Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『ドント・ブリーズ』

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監督:フェデ・アルバレス キャスト:ジェーン・レヴィ、ディラン・ミネット、スティーブン・ラング/2016年
 
◇あらすじ
街を出るための資金が必要なロッキージェーン・レヴィは、恋人のマニー(ダニエル・ゾヴァット)と友人のアレックス(ディラン・ミネット)とともに、大金を隠し持っていると噂される盲目の老人スティーヴン・ラングの家に強盗に入る。しかし、その老人は目が見えないかわりに、どんな音も聴き逃さない超人的な聴覚をもち、さらには想像を絶する異常な本性を隠し持つ人物だった。暗闇に包まれた家の中で追い詰められたロッキーたちは、地下室にたどり着くが、そこで恐るべき光景を目の当たりにする。(映画.com)
 
おはようございます。皆さまは、「ベートーベン」派ですか、それとも「ベトベーン」派ですか?
 
小学二年生の娘が音楽の授業でベートーベンの名を知ったらしく、「あのね、ベトベーンてね」と弟に話してました。笑いを堪えつつもちろん訂正はしないわけですが、先日偶然テレビでベートーベンの特集かなんかをやったんです。ああ、これ見て間違いに気づいちゃうかな・・・と思っていたら、二人でプッと吹き出して、
「お母さん、テレビの人、ベトベーンの言い方間違ってる。小学生でも知ってるのに」
「ね、だって、ぬ~ベ~(←地獄先生とかいう有害なアニメ)も、ベトベーンて言ってたもんね!」と言ってきて、たくましいなあと思いました。
 
そんなわけで本日は、あなたは「音を出してはいけない」派?「息をしてはいけない」派?どっちでもない派!? 無理やり『ドント・ブリーズ』の感想です。
 
あ、もし『ドント・ブリーズ』大スキ!な人がいたら読まないでネ(このエクスキューズ、めちゃくちゃクダラネエと思っているので、こんりんざい一度しか言わないネ)。
 
 
◇『クワイエット・プレイス
 
「○○してはいけない」パニック系ホラーが流行りました。「約束ごと」がある家、その家で起こる怪現象、大好物です。シャマランの『ヴィジット』のキャッチコピーになった「楽しく過ごすこと」「好きなものを食べること」「夜9時半を過ぎたら部屋を出てはいけない」の三つの約束なんか、ゾワゾワして好きだな。シャマラン流のユーモアが爆発した楽しい映画だった。
 
最近話題になったクワイエット・プレイスは、パニック映画のツボをうまく捉えた良作だったと思う。
まず「音を立ててはいけない」という設定に対してぶつけてきた「どうしたって音を出さざるを得ない状況」の発想が良い。最大の痛みが襲う瞬間と、どう努力しても止めようのない音、そう、妊婦が陣痛を迎えて出産するときと、赤ん坊の泣き声。出産を経験した女性からの「うわ~!つらいつらいつらい!」の声をゲットすべく考えられたマニアックな視点が非常にナイス。
 
そして、例の釘である。
踏むって踏む~!とヒヤヒヤする時間を意地悪く長引かせ、エミリー・ブラントがそれは見事にぶっすりと踏むのだが、その後も釘の存在を観客に意識させる。子供が踏む!?いや、もしかして「何か」(バケモノ)が踏むのか!?・・・って踏まないのかい!
 
また釘に次ぐ、私のお気に入りはサイロのシーン。「何か」に細心の注意を払っていたのに、まさかのトウモロコシで窒息死しそうになる裏切りの展開。「こういう可能性、考えてなかったでしょ~」という作り手のニヤニヤ笑いが想像できそうで、サイロといい釘といい、絶妙なすかし方だった。これ、監督にかなり遊び心があると思うよ。観客との間に粋なコミュニケーションがあった。
 
そして、多くのレビューが突っ込んでいる「滝の近くでなら大声を出せるなら、滝の近くに住めばいいじゃん?」について。
 
チッ、チッ、チッ。甘い。
 
じゃあ、「何か」が近づいてきたとき、どうするの?
水音で自分たちのたてる音が消せる、しかしそれすなわち、仮に「何か」が近づいてきたときに、自分たちもその音に気付くことができないということだ。それは危険だね?だから滝の側には住めないよね?わかりましたね?
 
そんなわけでクワイエット・プレイスは、「観客の目」を意識した、クレバーな作品であったと思います。
さて『ドント・ブリーズ』、「息をしてはいけない」方は果たして?
 

◇どこが超人的な聴覚だコラ
 
触わりから「低予算ホラー」を確信させる作り。低予算イコール、多くは知恵を絞った脚本や奇抜なアイディアに頼る映画となる。ならばその点で楽しませてもらわなきゃ。
アレックスの父親は警備会社を経営しており、顧客宅の鍵を自宅に保管している。これを拝借して、三人は堂々と玄関から入りこみ強盗を繰り返していた。マニーの発案で、元軍人の老人宅を最後のヤマとして狙うことになる。
 
ターゲットの老人は、ある富豪の女が起こした車の事故で娘を亡くし、その際に支払われた高額な慰謝料を隠し持っているという。ところがいざ押し入ってみると、孤独で哀れなはずの老人は身体はムキムキ、軍隊で培ったサバイバル能力を持ち、視力がないゆえに他の感覚に優れた恐るべき相手だった・・・。いいわー、わくわくするー。
 
しかーし。
 
初っ端から、脚本のお粗末さがぽろぽろと露呈していく。
先に言っておくが、私は常日頃、話のアラや矛盾を探しまくっているわけではない。ただ、相手が人間だろうが霊だろうが、絶叫系だろうがサイレントだろうが、ホラー映画で矛盾を感じたくないの。なぜなら、矛盾を覚えれば疑問が生じ、気が散って怖がれなくなるから。「うひー、怖い怖い!」って悶絶したいの。世には、なぜわざわざ怖がるために映画を観るのか理解できない人民もいれば、ホラーを全く怖がらない人民もいるが、そんな連中のことは知らん。私はソファの上で転げまわりたいの!だから、お粗末な話はやめて。低予算で金の足りないところは人力で補って。
 
さて。アレックスらは老人宅を遠巻きにチョロチョロとお情け程度に観察し、その晩に計画を決行。しかし玄関の扉は何重にも施錠されており、アレックスが父親のデスクから持ち出した鍵は役に立たなかった(下見って、そういうの含めてだよね)。
計画外の事態にパニクった三人は、裏口に回り、何が何でも侵入を遂行しようと試みる。
 
早いな、破綻し出すのが・・・。
鍵を持っていてこそのイニシアチブだろうよ。こういう自滅系が一番好きじゃないんだわ。
業を煮やしたロッキーは、なんとガラスを割って家の中に侵入する手段に出る。しかも彼女が内側から鍵を開けるのを待つ間、外の二人は今しなくてもいい小競り合いをおっ始める。うるさいって。帰ってからやれって。
 
聴覚に優れた人間を完全に甘く見ているわけだ。聴覚に優れた人間、それは私、やなぎやさんちの奥さんです。
めちゃめちゃ耳が良くて夫からはデビルイヤーと呼ばれている。階の異なる部屋で、誰かが扇風機を付けたらウィーンという音が、プレステの電源を入れたらピッという音がはっきりと聞こえます。ピザを頼めば、遠方から近づくバイクの音が聞き分けられます。ピザ屋のお兄ちゃんはチャイムを鳴らした瞬間にドアが開いてびっくりすることになります。
 
ガラスなどが割られればもちろんのこと、家の側であんなにわちゃわちゃやられたら、間違いなく起きる。それに、用心すべき状況で「ガラスを割る」という手段を取らせるとは、なんていい加減な製作陣だ!
 
このように、全体を通して納得がいかないのはジイさんが五感(視を除く)、特に聴覚に優れているにも関わらず、都合のいい時にしかそれが発揮されない点だ。どっちかというと、「地の利」一本で押し切ってくる。途中、靴の匂いを嗅ぎ当てて、侵入者が複数だと気づくシーンがあるが、そんなものを嗅ぎ当てられるなら、廊下でアレックスと鼻先すれすれですれ違ったときに、人の気配や体臭を感じるはずだろう。
 

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なんでこれは察知しないのさ。
 
 
◇ジジイがイニシアチブ握る理由なし
 
ロッキーがガラスを破った映画開始20分、早くも無表情気味に鑑賞する私。
バイオハザードのような映像が続き、何故だか忘れたが、仲間のマニーが老人に見つかって銃で殺される。そして老人は入り口を施錠、窓をトンカン塞いで家を密室とし、ロッキーとアレックスにとって恐怖の時間が始まる・・・はずなのだが、全然カケラも怖くないっていうね・・・。
 
ここら辺の怖がらせ方ときたら、いないと思っていた場所にいつの間にかジジイが立っていた、バーン!ってやつで。これがだだっ広い屋敷ならそれはまた不気味だが、狭い家の中で目を払うべき箇所は限られているのになあ。

また、相手が優勢でこちらが劣勢、という状況を決定付ける条件や道具が何もない。元軍人、感覚が鋭敏。・・・で?そうはいってもジジイは目が見えないのである。後ろを取って殴り倒すくらい訳がないのだが、チャンスがない。ジジイのガードがよくてチャンスがないわけではなく、奇襲が成功すれば映画が終わってしまうので、話の都合上そうさせない、シラけるパターンだ。
 
 
◇超人過ぎ
 
こっからネタバレします。
私の無表情の理由をちょっとは理解して頂けたと思うが、一番気に食わなかったのが、「人間が怖い」ホラーにおける禁じ手を打ったこと、これに尽きる。目が見えない人間の限界を全く無視している。つまり、なんでもあり。
 
地下室に逃げ込んだロッキーとアレックスは信じられないものを見る。そこには若い女性が鎖で繋がれていた。老人は娘を轢き殺した女を攫って監禁し、さらに失った我が子に代わる赤ん坊を産ませようと、おぞましい計画を進めていたのだ!
うそ~!なにこれ、よめなかった。ちょういがいなてんかい!
 
 
ちょ、待てよ(キムタク)。
 
 
盲目の老人が、どうやったらこんな活きのよさそうな女を誘拐して来られたのか。生活パターンを把握して尾行して、人に目撃されずに攫ってこなきゃいけない、超えるべきハードルは多い。そしてこの女のために大金を払った親は、消えた娘を探さないの?隠し部屋などがあるならともかく、見た感じ、女は地下室で剥き出し状態で繋がれているのだが、行方不明者の捜索をどうやって逃れているのか。
 
それに、ジジイの、娘の幼いころのビデオを流しながら眠る習慣と、娘を殺した張本人を妊娠させてもう一度子供を得ようって思考がまったく繋がらないんだよねえ。老人の狂気と精神崩壊を表すような説得力もなく、それらしくて観客が驚くようなオチを入れちゃえってだけ。剛腕に見せてるけど、めちゃめちゃ細腕。
 
ロッキーとアレックスはうまいこと地下室にジジイを手錠で繋ぎ、家の外に出ようとするが、鍵を開けた瞬間、アレックスが追ってきたジジイに撃たれる。
 
 
・・・手錠は・・・どうやって?
 
 
外に逃げ出したロッキーはゴーストタウンを走り、柵を超え、相当な距離を逃げる。追ってきた老人の犬をどうにか退けるが(犬との攻防は面白い)、背後に現れた老人に殴られ、再び連れ戻されることになる。
 
・・・。
これはもう、ジジイの目、見えてるよね?
 
 
どうやってロッキーの位置を知り、こんな距離を追ってきて、気づかれずに背後に回ったん?ここまではチクチクとケチをつけている自覚はあったけど、ダメダメ、これは見逃せない。最初は「目が見えない」「感覚が超人並み」設定だったものの、だんだん無理が出てきて、「も、いっか。このジジイはね、元軍人なの、それに人を恨んでるの。だからものーすごくつおいの!」で押し切りやがった。いや、全然押し切れてないよ。ホラーと呼びますか、そんな映画を。
 
あと、「観客への目配せ」感が強い。老人から金盗むっていう行為を正当化するために同情すべき事情を作ったり。この子たちワルだけど、老人も実は変態じみた狂人だったんでトントンですよね?って。多分この映画一番の見せ場の、ロッキーと犬との闘いにしても、犬はあくまで殺さず(あんな凶暴な犬は殺せ)、動物愛護団体に目配せしよったな。怖くないわ、ドキドキもしないわ。
 
テレビを消そうとしたとき、エンドロールに私は見た。
「製作:サム・ライミ」の文字を。
 
 
なるほどなるほど。合点がいった。
 
 
ポルターガイスト』(2015年)、『ゴースト・ハウス』(2007年)、『スペル』(2009年)、『ポゼッション』(2012年)、どれも私は『ドント・ブリーズ』と同じ反応をしてきた。そう、鑑賞後、ソファの上で無表情になっていたのだ。あまつさえ、育休時代、せっせとホラーを観ていた期間のインスタに「サム・ライミ製作のホラー、つまらん」と書いているではないか。ここは、自分のブレなさに拍手を贈らせて下さい。
死霊のはらわた』は好きよ。
 
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私が描いたのではありません。以前夫が描きました。
 
 
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