Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『ゴールデン・リバー』

 
皆さん、こニャンちは。
 
先日、S氏から「四月にクルレンツィスが来日する。歴史に残る第九になるかもしれんぞ」とメールが来たのですが、私はクルレンツィス氏が誰かを知りません。
 
誰も興味ないでしょうが説明すると、S氏は元々、私の夫の同僚です。家に遊びに来るうちに、たまたま居合わせた私の父とクラシックの話で意気投合、私の知らんとこで、手紙やCDをやり取りしているようなのです。なんだそれ。
 
なので、まあ父のためにクルレンツィス氏の公演のチケット取ってやれというメールだったんですね。「優しくしてやれよ」と書いてあったのですが、一体わたしのことをなんだと思っているのでしょうか。
 
じゃあ、うちの父が優しくされて喜ぶタイプの老人かというと、ノー。大病して身体こそガリガリですが、頭と自立心とプライドだけは人一倍キレているジジイで、ロッキンなエピソードには事欠きません。そんな父が「今回のクルレンツィスを聴けたら死んでもいい」みたいなことを言っているので、何とかチケットを取りたいところですが、激戦らしい。ゴールドラッシュ並みのチケット争奪戦となりそうだよ。この流れ、天才かよ。
 

◇あらすじ
ゴールドラッシュに沸く1851年、最強と呼ばれる殺し屋兄弟イーライ&チャーリー・シスターズは、町の権力者「提督」の命を受けて、黄金を探す化学式を発見したという化学者を追っていた。連係を務める男とともに化学者を追う兄弟だったが、ともに黄金に魅せられた男たちは、成り行きから手を組むことに。しかし、本来は組むはずのなかった4人が行動をともにしたことから、それぞれの思惑が交錯し、疑惑や友情などさまざまな感情が入り乱れていく。(映画.com)
 
シスターズ兄弟の兄にジョン・C・ライリー、弟にホアキン・フェニックス化学者にリズ・アーメッド、連絡係の男にジェイク・ギレンホールという超クセがありそうな顔ぶれでお送りします。
 
まず、この映画が面白いのが、監督がフランス人である点。
面倒くさいので、一足先に本作を取り上げたふかづめたんの『シネマ一刀両断』からパクると、
 
アメリカ西部になんの思い入れもないであろうフランス人のジャック・オーディアールが監督を務めていることから分かるように西部劇正史からは大きくかけ離れた作品」であり、「全ライリスト、全ホアキニスト、全ジェイカー必見の作」なのだ!
 
ライリストなんているのかよ。
 
何だか暗くて地味そうなこの映画に、私が劇場公開時から目をつけていたのは、もちろんジェイク・ギレンホールが出ているからに他ならない!(例によって主演ではない!)
私の好きな俳優と言えばジェイクとキリアン・マーフィだが、バーミンガム辺りで威張り散らかしてばかりのキリアンと異なり、ジェイクはコンスタントに映画に出てくれるし、特に昨年は出演作公開が続いた。『世界にひとつのロマンティック』(2015)は記憶から消去するとして、キャリー・マリガンとのワイルドライフ(2018)や本作は、らしいなって感じでした。ジェイカーの私としては、とても嬉しい。
 
まあ、最も存在感を放っていたのは、原作の『シスターズ・ブラザーズ』に惚れて映画化の権利をゲットしたジョン・C・ライリーだったが。
 
「ジェイカー」という言葉もふかづめたんが編み出したものだった。著作権を侵しまくったお詫びとして、将来ふかたんが本を出版したときは、300円までなら買うし、「著者近影」の写真は私が撮ることを約束します。カメラは苦手です。
 

◇シスターズ兄弟★珍道中
巷のうわさ通り、西部劇だと思ったらなんか違う。金に群がる人間たちの醜悪さや欲望が描き出されるのかと思ったら、どうもそんな感じでもない。
 
西部劇の定石に照らして語るほど西部劇を観てはいないが、それでも「こういうモンだろう」というイメージはある。例えば、敵と味方の間に引かれた境界線であったり、お約束のキャラクター造形(ニヒルor乾いてるor飄々)であったり。だが監督はフランス人であるので、そもそも「こういうモン」に拘泥する様子もなく、観客は、物語が徐々に西部劇のラインからズレていく感覚を味わうことになる。
 
シスターズ兄弟は、提督ルトガー・ハウアーの命令で、砂金を特定できる薬品を発明した科学者リズを追っている。先の町マートル・クリークでは、兄弟が到着するまでの偵察役として、ジェイクがリズを見張っていた。本作でのジェイクは気取り屋で、報告記録や手紙を書く時にもどこか詞的になりがちなインテリジェンス野郎。やはり思考を掘り下げるタイプであるリズに共鳴すると、共に理想郷を実現すべく、あっさりと役目を放棄してしまう。
 
兄弟が目的の町についてみれば、寝返ったジェイクとリズは既に発った後。彼らを追ってジャクソンビル→メイフィールド→サンフランシスコと旅をしていく中で、歯ブラシを手に入れたり酔っ払って馬から落ちたり森で蜘蛛に刺されたり、メイフィールド一族を返り討ちにしたりと、ジェイクとリズに関係のない物語が綴られていく。
 
とにかく、シスターズ兄弟の素の顔とやり取りが面白い。
 
アホの弟、ホアキンは、いつも酔っ払っている。
一見狂暴そうなジョン・C・ライリーは、弟のフォローに明け暮れる面倒見のいい兄貴。ライリーに関しては、そこここで垣間見られるコンプレックスの描写が、なかなかに切なくて。女性からもらったショールを夜な夜な取り出してスーハーするライリー。買った娼婦にそのシチュエーションを演じさせ、「もっと優しく」「そこはショールを見ないと!」と細かい演技指導をつける。
 
ある店で買った歯ブラシで初めて歯を磨き、口臭を確かめてニマッとするところでは、なぜか胸がキュンとね。あれ・・・?わたしジェイクを観てたのに、いつの間にか、磨いてんのが歯だか唇だかも分かんないライリーにキュンとしてるぞ、みたいなね。
慣れた仕草で歯を磨くジェイクと、口を泡だらけにしながら縦磨きに懸命なライリーの対比で、彼が殺し以外で如何に不器用な人間かがとっても分かる。
 
私のオススメシーンは、兄弟が殺し屋家業をやめるやめないで揉めるシーンだ。前の晩、ライリーを殴ったことを覚えていないと言い張るアホアキン
 
ホアキン「じゃあ、俺を殴れ、それでチャラだ」
ライリー、グーで殴る。
ホアキン「いってー、俺は平手だっただろうが!」
ライリー「ほーら、覚えてるじゃんか!」
 
うーん、どうにも締まらない殺し屋たち。でも、嫌いになれない。
 
観客は早いうちで、あ、これは西部劇ではなくて、「殺し屋ブラザーズ★珍道中」なんだな、と気づくことだろう。
 

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この眉間の線は、どうやったら入りますか?
 
 
兄弟はジェイクとリズに追いつくが、メイフィールドの部下を撃退するために共闘、あっさり和解して共に黄金探しに勤しむこととなる。どこかでシスターズが牙を剥くではないかしらという私のつまらない予想が当たることもなく、自然の中で楽しそうに過ごす。
 
しかし、牧歌的な雰囲気は長くは続かなかった。
やらかしたのは、やっぱりアホアキンであった。
 
リズの作った薬品は、川の中に流すと砂金だけがキラキラ光るというものだが、水の中に入る時間を限定しなければならないほどの劇薬。だが、砂金の輝きに興奮したアホアキンは、「もっと入れろ!」と薬品の入った入れ物をひっくり返してしまう。それをモロに浴びたジェイクとリズは瀕死の状態となり、アホアキン自身も右腕に重傷を負う。
 
夢の時間は終わりを告げる。
リズは息を引き取り、アホアキンはジェイクに銃を握らせ、彼の苦しみを終わらせる。
 
 

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ハァ、やっぱジェイク、かわいいわ。

 
 
◇珍道中の最後は帰郷だった
四人に偶然共通していたものは、強権的であった父親の影を払えず、いまだその影響下にいるという点だ。幼少期の恐怖を共有するがゆえに固く結ばれていたシスターズ兄弟は、図らずも同類であるジェイクらとの縁を得て、初めて他者と交流することになる。繊細で内向的なライリーはリズに心の鬱屈を聞いてもらい、ホアキンとジェイクは川で遊びながら何となく友情を深める。
 
兄弟のボス「提督」は、名前こそ頻繁に上るものの、画面上では遠目で窓越しに映されるのみ。また、ホアキンが殺したという実の父親も、夢の中の影としてしか現れないため、人物というより概念のようだ。

兄弟は、幼少時代は父親の、そして現在は父親に代わる存在である「提督」の支配下にある。終始二人が大人になりきれていないと感じるのは、このためだろう。兄弟は、ジェイクとリズの死の犠牲を経て、
父親の呪縛から解放されるため提督を殺すことを決断する。そしてクライマックスでは母親の元に戻り、ようやく失われた子供時代を過ごすことができるのだ。
 
この支配から卒業、ってことだな、まさに。
いや、『卒業』を聴くと鳥肌が立つって言ってるじゃん。
 
つまるところ本作は、兄弟の離郷と帰郷の物語であろう。
 
私は、この結末はハッピーと見たが、ジェイクとリズとの出会いで一瞬崩れた閉鎖的な世界が、再び閉鎖してしまったことを考えると、まさに「理想郷は理想であった」とする皮肉な結末なのかもしれないよね。
 
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