の(ハンカチの)せいで、シミが」「少佐は百戦錬磨なんだぞ」と、仲間の”少佐”を指して話しているのだが、フロントマンの二人は「少佐=コリンの下半身」であると解釈する。隠喩を用いた会話術を余儀無くされる職種だからこその、心得顔がイチイチおかしい。
同じ事について話しているのに、互いの解釈が異なることで生まれるズレ、要はお笑いのアンジャッシュのすれ違いコント的手法と言えば分かってもらえるかしら。
さらに、ハリーはバカ高いホテル代を捻出するため、廊下に飾ってあった明の壺を盗み、ホテル内を右往左往するうちにズボンを失う。
・・・あ、唐突でしたかね、スボンの失い方が。めんどくさいので、ここは観て頂戴。とにかくズボンを無くしてパンツ一丁でウロウロするうち、一人で滞在している婦人の部屋に侵入してしまう。そこに例のホテルマンがバレエのチケットの件で、婦人の部屋をノック。
婦人は、部屋の中のコリンに気付いていない。ホテルマンからは、下半身パンツ一丁のコリンが見える。
ホテルマン「・・・チケットは一枚でよろしいので?」
婦人「?」「ええ、もちろん」
ホテルマン「では、よい夜を。この部屋には誰も取り次ぐなと言っておきますので」(ドヤ顔)
婦人「?」「すぐベッドに行くわ。夫も出かけているし」
ホテルマン「・・・それはそれは、さぞお寂しいことでございましょう」(ウインク)
婦人「?」「ええ、もちろん」
ホテルマン「では、よい夜を。この部屋には誰も取り次ぐなと言っておきますので」(ドヤ顔)
婦人「?」「すぐベッドに行くわ。夫も出かけているし」
ホテルマン「・・・それはそれは、さぞお寂しいことでございましょう」(ウインク)
との会話が為され、ホテルマンは、コリンの”少佐”が相手問わずの百戦錬磨である確証を得る、と。
文章で書いても面白さが伝わらないので、是非観て頂きたい!
◆スマートなコリンを疑え
コリンの中では、優秀な自分と成金ライオネルだが、現実は反対である。コリンの無能さに愛想をつかしたライオネルは、代わりのキュレーターとしてドイツ人のザイデンベイバー(スタンリー・トゥッチ)にオファー。これを知ったコリンは姑息な手段で、ザイデンベイバーの方からオファーを断るよう仕向ける。
そんな中、ライオネルの別荘で行われたパーティでは、日本人ビジネスマンとの商談と、キャメロンが持ち込んだ『積みわら(夕暮れ)』の鑑定と価格交渉が行われようとしていた。
ここまで『積みわら』の存在を忘れていたでしょう!私もです。
ライオネルの美術室に入り込み、『積みわら(夜明け)』(ライオネルが過去に競り落とした本物)をいじくり回すコリン。その後ろを、どこからやってきたのかチョロチョロ動き回る変な種のネコ。何度目か、コリンが違和感を感じて振り返ると、そこにはネコではなく、ライオンがいた。
・・・ここはもう流しましょう。ライオネル曰く「特別なセキュリティ」らしいが、あまり深く考えても仕方ない。「ライオン」=ライオネルorコリンが理想とする自分自身、「ネコ」=実際のコリン、のメタファーかと思うので。
キャメロンがテキサスで鍛えた投げ縄によりライオンを捕獲すると(ウソや)、絵をいじくり回されたことに激怒してライオネルがやってくる。三人の目の前には、本物の『積みわら(夜明け)』と、”少佐”の描いた贋作の『積みわら(夕暮れ)』。
本来ならコリンが贋作を本物と鑑定する作戦だが、そもそもライオネルに全く信頼されていないので、始めから計画は破綻している。ここに突然、隣室のドアが開き、ザイデンベイバーが入って来て、おもむろに『積みわら(夕暮れ)』の鑑定を始める。
さあ、ピンチである。追い払ったはずのザイデンベイバーは、ドイツで実績と名のある学芸員。しかし、驚いたことに彼は贋作を「本物だ!」と断言。と思ったら、コリンが「いや、これは偽物だ」と、芸術を愛する者としてのプライドを見せるのである。消沈するライオネルを残し、堂々と別荘を後にするコリンとキャメロン。
ここからが「どんでん返し」だ。
コリンと”少佐”が空港に向かうと、例の日本人ビジネスマンの集団と、以前ライオネルと『積みわら(夜明け)』を競ったタカガワ氏が待っている。そう、コリンの狙いは始めから、ライオネルが所蔵する『積みわら(夜明け)』を贋作とすり替え、タカガワ氏に渡すこと。ジャパニーズと組んで企てた計画だったのである。
かくして、タカガワ氏から絵の代金を受け取ったコリンと”少佐”は、意気揚々と華麗に去っていく…。
ちょ、待てよ。(キムタク)
ういー、待った待った!なんでこれが「意外な結末!」「そういうことだったのね!」となるのか!?
繰り返すが、コリンは「都合のよい妄想をする」名人なのだ。ちょっと、ザイデンベイバーがいきなり入ってきたところまで戻って欲しい。
大体、何故、ザイデンベイバーは招待客としてではなく隣室から湧いて出たのか。タイミングも都合がよすぎる。そして、確かな鑑定眼を持つ彼が、なぜ贋作を「本物だ」と見誤るのか。なぜ、ここまでプライドの欠片もなかったコリンが、突然絵画に対する敬意を示してみせたのか。
もちろん、ザイデンベイバーが部屋に入ってきた時点から、コリンお得意の妄想に移行しているのである。
さらに言えば、”少佐”も虚構の人物であろう。
コリンが作り出した、都合のよい相棒だ。根拠はシンプル。少佐は二度ほど、「有能なディーン氏(コリン)にも」「いかに優秀なディーン氏と言えども」と言う。コリンが優秀であるのは妄想の中のみ、つまり少佐も妄想が作り出したキャラクター。
大体、「少佐」っておかしいじゃないの、皆さん違和感は持っていたでしょう。何者なのよ?二人の関係は?なんでいつも、ぴったりとコリンの横にいるの?って。
カッコいいことを言うと、『モネ・ゲーム』自体が、観客に仕掛けられたゲームだよということだ(やなぎやさんカッコいい!)。現実、コリンがどうなったかはどうでもいいが、まあライオンに殺されたのかもしれないね!
では最後は、素敵ビジネスマンだったアラン・リックマンが、キャメロンを口説く際の唸り声でお別れしましょう。
「まだキミにシャバンダー・ライオンを紹介していなかったかな・・・。ガルゥ」
がるるゥ!
引用:(C)2012 Gambit Pictures Limited