『ドント・ブリーズ』
◇『クワイエット・プレイス』
まず「音を立ててはいけない」という設定に対してぶつけてきた「どうしたって音を出さざるを得ない状況」の発想が良い。最大の痛みが襲う瞬間と、どう努力しても止めようのない音、そう、妊婦が陣痛を迎えて出産するときと、赤ん坊の泣き声。出産を経験した女性からの「うわ~!つらいつらいつらい!」の声をゲットすべく考えられたマニアックな視点が非常にナイス。
踏むって踏む~!とヒヤヒヤする時間を意地悪く長引かせ、エミリー・ブラントがそれは見事にぶっすりと踏むのだが、その後も釘の存在を観客に意識させる。子供が踏む!?いや、もしかして「何か」(バケモノ)が踏むのか!?・・・って踏まないのかい!
水音で自分たちのたてる音が消せる、しかしそれすなわち、仮に「何か」が近づいてきたときに、自分たちもその音に気付くことができないということだ。それは危険だね?だから滝の側には住めないよね?わかりましたね?
◇どこが超人的な聴覚だコラ
先に言っておくが、私は常日頃、話のアラや矛盾を探しまくっているわけではない。ただ、相手が人間だろうが霊だろうが、絶叫系だろうがサイレントだろうが、ホラー映画で矛盾を感じたくないの。なぜなら、矛盾を覚えれば疑問が生じ、気が散って怖がれなくなるから。「うひー、怖い怖い!」って悶絶したいの。世には、なぜわざわざ怖がるために映画を観るのか理解できない人民もいれば、ホラーを全く怖がらない人民もいるが、そんな連中のことは知らん。私はソファの上で転げまわりたいの!だから、お粗末な話はやめて。低予算で金の足りないところは人力で補って。
業を煮やしたロッキーは、なんとガラスを割って家の中に侵入する手段に出る。しかも彼女が内側から鍵を開けるのを待つ間、外の二人は今しなくてもいい小競り合いをおっ始める。うるさいって。帰ってからやれって。
めちゃめちゃ耳が良くて夫からはデビルイヤーと呼ばれている。階の異なる部屋で、誰かが扇風機を付けたらウィーンという音が、プレステの電源を入れたらピッという音がはっきりと聞こえます。ピザを頼めば、遠方から近づくバイクの音が聞き分けられます。ピザ屋のお兄ちゃんはチャイムを鳴らした瞬間にドアが開いてびっくりすることになります。
なんでこれは察知しないのさ。
◇ジジイがイニシアチブ握る理由なし
また、相手が優勢でこちらが劣勢、という状況を決定付ける条件や道具が何もない。元軍人、感覚が鋭敏。・・・で?そうはいってもジジイは目が見えないのである。後ろを取って殴り倒すくらい訳がないのだが、チャンスがない。ジジイのガードがよくてチャンスがないわけではなく、奇襲が成功すれば映画が終わってしまうので、話の都合上そうさせない、シラけるパターンだ。
◇超人過ぎ
うそ~!なにこれ、よめなかった。ちょういがいなてんかい!
これはもう、ジジイの目、見えてるよね?
「製作:サム・ライミ」の文字を。
『暁に祈れ』
監督:ジャン=ステファーヌ・ソベール キャスト:ジョー・コール、ポンチャノック・マブラン、ビタヤ・パンスリンガム/2017年
あまりに子らが水溜まりの件をからかってくるんで、顔にパックをした状態で「チャカチャンチャ~、チャカチャンチャ♪」と踊り出て、「みずぶったりま かと思ったら~ 水溜まりーでーした~♪ ア チクショーー!!」と追いかけ回してやりました。そうしたら、大ウケしてしまい・・・毎日やらされてます・・・。
ダブルミーニングかよ、ア チクショーーー!!
◇あらすじ
こういったロジカルな理由により、私はジョー・コールが好きです。
◇本題
インタビューによれば、キャスティングには一年もの時間をかけ、またワークショップを行って交流を図ったとのことだ。演技指導はしなかったという。
ムエタイチームの監房に移るまでの、ビリーを恐怖に陥れる監房内の描写が圧巻だ。顔から足まで身体中入れ墨に覆われた半裸の男たち、汚らしい壁や床、訳の分からない言葉の渦。突然、触れられ小突かれる。ビリーが周囲の言葉を理解できない(または理解する気がない)うちはタイ語に字幕がつかず、ビリーの感じる恐怖と混乱をダイレクトに観客に伝える。
人間の醜い行為を如何に生生しく撮るか、それがリアリティに通ずると監督には信念があるのだろう。残虐なものを見慣れた人間にとってこそ、このシーンの無機質な残酷さは衝撃だと思う。
◇アップショット
◇ドラマの排除
また、ビリーはムエタイチーム加入後も再び薬に手を出して仲間を殴ってしまうが、報復しようとする相手を制止する囚人は、当初はビリーとぶつかっていた男だ。そして、再びチームに受け入れてもらうため、初めて人に詫びるビリーに「お」となるし、最終的に謝罪を受け入れた男は、その後、ビリーが大会に出るまで傍でサポートしてくれることになるのだ。また、彼らとの交流の中で初めてビリーの笑顔を見ることもできる。思わず「お、笑った、ビリーが笑った~」となること請け合い。悪党どもの中に存在する情や人間関係に、思いの他、心を揺さぶられる。
『バウンド』
監督:アンディ&ラリー・ウォシャウスキー(現リリー&ラナ・ウォシャウスキー) キャスト:ジェニファー・ティリー、ジーナ・ガーション、ジョー・パントリアーノ/1996年
◇あらすじ
しかし、実は兄弟が姉妹であったことを知った上で『バウンド』を観れば、なるほどと思う点もあって。レズビアンの二人がマフィアの金を騙し取るとなれば女の狡猾さがクローズアップされるよう想像しがちだが、それよりも女同士の間の生真面目さや初志貫徹する強さが印象的だ。身勝手に押し付けられる男の願望やイメージを置いてけぼりにする爽快感もある。
◇ジーナ・ガーション
『Lの世界』きってのスケコマシ、シェーンを演じたキャサリン。(photobucket.com/gallery/user/dylanface23/)
シェーンに誘われて断れる女がいたら今すぐに名乗り出ろ。声がまたいいんだぞ!
まあまあ、それは冗談として、本作でのジーナのカッコよさは文句なし。ただ主役はヴァイオレットを演じたジェニファー・ティリーの方だろう。
◇本題
計画は、シンプルなようでいて理に適っている。シーザーと、マフィア幹部ジーノの息子ジョニーの犬猿の仲を利用し、消えた金はジョニーが盗んだように思わせるというもの。「人は信じたいものを信じる」の心理を逆手に取った、確率の高い作戦だ。
だが、その後のシーザーの行動を読み切れなかったことが災いし、計画は大きく狂うことになる。
◇小道具
◇三色の色
ファーストシーンの、エレベーターの内装は真っ赤だ。これはヴァイオレットがこの時点で、シーザーの囲われ者であることを示す。部屋の床は赤、重要な客を迎えるとき、普段黒を好む彼女にシーザーが選ぶドレスの色も赤。この映画では支配者を象徴する色である。
◇シーザーかわいそう?
幹部のジーノ親子を殺したシーザーは、そのために生じた綻びを一人で忙しく繕うことになる。死体の始末、消えた金の捜索、銃声で駆け付けた警官たちの対処。何より、ミッキーが金を受け取りに来る時間が迫っている。そんな中で実は恋人が裏切者であったことが判明。傍目から見れば、非常に気の毒なシーザーだ。降り掛かる難題に錯乱するさまを汗だくで演じたジョー・パントリアーノがよかった。『マトリックス』にも出てますね、
汗だく一人芝居と、腹の立つ胸クソ顔に拍手。
『必死剣 鳥刺し』
◇あらすじ
藤沢周平の短編小説は多く映画されていて、そのうち「隠し剣シリーズ」を原作としているのが『隠し剣 鬼の爪』(2004年)、『武士の一分』(2006年)と本作『必死剣 鳥刺し』ですね。割と評判のよい『たそがれ清兵衛』(2002年)も観たはずなんだけど、ぼやっとした記憶しかないんだよなあ。ということで、本作を観る前に『たそがれ』と『鬼の爪』を観直しました。どちらも山田洋次監督の作品です。
◇『たそがれ清兵衛』鑑賞後、感想
「わかるー」
「あと、米櫃の底が見えた時の悲しい気持ち」
「それな!」
◇やった、月代剃ってるッ
◇声って重要・・・
帯屋隼人生、これね。↓
あ、こっちでした。↓
◇他の作品との差別化
・本来ならば即打ち首となるところ、なぜ一年の閉門程度の軽い罪ですんだのか?
・三左エ門のみが使う、発動するときには遣い手は半ば死んでいるという「必死剣 鳥刺し」とはどのような剣術なのか
一人は特別な思いをもって、一人は気づかずに、行き合う。
観客が期待する殺陣を、相応しい舞台できっちり見せてくれた点もポイントが高い。
肩衣から腕を抜いて「お手迎いいたしますぞ」と応じ。。。え、また吸った!?
その点、本作は「生への執着」に繋がる理由として女への情愛=濡れ場を描くことから逃げず、他作品との差別化を図っていたところが非常に評価できる。ただ、なぜか豊川悦司の背中が異様にテカテカしていたのが気になった・・・。
『きみはいい子』
先日保護者会に行きましたが、それはもう想像を絶する若さでした。緊張のあまり汗だくになっちゃって、「本日はお暑い中お越し頂きありがとうございます」から始まり(4月の爽やかな日)、「生徒や周囲の先生方に助けられ」を連発。
◇あらすじ
高良健吾の受け持つ四年生のクラスにはよく見れば問題がいくつもある。だが高良は、気が付かないのか思考がストップしているのか、帰宅せず校庭の隅にいる男子生徒には「学校好きだなー」と見当外れな声掛けをし、ある女子生徒が持って来た、別の女子へのいじめの手紙を「誰にも言うなよ、先生もキミが持ってきたこと言わないから」と机に引き出しにしまう。これだけで、どれほどのヘタレ教師かが分かるだろう。
男子生徒が家庭で暴力を受けていると知ってからは行動をしようとするのだが、子供側に立ってやることもできず、かといって保守的な学校の機構を理解していないのでその中で立ち回ることもできない。子供ではないが大人でもない、情けな教師を高良が好演している。
◇ママ友ばなし
池脇千鶴が演じる二児の母も公園にやってくる一人だが、他のメンバーから疎ましがられていて、疎ましがられる原因のキャラや見た目がまたリアル。見なりも構わなければ、ベビーカーを「乳母車」と呼び、その乳母車の左右にこれでもかと引っかけた大荷物が、本人同様いかにも鈍重だ。声もアクションも大きく、現実にもたまにこういう人がいるが、例外なくちょっと気持ちが悪い。
尾野は、正反対のタイプの池脇に戸惑いながらも興味を隠せず、それが分かるのが子供を叱るときの描写だ。彼女は当然、外で娘に手を上げないが、娘が転べばグズなわが子に苛立ち、反射的に「なにやってるの!」と叱咤する。しかし同様の状況で池脇の口から出るのは「大丈夫!?」の言葉で、子供に触れ抱きしめながら怒る。それを見つめる尾野。全編、強張った顔の演技だった。虐待シーンの子供の泣き声は痛々しいが(殴っているのは子役ではなく尾野自身の手だろう)、加害者側の尾野真千子の役作りというか、撮影中の精神状態の保ち方は大変だったのではないだろうか。
それにしても、池脇千鶴ってこういう人だったっけ!?もっとカワイイ系じゃなかった?
◇あまり好きじゃなかった点
『映画対談(前半)』
ふふふふ、おはようございます。
金曜日ですね、ふふふふ。
なんでご機嫌かというと、ちょっと前に、ふかづめさんとコツコツコツコツ会話を重ねた映画対談が記事としてアップされたのです!
ふかづめさんと言えば、京都在住の気むずかしいシネフィルで、驚異の知識量と文章力を持ち、シネマだけでなく媚び諂うものを斬って捨てる孤高の天才です。すごい強烈なプロフィール。
気むずかしい、ってのは、私の中では完全に褒め言葉ですよ。(ツイッター経由で)会話する中で、感じた人柄は色々あるのですが、思いのほか恥ずかしがりやっぽいので、やめときます。
で、肝心の対談記事ですが、長くなっちゃったし、話があっちゃこっちゃ飛んだので、編集には苦労しました。それで前後半に分けました。
さも私が苦労したみたいに言ってみたけど、やったのは全部ふかづめさんです。あと、ホントはチャッチャッと編集してました。
全テキストを送ってくれて「そちらのブログ用に編集していいよ」と言ってくれたんだけど、私はそんなことできないので、リンク貼らせてもらいます。
みなさん、是非読んでくださいねー!
『ダークナイト』
監督:クリストファー・ノーラン キャスト:クリスチャン・ベール、ヒース・レジャー、マイケル・ケイン/2008年
氏曰く「誰が何をどのように撮ったかの部分があまりに稚拙で、近い将来AIがフルCGで自動生成しても観客は有難がって観に行き続けるんじゃねーの?と末恐ろしくなる。シリーズが続くこと、世界を共有するキャラクターが増え続けること、マーベルの戦略は大成功なんだけど、誰が監督しようが脚本を書こうが、見たいものと見せたいものが予め決まってるんだから作家性なんて皆無。よく言えば全編サービスショット。製作者とファンが目配せし合った、『見たかったのこれだろ?』な映像が延々と続く。そんなお遊戯をオレは観ていられなかった」。
どうでもえー。ああ、いい天気だわあ、毛布干したい。
「ノーランのことをディスったりもするけれど、『ダークナイト』を観直したら、とても感動したよ」。なぜシネフィルどもはノーランをディスるのでしょう。真面目な監督だと思いますが。私にはよくわからない何かがあるのでしょう。
◇『ダークナイト』を観る前におさえておきたい二、三の事柄(By S)
【ブルース・ウェイン】クリスチャン・ベール
バットマンことブルース・ウェインはコウモリのコスプレでゴッサムの悪と戦うパラノイアである。(中略)父母を殺した犯人を射殺しようと試みて、幼馴染レイチェルに思いきりビンタされ(2回)、そのショックで世界を放浪する。ケン・ワタナベ・ ニンジャスクール(講師リーアム・ニースン)にて鍛錬をつむも、彼らの野望を知り、ニンジャスクールを壊滅させる。コウモリの姿となり、犯罪都市ゴッサムの浄化に乗り出す。
ゴッサム市警の警部補。 バットマンによる超法規的活動を陰ながら支援(黙認)する。コカイン常用者の、麻薬取締局捜査官とは別人。好きな映画に『ショーシャンクの空に』と『レオン』を挙げる人間は要観察。ここに『ダークナイト』を足してもいいなと思う今日この頃。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のジェニファー、『ツインピークス』のローラ・パーマーに次ぐ、「お前、誰だよ」と言いたい配役変更。ブルースの幼馴染で検事、バットマンの正体を知る一人。ブルース(パラノイア)に重度のストーカー気質を見出し、相当な距離を置いている。
【アルフレッド・ペニーワース】マイケル・ケイン
ウェイン家の執事でありブルースの良き理解者。ブルースの夜警活動に時折嫌味を交えつつも全面的に支える最大の功労者。バットマンの正体を知る一人。すぐにいじける。
ウェイン産業の社員。ブルース復帰後は共同で数々のひみつ道具を開発、ウェイン産業の社長に就任する。バットマンの正体を知る一人。暴走する御曹司をたまに諫める。
『バットマン ビギンズ』はラスト、ジョーカーの存在を匂わせて終了する。『ダークナイト』の評判から遡って『ビギンズ』を観た人、あるいはコミック『バットマン:イヤーワン』を読んでいる人にとっては味のあるラストとなっている。
◇序章
A4四枚も送ってきて、肝心要の情報書いてねぇじゃねーか、バッキャロー!人を変な組織に誘う前に「キリアン・マーフィ出てますよ」だろ、必要な情報はよォ。そろそろ自分の言いたいこと言うだけじゃくて、こっちの趣味に合わす技も覚えろ、いい歳こいてよォォ。
というわけで、ここで『ダークナイト』を中断して『バットマン ビギンズ』から観直しました。
時間をムダにしたぜ、バッキャロウ。
◇改めまして、鑑賞後
まず、設定のシンプルさが好きだな!市民たちが昼夜、マフィアに怯えながら暮らす犯罪都市ゴッサムシティ。具体的な脅威はよく分からんのに、マフィアの面々のギャング顔で、とにかく悪が蔓延っているのだ!と押し切る。それを自らの恐怖の象徴であるコウモリの姿に扮したダークヒーローが切る、爽快な単純さ。
◇脚本と演出
意外だったのは、キーワードの反復や言葉の掛け合いが凝っていて面白かったこと。
◇ダークナイト
『ダークナイト』では、さらに脚本や演出に気合を入れたのだろうことが分かる。二本映画を作れてしまうのではと思うほど、よく言えば盛りだくさん、悪く言えばてんこ盛りな内容。
正義と悪との境界線について、人を傷つけずに自分の信条を貫くのが正義、罪に手を染めれば悪へ堕ちる図式は、様々な映画や小説で描かれてきたものと同様なのだが、バットマンが面白いのは、彼はそもそも高潔な人間でないので、堕とす対象でないところ。反面、『ダークナイト』で登場する正統型ヒーローのハービーは、あまりに清廉潔白な好人物ゆえ、悪のアンテナにビンビンに引っかかるのも至極当然。
◇サスペンスてんこ盛り
更に、攫われたゴードンの家族の運命は?爆薬を仕掛けられた船二隻の乗客はどのように行動するのか?警察内のスパイは一体誰だ?といったサスペンス&ミステリーが次々と畳みかけられる。
◇ツボ
恐ろしい幻影を見て「ファーーー!」と叫ぶ顔が非常にいい。
ファーーー! この愛玩動物感。
結局私はAMUGに入っていません。まあ、入ってないことをS氏には伝えてないけどね。誰か入りたい人がいたら、連絡くださいな。