Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『イングロリアス・バスターズ』

 

 

◇あらすじ
1944年、ドイツ占領下のフランス。ナチスのランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)に家族を殺されたショシャナ(メラニー・ロラン)はパリに逃れ、その後小さな映画館のオーナーとなっていた。彼女の映画館で、ナチス宣伝相ゲッベルスが製作した映画『国家の誇り』プレミア上映会が行われることとなり、ショシャナはナチス高官を映画館ごと焼き尽くす復讐計画を練る。一方、ナチスを標的とするアルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)率いる連合軍の極秘部隊「イングロリアス・バスターズ」も、プレミア上映会でのヒトラー暗殺を企てていた。
 
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、盛り上がってますねー!いいな、いいなー、私も映画館に観に行きたい。
 
「好きな監督って誰?」と質問されてもパッと答えられないんだけど、タランティーノは昔から大好きな監督です。日常生活で、監督に関する質問してくる人なんていないけど。やっぱり「おススメの映画ってなんですか?」と訊かれますよね。
先日、部の打ち上げで最近観た映画の話になり、今年新卒の男の子が「あ、あれ映画館で観ました。戦争映画で、どっかを攻め落とそうとするやつ」。
 
すげーな。それで題名を挙げられる人間がいたら、紹介してくれよ。
(正解はハクソー・リッジだった)
 
でね、タランティーノって、デートでしか映画館に行かない人たちと話すときには注意がいると思うんです。「『映画に詳しくないと分からない』臭に満ちてて鼻につく」と言われることが多いの。私は「えっ。映画大好きなオタクのおっさんじゃないの」と思うんだけど、これ、確かにタランティーノ信奉者にも原因があって。
 
例えばタラ好きの彼が彼女と映画に行き、「ここが分からなかったー、あれってどういう意味?」「グロかったー」と邪気の無い感想を提示されたとして、「あれがタランティーノだからw」「俺からしたら、ザ・タランティーノって映画」などと答えていませんか?詳しいことは分からないクセに、なんかハチャメチャでカッコよくてクールだった印象をタランティーノっぽい」に押し込めていませんか!?それがだめなんです!あとね、「タランティーノと言えば」も避けた方がいい。
 
映画に詳しい人が観れば映画に捧げる情熱に胸が熱くなり、しかし映画を観ない層も楽しめる、タラ作品ってほとんどそうじゃない?ワンハリだって、もちろん往年の映画好きには様々な目配せが楽しいけれど、「そうじゃないヤツお断り」的な気難しさは絶対にないと思う。シャロン・テート事件だけ予習していってね(やなぎや未見です)。
 
さて本日の映画は、タラ作品の中で、わたしが一番好きなやつ!
難しいことはいい。クリストフ・ヴァルツメラニー・ロランの貌、史実ドン無視!ヒトラーが蜂の巣になる爽快感を楽しもう!
 
 
◇真剣に妄想する人だよね
 
タラ作品を、好きな順に並べてみた。
 
1位 『イングロリアス・バスターズ
2位 『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007)
3位 『ジャンゴ』(2012)
4位 『ジャッキー・ブラウン』(1997)、『ヘイトフル・エイト』(2015)
6位 『キル・ビル』(2003)、『パルプ・フィクション』(1994)、『レザボア・ドッグス(1992)』
 
パルプ・フィクション』『レザボア・ドッグス』も好きな作品だし衝撃的だったとは思う。でも並べると、こうなってしまうんだ。
 
イングロリアス・バスターズ』より前の作品は、言ってみればヤクザどもの戦争、それも個々のチンピラにスポットライトを当てたものが多かったので、本当の意味での「戦争」をモチーフとして持ってきたのはちょっと意外だった。各作品には、個人的にそれぞれイメージがあって、例えば『キル・ビル』はヤクザとニンジャがテーマの漫画(フカキンリスペクトはありがとう!)、『ジャンゴ』はファンタジー、『レザボア・ドッグス』は舞台劇を連想する。それらに比べると随分とグローバル化&現実に寄せてきたなって。あ、フタ開けてみたら、現実的でもなければ戦争映画でもなかったけどね。
 
タラちゃんが愛して止まないマカロニ・ウェスタン色は健在で、ゆえにアパッチ族の血を引くブラピは部下に敵の頭の皮を剥がさせ、メラニー・ロランは戦闘開始のスイッチに顔に赤いラインを引く。知らない人から見たら何のこっちゃ、なんでこの中尉は頭の皮を剥ぐのん?ってなところである。その通り、なんの必要性もない。ただ、タラちゃんがマカロニ・ウェスタン方式で、ナチをぶっ殺したかっただけなんである。
 

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ちなみに、私はブラピたちがナチの頭の皮を剥ぐシーンが楽しくて「いちまーい!にーまーい!」と運動会の玉入れカウントよろしくキャッキャッしていたが、会社の後輩女子二人組には「皮剥ぐとこ超グロかった!やなぎやさんの勧める映画もう観ません!」と怒られた。
 
他の作品と同様に、小さな仕掛けがたくさんある。例えば、ショシャナの映画館では『死の銀嶺』がかかっているが、この映画の主演女優であるレニ・リーフェンシュタールは、実際にヒトラーのお気に入りの女優兼映画監督だった。劇中、アン・クルーガーが演じたハマーシュマルクは「リーフェンシュタールにも引けを取らない」女優として描かれ、また、マイケル・ファスベンダー演じた英国軍中尉も、『死の銀嶺』にエキストラとして出演したのだという作り話でゲシュタポの疑惑を逸らそうとする。歴史上の映画に、我々の知る現代の俳優たちが本当に関わっていたような錯覚が楽しい。
 
メラニー・ロラン、また、ナチスを殴り殺す『ユダヤの熊』ことイーライ・ロスは、現実でもユダヤの血を引いている。その俳優たちが、ヒトラーを、ゲッベルスゲーリング、ボルマンを蜂の巣にして焼き殺す。歴史上の悲劇に対して、映画に関わる人たちが映画の中で仕返しをする、この点でワンハリと本作は似ているようですね。
 
なぜ「映画館」が舞台なのかというのにも、もちろん根拠がある。ゲッベルスが映画会社を買収し、製作した数々の映画をプロパガンダに利用したのは事実。またゲッベルス自身、大の映画好きで、いち観客としては平等な視点から映画という芸術を愛したのは有名な話だ。

劇中、ヒトラーに「(『国家の誇り』は)君の最高傑作だ」と言われたゲッベルスが感極まり涙するのも、ヒトラーに家族で殉じるほど心酔していた史実を押さえたもの。事実を押さえて、その上で映画に落とし込むために
真剣に妄想をする、そこが好き。
 
他にも、ある俳優が声だけ出演してるとか誰がチャーチルを演じているなど小ネタに事欠かないが面倒なので飛ばす。私が興味あるのは、ランダ大佐とショシャナだ。
 
 

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ユダヤの熊』!前情報なしで観たので、イーライ・ロス(『ホステル』の監督)がナチをいたぶる役で登場したときには笑った。
 
 
◇スイ~トなランダ大佐
 
タランティーノといえば(←あ、言っちゃった)、悪役に当たる人物が暴力を行使する前に長々と蘊蓄を語ってみせるのがお約束。『パルプ・フィクション』のサミュエル・L・ジャクソン然り、『ジャンゴ』のレオナルド・ディカプリオ然り。そこで観客が感じるのは、嵐の前の静けさの「ざわざわ感」。ざわ・・・ざわ・・・。
 
俗なブロガーは絶対ここで「カイジ」の絵を持ってくると思いますが、私はやりませんよ。
 
イングロリアス・バスターズ』は、「ざわざわ」シーンの連続。観客の不安を煽るのに大いに貢献したのがクリストフ・ヴァルツ演じた「ユダヤ・ハンター」、ランダ大佐だ。
 
タラ作品の中でも、ダントツに緊張を強いられるオープニングシーン。ユダヤ人家族を匿う酪農家ラパディットの家にSSのランダが訪れる。彼が武器とするのは恫喝でも拳でも銃でもない。ランダ大佐はスイート。見た目は非力そうな紳士、物腰も口調もあま~い。ラパディット宅には美人の三姉妹がいるが(一際目立つ美少女はレア・セドゥ)、彼女らをじっと見ながらワインを断りミルクを所望し、上品な口調ながら娘たちを雌牛に例える様が、そりゃもう嫌らしい。
 
ラパディットはSSがやって来るのを知ったとき、顔を洗い、友人のユダヤ一家を匿い通す意志を固めている。だが、ランダの物腰柔らかだが陰湿な、じわじわと獲物の首を絞めていく追求の前に、ついに涙を流して陥落。暴力でなく、言葉で人の意志を挫くキャラが恐ろしい。
 
クリストフ・ヴァルツに目を付けた私は、『ジャンゴ』では好漢(といっても賞金稼ぎ)を演じると聞いて嬉嬉とした。ご存知の通り、この映画では、敵に当たる冷酷な農園主としてディカプリオが起用された。元々、タランティーノはランダ役にディカプリオを考えていたとのことで、『ジャンゴ』でのディカプリオVSヴァルツの対峙シーン(もちろんココもざわざわ!)は、作品を跨いでの悪役対決となった。ディカプリオは素晴らしかったが、個人的にここはストーリーどころでなく、「負けるな、ランダ大佐!」と拳を握って、ヴァルツがディカプリオを食うことを期待していた。
 
食ったかどうかは分からないが、いきなりディカプリオを撃ち殺し、ジャンゴに向かって「すまん、我慢できなかった」と肩を竦めるヴァルツはカッコよかったねー。
 
さて、ランダ大佐が画面に映れば、観客もゲシュタポの少佐のごとく背筋を伸ばさざるを得ないが、中でも緊張感を伴うシーンが二つ。一つは既に触れたオープニング、もう一つはレストランでの、ショシャナとの会話シーンだ。
 
ショシャナは、イタリア戦線で英雄的活躍を見せたドイツ兵フレデリックダニエル・ブリュール)に恋慕され、彼の主演映画のプレミア上映会場候補のオーナーとしてゲッベルスの前に連れて来られる。そこでランダと「再会」することとなる。
互いに知っているのは名前のみ。そして、ショシャナは彼を仇と知っているが、ランダはもちろん目の前の女が以前取り逃したユダヤの少女ということは知らない。
 
知りようがない。知るはずがない!
 
 
だが、テーブルについた大佐はウェイターに言う。
「私はエスプレッソ、こちらのお嬢さんには、そうだな、ミルクを」
 
 
なんでミルク頼んだの!?気付いてるの!?
ちょうざわざわする!
 
 

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さらに「この店のシュトルーデンは絶品だよ」とパイ菓子を勧めてくる。
もうここは、ショシャナが「食べる」というより、ランダによって「食べさせられる」と表現するのが正しい。そして、会話に見せかけた尋問が終わると、あれほど褒めていたパイに吸い差しの煙草を押し付けて席を立つ。なんたる傍若無人。ショシャナに興味を無くすと同時に、菓子にも興味を失ったのだ。
 
つまり、このパイはショシャナ。そして冒頭のミルクは、酪農家の美しい三姉妹。
 
外面は上品だが、内面は下劣、乳製品と菓子でランダの人物を説明してみせるタラちゃん、お上手です。この場面のシュトルーデンとやら、めちゃくちゃ美味しそうです。
 
 
◇ショシャナ
 
以前『オーケストラ!』でもメラニー・ロランびいきについて書いた。彼女の素晴らしいお貌に対してキャリアが伴って来ないのは残念なことだ。個人的には本作での彼女がナンバーワンだと思ってるんだけど、どんなもの?
 
ユダヤの復讐の顔としてのショシャナはもちろん美しいが、見所はなんといっても、青二フレデリックの空気を読まないアプローチに対する塩対応。
 
プレミア上映会当夜、映画内の自分の殺戮行為に耐えきれずに席を立ち、ショシャナのいる映写室のドアをノックするフレデリック。ショシャナが顔を覗かせた瞬間、「君、支配人?金を返してくれ。主演俳優が最悪だ」とおどけてみせる。
 
 
うっさい、すっこめ。
おとなしく自分の英雄映画を観てろ。
 
 
と、誰しもが言いたくなる台詞をショシャナがそのまま口にするのに爆笑。また、ダニエル・ブリュールがいい感じなんだわ。
ショシャナに関しては、表現力不足語彙不足ですみませんが、この言葉しかない。
 
かわええのぅー!!
 

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カフェでぼんやりとタバコを吸うシーンが好き。
 
 
◇ところで、ブラピが出てるんだよ
 
たくさんの魅力的な俳優が出演する中、で、結局だれが主役?と敢えて考えれば、そりゃやっぱりブラピなわけだ。頭のネジが一本どっかに飛んじゃったようなクレイジーさとコミカルさをクルクルと表現し、それでいて常にカッコよさを失わないところが素晴らしい。
 
ちょっとランダ大佐に気合入れすぎて疲れてしまいました・・・。うまいことブラピの良さを言い表せない。燃料切れ。
 
ナチの絶対的支配の空気に包まれたこの映画で、 バスターズだけ、つまりブラピだけが治外法権ショシャナは命を落としてしまうし、英国側のスパイたちの計画も、超ゲシュタポ顔のゲシュタポ少佐によってご破算にされる。そんな中で、穴だらけの作戦のままプレミア上映会に乗り込んでくるブラピらは、無謀さと面の皮の厚さでざわざわを吹っ飛ばしてくれる存在なのである。
 
余談だけど、最初になぜランダがショシャナを見逃したのか、という点もラストで回収されるよね。彼は真正SSではなく、ビジネスマンだったわけだ。
 
ということで、この映画のキーワードは、ブラピによる「そのカッコいい軍服を脱いじまったら、誰もお前がナチだと分からねえじゃねえか?」に決定。
 
そして、最後はランダ大佐の「ビンゴォ」でお別れしましょうよ。
 

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ビンゴォ!
 
 
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