Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『キングダム』

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監督:佐藤信介 キャスト:山崎賢人吉沢亮長澤まさみ/2019年
 
新作で『小さな恋のうた』『キングダム』を借りました。『小さな恋のうた』は、私には合いませんでしたが、『キングダム』は、面白かった!

※超、最低ラインで褒めてます。
 
土台、無理だわな、あんな長いドラマを二時間ちょいにまとめるのは。映画版『レディージョーカー』(2004)や『64 ロクヨン(2016)に深みが全くなかったのと一緒だな。そうなると、キャラクターとアクションとビジュアルを「楽しめるか否か」に視点が集約されてしまうのはやむを得ず、そういう意味では「楽しめました」と軽い感想を吐くしかない。
 
こんなこと書いたら、「『キングダム』面白いよ!」と言ってくれたikukoさんやコンマさんに悪いわぁ。遠慮なく書くけど。
 

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あらすじ

紀元前245年、春秋戦国時代の秦国。孤児の少年・信と漂は天下の大将軍になることを夢見て、日々剣術の鍛錬に励んでいた。その様子を目撃した秦の武将・昌文君により漂が召し上げられ、信と漂はそれぞれ別の道を歩むこととなる。だが、ある日、深手を負って王宮から逃げてきた漂は、信に志を託して息絶える。

原作、未読です。読みたいきもちはある。

主演が山崎健吉沢亮ということ以外、あまり情報なく観た。夫が後ろから「これ、大沢たかおも出てたっけ?」というのに、「出てないよ(怒)」と返しました。

私は大沢たかおが苦手なのです。
 
しかし、始まってすぐ、幼い信が憧れを抱く天下の大将軍として登場したのが・・・。
 

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筋骨隆々で、めちゃ幅利かせる感じで出てるぅ~。
 
あ~やだな~♪ドヤ顔の大沢~♪(『おじゃる丸』エンディングテーマより)
 
あくまで、この時点での私の気持ちです。後々、訂正が入ります。

結論から言うと、この映画の主役は、大沢たかおです。
 
 
監督はアイアムアヒーロー(2016)、いぬやしき(2018)、図書館戦争(2013)など、原作ありきの軽めな作品ばかり撮っている佐藤信。よく知らないが、『アイアムアヒーロー』は面白かったよ。ちなみに私は『図書館戦争』の作者の有川浩が嫌いです。
 
冒頭はあらすじの通りの展開。友であり兄弟にも等しい漂(吉沢亮)を失った信(山崎賢人)は、漂の意志に従ってある村を目指す。刺客を倒し、辿り着いた村には、漂に瓜二つの青年がいた。彼は、弟に玉座を追われた秦王贏政(えいせい)(吉沢亮)だった。信は、漂が武術の腕でなく容姿を理由に、贏政の替え玉として召し上げられたことを知る。
 
まず褒めるべきは、主演の二人だろう。吉沢亮は、冷徹冷静な王というキャラクターに恵まれたが、それにしても良かった。顔が特徴的だから、こういう派手な役が似合うんだろな。山崎賢人は暑苦しい。いや多分、原作の信も暑苦しいんだろうが、演出に問題があると思う。この手の主人公は見ていると恥ずかしくなってくるのだが、恥ずかしさが20%くらいで済んだのは、山崎賢人が振り切って信を演じてくれたおかげ、かな(それでも20%くらいは恥ずかしかったが)。
 
信に関する演出は全体的に、いただけない。漂を看取るシーンでは、お約束通りの声が枯れんばかりの悲痛な慟哭。漂が贏政の身代わりに殺されたと知ったときには、全身で怒りを爆発させる。贏政の、漂の命を軽んじたように取れる一言を聞き咎めれば、「てめェ・・・!漂はなあ、漂はなあ!」と贏政に詰め寄る。
 
・・・おねーさん(わたし)ねえ、もう、できれば愁嘆場は少なく生きていきたいん。

いや、よく考えれば十代の頃から、人の死に関する大げさな演出は、見れば見るほど醒めていくタイプだった。
なぜ絶望や悲しみを表すのが「全身全霊で泣き叫ぶ」という表現でなくてはいかんの?
 
漂の死のシーンについては100歩譲るとしても、いつまでも「俺がどんなに悲しいか」を画面いっぱいに押し出し、悲しみの大安売りをしてくるのである。非常につらい。
何度目か信が「ひょう!ひょう!」とひょうパニックを起こした際、逆に信の襟首を掴み上げる贏政が実にクールであった。曰く「漂はこの役目のリスクを分かっていた。のし上がるために賭けに出て、そして負けたのだ、それだけのことだ」。
 
イエース、イエース。このシーンのいいところは、言葉にしなくとも、贏政なりに漂に抱いていた情と彼を失った口惜しさが垣間見えるところだ。
 
立ち直りの早い信は、贏政の叱責に納得し、「別に仲間になったわけじゃないからねッ!利用するだけなんだからッ!」と玉座奪還の仲間になる。頭の悪いやつだ。しかもこいつは「ひょうパニック」だけでなく「天下の大将軍パニック」も抱えている。
 
一方、王宮では、兄から玉座を奪った弟・成蟜(せいきょう)(本郷奏多)が、器用に口をひん曲げながら側近や将軍たちに当たり散らしていた。ちなみに本郷奏多は、かなりイイです。
そこへ、贏政の右腕である昌文君(高嶋政宏)の首を手土産に、伝説の将軍、王騎(大沢たかお)が現れる。
 
でた。ホントやだ、ムキムキの大沢たかお~。
 
「何用ですかな」と尋ねる竭(けつ)(石橋蓮司)に対し、王騎が答える。
 
「何用とは、あんまりですネ♡」
 
オネエなのかよ!
 
 
ソファから落ちた。
不思議なもので、何を考えているのか分からない不気味なオネエ将軍としての大沢たかおは悪くなく。不思議なものでっていうか、あっさり「あら、王騎さん良いわね」ってなった私がアホなのか。
 
その後は、山の民を統べる楊端和(ようたんわ)(長澤まさみ)を仲間にしたり、河了貂(かりょうてん)を演じる橋本環奈のふくろうが、めっちゃかわいかったりしながら、徐々に反旗を翻す体制が整っていく。
 

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環奈ちゃんは死ぬほどかわいいが、ふくろうも可愛すぎるし困る。
 
 
突っ込みます。
前半は十分に堪能した。残念なのが、本来なら最も盛り上がるべき王宮での戦闘のくだりに、突っ込みどころが多すぎたことだ。
 
玉座奪還の準備を整えた贏政と信は、いよいよ作戦の実行に移る。
作戦はこうだ。秦と以前同盟関係にあった山の民の王・楊端和が、再度の同盟案をぶら下げて訪ねていけば王宮の門は開くだろう。中に入ったら、信率いる精鋭部隊は隠し通路を通り、本丸の成蟜を押さえる。その間、贏政、楊端和、昌文君らは、敵に応戦し時間を稼ぐ。

敵は八万の兵を擁しているが、八万の大軍が動くには時間がかかる。すぐに動ける王宮内の兵のみを相手と考えれば、信らが玉座の間に到達するまでの時間を稼ぐことは可能、という目論見だ。
 
この八万の兵は観客に対する疑似餌で、途中で一度、CGの大軍を見せられるが、実際には上述の理由で、この敵は考慮しなくてよいものとして物語の外に弾き出される(というか、そうせざるを得ない)。
 
八万、二十万という壮大な数は言葉だけで片付けられ、メインキャラのアップを中心にした立ち回りが、狭っ苦しい画面に映される。規模感としては、城を舞台にした天下一武道会や暗黒武術会と何ら変わりはなく、王が簒奪された座を取り戻す壮大さがない。
 
一番残念なのが、作戦を無意味化する、根性無敵論ね。
 
多勢に無勢の状況にあって、勝利の鍵は「信が如何に早く成蟜の身柄を押さえるか」にある。信が遅れるほど、囮の仲間たちの命は危機に晒されることになるのだが、「時間との闘い」を感じさせるヒリヒリ感は、ほとんど描写されない。
信は隠し通路の途中で待ち伏せていた怪物の撃退に時間を取られ(そもそも隠し通路に伏兵がいた時点で、この作戦は失敗だろう)、玉座の間に辿り着いてからは、ラスボス左慈坂口拓)との闘いに時間を取られる。
 
さらに萎えるのが、信と左慈が刃を交えながら、「夢」について言い争うことだ。「海賊王に、俺はなる!」・・・じゃなかった、「天下の大将軍に、俺はなる!」と言う信に、拓ちゃんは「夢?バカなことを言うな」と、やたら反応してくる。多分、過去になんかトラウマがあるんだろう、夢見て敗れたとか愛する人に裏切られたとか。
 
私は拓ちゃんのラスボスを楽しみにしていたのに、左慈ときたら、なぜか口調はチンピラ風、ガキの夢語りに同レベルで応じてくれるような親しみやすい刺客なのである。
(死に方もいつも一緒だから、別パターンを考えようぜ、拓ちゃん!)
 
一度は地に倒れた信は、「夢見て、何がワリィんだよ・・・」と再び立ち上がる。根性と気力が肉体の限界を超えてくる、いつもの少年漫画的展開。結局のところ、信にあるのは超人的な跳躍力のみ、剣や戦術に見るべき点はなく頭も悪いのだが、夢と友情で困難な状況を打開するっていうね・・・。いつものやつだよ、残念。
 
さて、ここまでで、恐らく想定の三、四倍ほどの時間を食っている。囮部隊はそろそろ全滅しているころだろう。だが実際には、贏政を中心としたメインの人物たちは消耗しながらも生き残っており、周囲には敵の兵の屍が転がっている。
 
・・・じゃあ、全員で正面から突っ込めばよかったんじゃない?という話になる。
 
また、飛ぶ(跳ぶ)=アクロバティック&ダイナミックとしたアクションのカッコ悪さ。斬り結んだ相手は敵、味方問わず、斬られることなく宙を飛ぶ(だから味方は柱にはぶつかりはするが、誰も死なない)。『SHINOBI』の感想で、下村勇二を日本を代表するアクション監督と紹介した私の気持ちをどうしてくれるんだ!
 
そんなグダグダな展開の中、またしても一番目立つ形で登場するのが、王騎こと大沢たかおだ。門閉まってただろ?どうやって入ってきた。
 
王騎は、「んっふ」「んっふ」「でっす」と言いながら、場を掌握してしまう。さらに、昌文君の領地を奪ったかに見せて実は彼の家族を保護していたこと、民が王宮の内紛に巻き込まれないよう守っていたことなどが分かり、おいしいところを全部掻っ攫っていったのである・・・。
 
一見文句ばっかり言っているように見えるでしょうが、私はこの映画をせいいっぱい褒めました。褒めてないって?言葉だけに振り回されてはいけません。今後は私のことを「『キングダム』見守り隊(たい)」と呼んでください。
 
もちろん続編が出たら観ます。でも・・・いやこれ監督が悪いよ。変えてもらえないかな!?
 

引用:(C)原泰久集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会