Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『オフィシャル・シークレット』

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監督:ギャビン・フッド キャスト:キーラ・ナイトレイレイフ・ファインズ/2019年

こんにちは、金曜日ですね。
以前、私の親友リエコが唱える「主婦の味方はスタローンではなくシュワちゃんである」説を紹介しました。しかし、先日会ったとき、「私もスタローンについて考え直した」というの。何でもNHKの番組で、登山中に遭難した男性のドキュメンタリーだか実体験を基にしたドラマだかを観たんだって。その人は滑落して足から骨が飛び出る大怪我を負ってしまい、ランボーでスタローンが傷口を松明の火で焼いて消毒するシーンを思い出し、同じように処置したのだそうだ。

リエコNHKさんが『ランボー』を認めた瞬間だった。『ランボー』もそんな風に現代の人の役に立っているんだね、病床のトンコツラーメンとか頼んでもないピザとか言ってごめんね」

なんか、むかつくわ。理由は分からないんだけど、ムカつく。

リエコ「でもね、その人、傷口に蛆が湧いちゃったんだって!医者が言うには『温められてハエの温床になるので傷口を焼くのは間違い』だって。『ランボー』が間違っていると証明された瞬間ww」

うっせぇうっせぇうっせぇわ!あなたが思うよりあの山は寒いです!

怒りを鎮めるために『オフィシャル・シークレット』を観ました。


◇あらすじ

2003年、イギリスの諜報機関GCHQで働くキャサリン・ガンキーラ・ナイトレイは、アメリカの諜報機関NSAから驚きのメールを受け取る。イラクを攻撃するための違法な工作活動を要請するその内容に強い憤りを感じた彼女は、マスコミへのリークを決意。2週間後、オブザーバー紙の記者マーティン・ブライト(マット・スミス)により、メールの内容が記事化される。(映画.com)

映画に限らず法廷ものと新聞社ものが好きです。『オフィシャル・シークレット』は、同じ状況をアメリカの新聞記者を通して描いた『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2017)と併せて観ました。
当時の情勢をチャッと振り返っておこう。誰のために。将来このブログを読む娘のために(こんなもの読ませるんかい)。
9.11の同時多発テロをきっかけにテロとの戦いを宣言したアメリカは、2002年1月ブッシュ大統領イラク、イラン、北朝鮮の三国を「悪の枢軸」であると批判。政権内でネオコン新保守主義)の中心人物ウォルフォウイッツ(当時国防副長官)らがイラクへの武力行使を画策していた。アメリカは大量破壊兵器の存在を口実にイラクに査察団を受け入れさせたが、見つかったのは湾岸戦争時の遺物のみで、噂されたような移動式最新兵器等の存在は証明できなかった。そのため、アメリカ・イギリス以外の国連安保理常任理事国は攻撃反対の意を示していたが、ブッシュはイラクでの人権抑圧やフセインアル・カイダとの関係を理由として国連決議なしでイラクに侵攻、2003年3月に空爆を開始した。

『記者たち』は、「ナイト・リッダー」社の記者たちがこの戦争に道義はないと発信し続け、しかし奮闘空しく戦争が始まってしまうところまでを描いた映画だ。「ん?新聞記者?」と目を疑うほどゴツいウディ・ハレルソンジェームズ・マースデンが汗を拭き拭きネタを掴んでは裏を取り、デスク(監督のロブ・ライナーだ)にケツを叩かれながら大きな体を縮めて執筆する、たまに他社に抜かれて悔しがる・・というゴツめの本筋に、爆撃で半身不随となった若い兵士のストーリーを交え、この戦争が如何に間違った判断であったか、湾岸戦争と合わせてどれほど多くの兵士を無為に死なせたかを糾弾する内容になっている。

ブッシュの一般教書演説、パウエルの国連代表団に向けた演説などの実際の映像も多く差し込まれ、さらにジェームズ・マースデンの恋の話にまで広がるので若干目まぐるしいのだが、手際のよい編集のおかげで当時の状況や雰囲気が分かりやすく伝わる。そのせいなのかそのせいでないのか、ストーリーの面では上がり切らなかったなぁという印象。ロブ・ライナー「我々は他人の子を戦争にやる者の味方ではない、自分の子を戦争にやる者の味方だ」と社内に奮起を促すシーンや、ウディ・ハレルソンが難攻不落の情報提供者から重要な情報を得るシーンで「こっから反撃じゃあ」と胸が躍るものの、最後はイラクでの爆撃を見守るナイト・リッダーの面々の無念の表情を映して終わってしまうもんで、私の胸の小躍りも尻切れトンボとなったんである。

 

◇ようやく本題

リズムのよい編集により多くの情報を扱った『記者たち』と比べると、『オフィシャル・シークレット』で見るべきものはシンプルだ。信念に従って戦争を止めようとした女性と彼女を守ろうとする記者や弁護士たちの奮闘の物語である。ちなみに実話をベースにしている。
キーラ・ナイトレイ演じるキャサリン・ガンはGCHQ(イギリスの諜報機関)での勤務の最中、NSA(米国家安全保障局)からの機密メールを受信する。それは国連代表国の特定の数カ国を監視せよとの内容で、イラク攻撃に反対をする動きがあれば圧力をかけて賛成に転じさせることを暗に求めるものだった。彼女はかつての同僚を経由してこれを新聞社へリーク、世に不正を訴えようとする。

とにかくドキドキするのが、キーラが機密メールを印刷して外に持ち出し、震える手でポストに投函するまで。彼女は諜報員として契約書にサインしているので、この行為は「公務秘密法」違反、れっきとした犯罪行為である。キーラはもちろん情報の出所を隠したつもりだったのだが、反戦活動家の記者からオブザーバー紙の記者マット・スミスの手に渡ったメールは、文面そのままに掲載されたため漏洩元が特定されてしまい、GCHQでは厳しい内務調査が始まる。この犯人捜しのシーケンスがまたドキドキで。そして緊張の糸は、キーラが自らリーク犯であると名乗り出ることで解かれることになる。実話は時に創作よりドラマティックとでも言うべきか、メールがまんま紙面に載ってしまうところとか、いくつかの単語の綴りをオブザーバー紙の校正担当がいつもの癖でイギリス英語に直したために、特ダネが一瞬で偽物になってしまうなんてエピソードも面白かったなー。

キーラが起訴された後は、彼女を助けようとする人々が法廷でどう主張するか戦略を練る展開となっていくのだが、ここから登場する弁護士のベン・エマーソンレイフ・ファインズが頼もしい!他の弁護士たちは、判事に情状酌量を訴えるのが現実的であると提案する。自ら罪を認めれば、同情を禁じ得ない状況を鑑みて恐らく半年ほどの服役で済むだろう。しかし、それでは前科がついてしまう。そしてキーラは何より、国が国民を裏切ったのに法律に対抗できないからといって罪を認めることに納得できない。

刑事に「あなたは政府に仕える諜報員だろう」と非難されたキーラが、「私が仕えてるのは政府ではない、国民だ」と切り返すのが胸アツだった。この映画で重要なのは、被告となる人物が、勤務先こそ特殊な組織であれ一般の女性ということだったと思う。イーサン・ハントやジェームズ・ボンドのように揺らがぬ精神力を持つスパイでなく、普通の女性がブルブルと手を震わせて怯えながら意志を貫こうとするさまに、こちらも自然手に汗握る。同じテーマながら、『記者たち』では自国の兵士たちを守れと訴えるのに対し、こちらではイラクの一般市民の犠牲を憂慮していたのも良かったな。

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現在でも法廷でこんなカッコするんですな。

キーラや弁護士たちが「いかに軽い罪で決着させられるか」を話し合う中で、レイフ・ファインズがある提案をする。これが一同の発想からかけ離れたものなのだが、せっかくなのでネタバレせずにおこうと思います。

まぁ、キーラ然りレイフ・ファインズ然り、清廉に過ぎると言うか、皆が皆自分の生活を犠牲にして信念を貫けるものだろうか?とやや綺麗すぎる嫌いはあった。例えばラスト、レイフ・ファインズが検察側の友人をあくまで突っぱねるシーンとかね。あちらさんも立場が違うだけでアンタと同じく仕事だったわけだし、和解に来ているじゃないかよー。

映画の話でなくなってしまうが、妙に職業倫理について考えてしまう作品でありました。『記者たち』に物足りなさを感じたのは、恐らく私が新聞記者という職業に多分に敬意を抱いているためだと思う。彼らが各所各場面で経験する忍耐や踏ん張りは、一般企業人のものとは種類もレベルも大きく異なる。(諜報機関と並べるのはナンだが)GCHQの人々がそうだったように、国民に影響を与える情報を扱う組織には何というか、個々に一般企業ではまず見られない責任や自浄の意識があり、その点をいつも偉いなぁと思っているんだ(日本のどこ新聞は国賊だとかマスゴミがどうだとかは聞き飽きている。もっと根幹の、個人の信念の話だ)。だから、記者の奮闘を描いた作品では、どうか報われてくれと願ってしまうんだ。

キーラ・ナイトレイは口元が特徴的で、実は笑った時の顔が苦手なのだが、逆に表情があまり動かない役であったことが奏功したと思います。今日は、半分は『記者たち』と、映画に関係ない話だったので次回がんばります。

(C)2018 OFFICIAL SECRETS HOLDINGS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『悪の法則』

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監督:リドリー・スコット キャスト:マイケル・ファスベンダーペネロペ・クルスキャメロン・ディアス/2013年

みなさん、こんにちは。
硬派で知られる当ブログですが、親友のリエコから「イケメン度が足りない」とクレームがつきました。あんたのイケメンて、ペニーワイズとかエディ・レッドメインだからなァ。よし、ならば、こちらのイケメンを拝むがいい。

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プロフィール:
キャスパー・ユンカー(27歳)、通称ユン様。現浦和レッズ所属のデンマーク出身FW、昨年ノルウェーリーグの得点王&MVP。ステップアップの先として浦和を選び(もっといいとこあったのでは?)コロナを物ともせず来日。初出場から4試合連続5得点を記録し、レッズサポーターのハートを鷲掴む。独身。現在「キャスパー、私(俺)を抱いて(くれ)」と思っていないレッズサポは全体の0.1%を切る。

リエコに紹介したところ、「デンマークと言えば、ホラ、北欧の至宝だとかいう俳優もデンマーク人だったよね。ミッツ・マングローブセンだっけ?」。うっかりさんのフリはやめろ。「セン」が出てくる時点で、ホントはわかってんだろうが!(念のため、マッツ・ミケルセンです)
キャスパーは墨入れまくっていないところも好印象(前回W杯でリエコ、「デンマーク代表にカビキラーかけていい?」と暴言を吐く)。

というわけで、本日はイケメンパラダイス(?)な『悪の法則』をご紹介します。
まぁまぁつまんなかったでーす。ネタばれです!

 


◇あらすじ

若くハンサムで有能な弁護士(カウンセラー)が、美しいフィアンセとの輝かしい未来のため、出来心から裏社会のビジネスに手を染める。そのことをきっかけに周囲のセレブたちにも危険な事態が及び、虚飾に満ちた彼らの日常が揺るがされていく。(映画.com)

リドスコ監督&ノーカントリー(2007年)で知られるピュリッツァー賞作家のコーマック・マッカーシーが書き下ろしたオリジナル脚本。キャストは、ハンサム代表のマイケル・ファスベンダーにセクシー代表ブラッド・ピットハビエル・バルデム、ゴージャス代表ペネロペ・クルスキャメロン・ディアスと揃い踏みである。セクシーとゴージャスの波で溺れそうでした。観た後は寺に行きたくなった。

 


◇哲学問答がつらい

話の筋としては上の通り。主人公の“カウンセラー”(マイケル・ファスベンダー)は弁護士として成功し、美しい恋人(ペネロペ・クルス)と婚約して幸せの絶頂にあった。冒頭は、マイケル・ファスベンダーペネロペ・クルスとベッドの上でジャレ合う幸福なシーンで始まる。そこから友人の実業家ライナー(ハビエル・バルデム)の自宅を訪ね、彼の紹介で麻薬ブローカーのウェストリー(ブラッド・ピット)と会い、麻薬ビジネスの心得を伝授される・・・というように進んでいくのだが、とにかく会話中心でワンシーンが長く、限られた人間関係と現況以外が見えてこない。

一見、無意味なシーンに意味があることは分かる。例えば、マイケル・ファスがペネロペに贈る婚約指輪のダイヤを購入するため、アムステルダムの宝石商ブルーノ・ガンツを訪ねる場面。ここでは、分不相応な宝石を前に彼の虚飾性や見栄っ張りで強欲な性質、裏世界に足を突っ込んだ理由が垣間見えるだけでなく、長々とダイヤについて語られる講釈が映画全体のテーマを示唆しているだろうことは分かるんだ。「完璧なダイヤは全くの透明」「我々は瑕疵を見つけることで値段をつけていく」「長所ではなく、短所を見る」、つまりこの世も同様に、選択・選別の繰り返しだということなんだろう。

とは言え、「長い」「何言ってんだ?」の疑問符が頭に浮かびまくることは否めない。

あと、ビジネス仲間のハビエル・バルデムとブラピね、この二人が出てくる都度、前者は「お前、ホントにこのビジネスやるんだな」「抜けられないぞ」とファスをビビらせるか女のアソコの話をし、後者は「お前、ホントにこのビジネスやるんだな」「甘くないぞ」とファスをビビらせるか女の話をする。始まって一時間、一体マイケル・ファスは具体的にどのようにビジネスに関わっているのか、卸元であるカルテルはどんな組織なのか?など全容が不透明なまま、二人が「やばいよ、やばいよ」としつこく警告してくるって状況、ただそれだけ、何も起こらない。早く起これや。
マイケル・ファスがペネロペとイチャつく⇒キャメロンがビッチぶりをあの手この手で披露⇒バルデムがファスを脅す⇒ブラピがファスを脅す⇒ファスがペネロペとイチャつく・・・と、特に話が進まないシーンが細切れに、更に妙に哲学じみた会話劇により展開されていくのである!ド退屈やで。大体どう見ても柄シャツ成金のバルデムが、急に詩を引用し出すことのちぐはぐさよ。

女性たちに関しては、ペネロペが裏世界に縁のない素晴らしい女性であること、対してキャメロンが如何に危険な香りのする女かを強調し、末路の残酷さをより際立たせるための演出なのだろうが、キャメロンについて車とセックスするだの神父に性事情を告白しに行くだの「悪趣味」の一言で片づけられるエピソードばかり。変態的なセックスの話させときゃ、危険で奔放ってか(ヒョウの入れ墨もあざといしダサい)。

私、あんまりペネロペ・クルスの作品って観ていないんだけど、その中ではそれでも恋するバルセロナ(2008)が良かったんだよね。いっそ、ペネロペとキャメロンは逆が良かったのではと思っちゃうのは安易だろうか。どうしても、キャメロンのカエルのような愛らしい顔が闇社会の女に見えない。『それでも恋するバルセロナ』は結構好きなので、中身と合っていない邦題をなんとかして欲しい。劇中で夫婦役だったハビエル・バルデムとペネロペは実際に結婚したんだよなー(リエコから、『悲報!ペネロペたんがカバと結婚した!』ってメール来た)。

 


◇流石の手腕と言わざるを得ないんだけども

「何も起こらない」、この言葉が脳みそ空っぽな感想だなってことは私も分かっている。「何も起こらない」とガッカリするのは、何か起こる=誰かが死ぬとかドンパチが始まるとかを勝手に期待してのことだものね。で流石に、リドスコが敢えて、全容をボカし、その時の状況をポンポンと配置したことは分かる。そしてそれは、「敵が明確でなくいつどこからやってくるのかわからない」ことと作用して、得体のしれないものが徐々に忍び寄る恐怖を感じさせる効果があると思う。

特徴的なのは、本作にはカルテスのボスのように分かりやすい敵が出て来ないことだ。コカインをバキュームカーに詰める奴、それを取りだす奴、捌く奴、人を殺すように電話一つで命令する奴、金で雇われて人を殺す奴、歯車はそこら中に配置されている。前半の会話の中に思わせぶりに登場する「動き出したら誰にも止められない」ボリートという処刑器具は、この無機質なシステムからは逃れようがない男たちの運命を示していて、さらに誰よりも用心深く振る舞っていたはずのブラピが、その道具の犠牲になるという皮肉。

あるカルテルのメンバーにマイケル・ファスが言われる「すべてはお前の選択だ」。ブラピは、わずかな気の緩みが原因で命を落としてしまった。マイケル・ファスの過ちは、成功を収めながら欲を掻いたこと、そして選択の失敗は表の職業で扱った事件を軽視しやるべきことを怠ったこと。ほんのわずかなミスだった、まるでダイヤについた傷のように。だが、その微かな傷に偶然と不運が重なることで致命傷となる、常識の通用しないシステマチックな世界に足を踏み入れる選択をしたのも彼らだった・・・。

 

ってまあ、そんな感じ。マイケル・ファスに起こったある不運から、前半の点が繋がれていき布石を絡め取って、緊迫感に満ちた展開に持っていくのは流石の手腕と言わざると得ない。得ないんだけど、「それだけかぁ」って思ってしまった。そして、キャメロンがやたらと繰り返す「I'm starving」(当然、肉だろう)のせいで、「私は野菜が食べたい」ってなった。

例え後半で上手く回収されたとしても、私は前半の無意味な時間を恨む。例えばカメラを止めるな!(2017)で真相が明かされ「ああ、そういうことだったのね!!」とスッキリしたとして、だからどうした?って思ったでしょ。無意味な画面は無意味な画面だ。後で意味を説明されたからって、その時点で無意味だったことに変わりはないじゃないの。

リドスコは、前作の『プロメテウス』(2012)といい『エイリアン: コヴェナント』(2017)といい、妙に哲学に触れていたが、もうこっち方面で行くのかね?

引用:(C)2013 Twentieth Century Fox.

『アリー スター誕生』

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監督:ブラッドリー・クーパー キャスト:レディー・ガガブラッドリー・クーパー/2018年

皆さん、こんにゃちは。コロナはだいじょーびですか?

息子が新一年生になり忙しい日々を送っていました。しかし息子は、「お友達できるかな」とドキドキしながら通い始めた姉とは異なり、当たり前のような顔で出かけていき、当たり前のような顔で帰ってくる。

数日経って「お友達できた?」と訊くと「できないよ」と言う。しばらくして同じ質問をしても答えは同じ。時々、教室に様子を見に行ってくれているらしい娘(←優しい)によれば、「皆校庭に遊びに行ってるのに、一人で椅子に反対に跨りひたすらガタガタさせていた」「廊下で一人、タコのように踊っていた」らしいので、ちょっと不安に思っていた。が、通学班班長のミサリンから「朝、校門で男の子と『おう、○○!』ってタッチして一緒に教室行ってたよ」という情報がもたらされ、息子に「友達できたんだね」と再び訊くと「仲のいい子が3人いるよ」。「だって、いないって言ったじゃない?」と言うと、「おんかが『友達できた?』って訊いた日にはできていなかった」と。

なるほど・・・。息子の思考回路や発想は私のものとは異なるので気を付けねばなりません。

さて、そんなこんなで、本日は『アリー スター誕生』です!

 

◇あらすじ

音楽業界でスターになることを夢見ながらも、自分に自信がなく、周囲からは容姿も否定されるアリーは、小さなバーで細々と歌いながら日々を過ごしていた。そんな彼女はある日、世界的ロックスターのジャクソンに見いだされ、等身大の自分のままでショービジネスの世界に飛び込んでいくが……。(映画.com)

映画好きの鬱陶しい友人S氏に「『アリー スター誕生』を観たよ」とメールしたら、「イーストウッドビヨンセで撮るはずだったんだよな」と返ってきた。多少の映画好きならまずそう言うだろうし、無視できない事実だよね。イーストウッドを愛するS氏がコレを観たならば、「イーストウッドなら、こう撮っただろうになあ」とイメージが湧くんだろうけど、私はイーストウッドについて知見がないので、そういった想像ができなかったのが残念。ちなみに知見があるS氏は、本をよく読むくせに言語化の能力を著しく欠いており、脳内でしか文章を書けないので代筆してもらえないのも残念です。


◇ガガ様が愛しくて仕方ない

歌手になることを夢見ながら地元のバーで歌うアリーレディー・ガガが、有名ロックバンドのボーカル、ジャクソンブラッドリー・クーパーに見出され、スターダムに駆け上がっていく様を描いた本作。

鑑賞後に少し巷のレビューを読んだんだけど、皆さんおっしゃる通り、アップショットが多いね。ってか、アップショットの嵐だね。観た後、映画好きの同僚(美女。好きな音楽映画は「ファッキン、テンポー!!」)にお勧めしたんだが、やっぱり「よかったけど、意味のないアップにちょっと笑ったわ」と言っていた。ただ私は、前半はそれがまったく気にならなかった。つまり、気にならないほど、物語に夢中になってしまったのであーる!
ガガが成功を手にするまでの胸が躍るような展開や歌唱シーンがとても好き。スーパーの駐車場で即興で歌を作るシーンや、クソみたいなバイト先を飛び出し、クーパーが手配したプライベートジェットでライブ会場に向かうシーンなどから伝わる高揚や疾走感、恋愛の喜びと歌に捧げる二人の情熱に、こちらの胸も熱くなる。

もちろん、この評価には、映画には直接的には関係しないガガの素晴らしい歌声が影響している。それくらい、ガガの歌にはグッとくるものがある。

さらに、激変する状況に追いつけず戸惑うガガの細かな仕草が愛しいこと。地元のバーの楽屋にクーパーが訪ねてきたときの「ワオ、嘘でしょ?」という表情だったり、大観衆の前で尻込みし、歌い出しはするものの何度も顔や口を覆ってしまう素振りなどが好ましい。彼女がプロのアーティストに徹し始める後半から振り返ると猶更、それらがなんとも初々しく、現実のガガも最初はこうだったのかな~、と想像してしまうほど素朴で自然体なのだ。もちろん、この映画には、「鼻を直さないと売れない」と言われたことなど実際のエピソードが採用されているわけだけど。

ちなみに現実のガガについて、あの独特の表現方法や言動は好きだが、楽曲はあまり響いてこない。私の中の好きな音楽の一つの基準として「聴き続けられるかどうか」があり、例えば最近で言えば、『オフィシャル髭男dism』とかKing Gnuとかさ、単発では「あ、いいじゃない」って思うんだけど、不思議と聴き続けてはいられないんだよねぇ。二、三曲で、もういっかな、となってしまう。残念ながら、ガガの音楽はこちらに分類される。

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◇クーパーが愛しくて仕方ない。

芸術やエンターテインメントの分野で成功を収める物語では、一旦は成就し、その後に今一度障害があり、愛する人や周囲の人間に助けられて立ち直るまでを描くのが定石だろうと思う。面白いのは、本作では堕ちていくのが、スターになったガガではなくパートナーのクーパーだということだ。ガガは、この映画の中で超優等生である。クーパーのバンドで歌ううち、著名プロデューサーにスカウトされて契約する。当初は「私の武器は歌よ」と主張するものの、彼のアドバイス通りダンスを学び衣装や髪型を変えて、歌手に留まらないアーティストとしてグラミーにノミネートされるまでになっていく。そして、その傍ら、アル中のクーパーを支え続ける。

つまり、人に頼りながら依存せず、自分の道を突き進むために努力を怠らない真面目で賢明な人物であるわけだが、クーパーの方は残念ながら、彼女ほど心の強い人間ではなかった。恐らく近い将来絶たれてしまう音楽の道、また離れていくガガに焦燥し、孤独感に苛まれて酒に溺れていってしまうのだ。ここからの、酒に逃げ、立ち直ろうと酒を止め、障害にぶち当たってまた酒に逃げる・・・を繰り返すクーパーにはハラハラさせられる。特にグラミー授賞式で最悪の失態を犯す際の演技はリアル。

突然ですが、ここで、誰よりも酔っ払いに詳しい私、やなぎやが酔っ払いについて解説しましょう。私自身は酒が飲めません。それほど親しくない保育園のママに飲み会で「やなぎやさんは、まずポン酒でOK?」といわれ、ある知り合いの夫婦に酒飲めないと告げたら、「今年一番驚いたな」「ホントね・・・」という、本来夫婦二人になってから交わすべき会話を目前で聞かされた私ですが、体質的に飲めないんだよね。なのに、なぜか周囲は夫を筆頭に酒好きばかり。しかもこいつらが「明日を考えて飲むなど愚の骨頂」みたいな飲み方するので、素面で付き合っている側にしたら、思うところは色々あらぁな。

<酔っ払い初級>
・言葉が通じない。
・性格のイヤなところが出る。
・その場で寝る。起きない。
・翌日、何も覚えていない。

<酔っ払い中級>
・帰宅して素っ裸で寝ていたら、マンションの窓を掃除していた人と目が合う。
・できないくせに、意地でもなんか(皿洗いとか)やろうとする(結果できない)。
・トイレに行ったと思ったら、全く別の店から「何階だっけ?」と電話してくる。
・帰ってきたと思ったら、大量のクリスピー・クリーム・ドーナツを持っている。
・超、爪を立ててくる。
・財布を掏られる。

<酔っ払い上級>
・接待中、トイレに行くと言ってそのまま帰宅。
・帰りの電車で隣に座ろうとしたデブを「座らないでくれる?」と睨む(理由:デブだったから)。
・ホームレスと一緒に段ボールを被って夜を明かす。
・新宿に向かっていたはずなのに、雀宮(栃木県宇都宮市)にいる。
・栃木名物「レモン牛乳」の写真を送ってくる。

 

ムカつくぜぇぇぇ。こんだけやらかして、「俺たち(私たち)アホでーす。同じアホなら飲まなきゃ損、損!」とか思ってるのがホントむかつくわぁぁぁ。

だからさ、グラミーのシーンは、「ああ、やめて・・・今はやめて。むりしなくていいから家に帰って。」と祈りながら観たよ(そういう意味では、私の中でこの映画の主役はクーパー)。

でも。でもね、奥さん。ダメンズと嫌う前に聞いて。クーパーの愛らしさはヤバイんですよ。大体、この男、超イイ奴なのだ!アル中って点を除けばね。ガガの怪我した手に冷凍豆の袋を巻きながら、孤独な生い立ちを語るあたりからモウダメ。ファンのサイン要求に快く応じ(しかも偽オッパイにサインしてくれとか言う)、何か歌ってよという不躾な願いにも誠実に応えてくれる。スーパーの店員に無断で写真を撮られても、嫌な顔一つしない。スターであるのに傲慢さがないのだ。

ガガを自分たちのステージに引っ張り出し、彼女がようやく歌い始めたときの嬉しそうな顔。そして、ガガが別の世界に踏み出すと知ったときの、無言で頭をぐりぐり押し付けてくる嫉妬の示し方とかさ、うわー!ダメなやつなんだけど、かわいい。過去に「映画の登場人物に感情移入して、共感できないから評価しないなんておかしくない?」と偉そうに言ってきたが、私はこの映画でクーパーに思い入れた、感情移入しまくって泣いた。矛盾してるんじゃないかって?うるせえ、矛盾せずに生きてる人間なんかいんのか。

ただですねぇ、ただですよ、奥さん。この辺りから、うむ、アップショットが気になり出した。前半の華やかさに対し、後半は否が応でもクーパーの危うい精神状態に目を向けることになるので、それまで気にならなかったものが目についてしまったって感じかな。特にクーパー&ガガ、クーパー&アル中施設の職員のおじさん、ガガ&パパなどの一対一での会話場面が多く、さらに長く、交互にアップで映すだけなのはツライ。

それで思い返してみれば、この映画の欠点は、肝心のライブシーンに奥行きが感じられないってことではないだろうか。例えば、地元のバーでガガが『ラ・ヴィ・アン・ローズ』を歌う二人の出会いの場面、ここは無名時代だからこその、客との距離の近さが重要だと思うのだが、ステージからガガが下りてくるところ、そして客の間を歩くシーンでは彼女の上半身しか映っておらず、全体の雰囲気が分からないのだ。バンドのツアーに参加してからは、これまでとは比較にならないハコで歌っているにも関わらず、大歓声は聞こえど、ガガから見た客席、逆に客席から見たガガという画がほぼなく、臨場感が伝わってこない。ライブシーンが良かっただけに勿体なかった。

役者としての二人はとても素晴らしかったと思う。監督としてのブラッドリー・クーパーは・・・分からない。

引用:
(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

乳腺外科で出会ったヨーダ

皆さん、こんニャちは。

本日は映画以外のことを書きます。死んだと思ったら生きてたふかづめさんの真似をするわけじゃないんだけど、新学期のバタバタやら在宅やらで、映画の記事のストックはゼロどころかマイナス、しばらく落ち着いて観られなそうだから時間稼ぎです(自分へのね)。

 

乳がん検診で引っかかる

昨年6月の健康診断で受けたマンモグラフィー&超音波(エコー)検査で「所見あり(乳腺腫瘤)」、要はしこりがあるよとの結果が出て、イヤっちゃイヤなので、夏休みを取ったとき、近くの乳腺外来のある総合病院に行ってきました。

そこで診てくれたのが、50代くらいのヨーダみたいな顔した強烈なキャラクターの先生で。この人は、都内の大学病院の乳腺外科に所属していて、毎週金曜日だけ、うちの近くの病院に出向して来ているのね。で、私の受診理由を聞いた途端、「またか!オレは健康診断結果で『所見あり』って書くヤツが大っ嫌いなんだよ。どの辺りとかどういう状態だとか何センチとか詳細を寄越せないヤツは、死ねばいいのにと思ってる」とプンプン怒り出した。

「お医者さんが『死ねばいいのに』とは」と苦言を呈すると、ヨーダ「今のはよくなかった」と反省。その後、「ちょっと、下行ってね、ビャーッとマンモ取って、その後エコー取ってビャーッと帰ってきてくれる?」。

ビャーッとできたかは分からないけれど、言われた通り検査を受けて戻ってくると、結果を見ながら「この病院さー、機械が古いのよ!特にエコーがダメ、全然見えない」と、今私がしてきたことを台無しにするようなことを言い、「ココ、悪の事務長が仕切ってんだよ、そいつが金出さない」と裏情報をリークし出した。

さらに、自分は以前別の大学病院にいたが、現在の病院に「何でも好きにしていい」とヘッドハントされ、金も全く違ったので話に乗ったなどと頼んでもない自己紹介を披露、それをフンフン聞いていた私の前に突然、撮影した写真を突きつけて「うーん、針刺そっか」と言った。

※「針を刺す」・・・ヨーダは簡単に言うが、今となれば、そんなに気楽に言わないで欲しい痛めの生体検査。私がやったのは注射針より少し太い針を麻酔なしで胸にブッ刺し、バネの力を利用して組織を採取する「コア針生検」で、取った組織を病理に回して悪性か否かを検査するのだ。

ヨーダが言うには、私の場合は微妙なラインで悪性の可能性は10%くらい、だが疑いがある以上潰しておきたい、この病院では設備がないので本来自分がいる都内の病院に来てほしいとのこと。「もう少し様子を見ましょうという先生もいるだろうが、乳がんは初期に発見して手術すれば助かる病気。皆がもっと検査に来て、痛いからと検査を避けなければ、日本の乳がん死亡率はもっと下げられるんだ!」と熱弁され、拒否するつもりはなかったので予約をした。

一応「痛いんですかね」と訊くと、「全然痛くないよ」と断言された。

 

◇大学病院へ

結論から言うと、痛かった。というか不快感の強い検査だった。ヨーダは痛くないと言う割に「血が垂れる」「服が血で汚れると困るから」と繰り返していて、後になって考えてみればそれくらい血が出るような太さの針ってことだもんね。それにしても、またマンモとエコーを受けさせられ、どんだけ私のおっぱい潰すんだ!と思った。最近では、男性でも知らない人は少ないと思うが、上下左右にめっちゃ潰して、うすーくしてX線撮影するのね。しかしヨーダによれば、地元の病院の機器では「全然見えない」ので、再度受けるのも仕方ないか。

さて、その後、あれよあれよという間に看護師さんたちがベッドなどを準備して(皆「血が垂れるからねー」と言う)、いよいよ胸に針を刺された。痛い痛い、なんだろう、刺される痛みより、ぐーっと異物が肉に入ってくる感覚とたまに神経に触れるのか身体がビクってなることの不快感、バチン!バチン!とバネがハネるたびに組織が取られていると分かる感じが気持ちが悪い。まあ、注射関係でこれまでに一番痛かったのは帝王切開の時に2回経験している脊髄麻酔で、それよりはマシなんだけど、「痛くないんだ~」と思っていた分、天国から地獄。

「先生、痛いんですけど」と文句を言うと、ヨーダの奴、「ごめんウソついた。だって、痛いって言ったらみんな受けないんだもん!」。

ヨーダのウソは許せないが、このときの結果は悪性ではなく問題なし、となった。

 

◇定期検診

さらに昨日、半年後の定期検診に行ってきた。またしても下でビャーッとマンモとエコーを撮ってヨーダのところに戻ると、写真を見ながら、早速うちの地元の病院の悪口を言い出した。「あそこホント悪の事務長が金出さないからね。あ、でも、マンモはすごいいいヤツ入れたよ。あと、敷地広げるらしくて針も刺せるようになる」。私が「じゃあ、もう御免ですけど、次に生検受ける事あったら地元で受けられるんですね」というと、ヨーダのやつ、「エコーは全然ダメだけどね。もうね、潜水艦のレーダーかってくらい何も見えない」。

マジかよ・・・。潜水艦のレーダーって。今どれくらいの性能なのか正確には知らないけども。敵の位置しか見えないイメージなんだが。

そんなことを聞かされて呆然としている私に、ヨーダは撮影した写真を突きつけて「乳腺の方はまったく問題なしだったんだけど、ついでに撮った首のとこ、甲状腺に腫瘍が見つかっちゃったから、針刺そっか」と言った。

・・・。せめてもうちょっと、前置いてから言って欲しいです・・・。今日は私、定期検診だと思って気楽に来ているんで。

でも仕方ないので、まるで『ホステル』で殺されるのを待つ女のように、首を剥き出しにして、今度は首に針を刺してきました。「痛くないから」と言われたので、「いや~、先生、前回ウソついたじゃない」と言うと、先生も看護師さんたちもドッと笑って、今度はホントにあそこまで痛くはないですよ、とのこと。これもイヤな検査だったが、痛めの注射くらいだったかな。

こちらの結果はまだだけど、この先生「可能性を潰す」主義で、わずかでも疑いがあれば、すぐに組織検査するタイプの医者だと思うのね。だから大丈夫だと思います。

ちなみに、エコー写真の結果、「あなた、43歳!?43歳のおっぱいじゃないね、若い!」と言われたので、今度から「若いおっぱいのやなぎや」と呼んで頂ければと思います。

ではまた。チャオ。

『ヘッドハンター』

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監督:モルテン・ティルドゥム キャスト:アクセル・ヘニー、ニコライ・コスター=ワルドー/2012年

皆さん、こんにちは。娘が連日観ている『名探偵コナン』の海で溺れそうなやなぎやです。事件とか謎解きはいいんだけど(全然よくないんだが)、「二人って付き合ってるんですかぁー」「えっ、ちょ、ちょっとやだ!コイツとはただの腐れ縁!」「そ、そうだよ、誰がこんなヘチャむくれと」「なんですってぇ」と飽きもせず繰り返される何も生まないというよりむしろ毒ガス相当のやり取りを死んだ魚のような目で見てる。名探偵コナン』において、「幼馴染」と「付き合っている」ことの威力たるや国家資格レベル。

娘にコナンの口真似をしたり、「もうッ、どこ行ってたん!?うちと○○(娘)は血の絆で結ばれとんのやからねッ!」(関西カップルの女の真似)と抱きついたりしていたら、無事怒られました。なんでこんな話をするかと言うと、コロナで延期されていた映画の新作が4月16日から公開されるからだよ~。一人でアンパンマンを観に行く方がマシ。せめてここで愚痴らせて。夫に愚痴ったら「(たかだか子供のアニメにそこまで暴走できるなんて)大変だね」と生ぬるい微笑みを向けられたから。

というわけで『ヘッドハンター』を紹介します。
全面的にネタバレです。

 

◇あらすじ

物語は、一人の男が高級住宅街の留守宅に侵入し「末路は二つ。最高価値の芸術品に出会うか、あるいは捕まるかだ」という独白と共に手際よく絵画を偽物とすり替える、妙にスタイリッシュな映像で始まる。
舞台はノルウェーオスロ。有能なヘッドハンターとして成功を収めたロジャー(アクセル・ヘニー)は、美術品専門の窃盗犯という裏の顔を持っていた。ロジャーの何よりの宝物はゴージャスな妻のダイアナ。一方で168センチの身長に過剰なまでの劣等感を抱いており、分不相応な妻を芸術品のように崇めて生身の人間として向き合うことを避け、その鬱憤を他の女で晴らしている、なかなか最低なこじらせ男である。

ダイアナの画廊のオープンパーティの日、ロジャーはオランダ人のクラス・グリーブニコライ・コスター=ワルドーを紹介される。クラスはGPS開発で著名なHOTE社の重役だったが早期退職し、祖母から相続した家で暮らすためこの地にやって来たという。クラス宅にルーベンスの『カリュドンの猪狩り』が保管されていることを知ったロジャーは、警備会社に勤める協力者のオヴェとともに絵画を盗み出すが、クラスがただの早隠居のイケ男でなかったために窮地に立たされることになる・・・。

この辺りまでは「お膳立て」の様相が濃く、蜃気楼のように危ういロジャーの幸福な生活が瓦解する予感を煽ると同時に、瓦解後の事態収拾に向けた布石が敷かれていく。例えば、共犯であるオヴェの部屋に仕掛けられた売春婦を映すための隠しカメラの存在、絵画強盗を捜査中の刑事シュペレの、敏腕だが、メディア戦略に長けた政治的野心を持つ人物であることなどなど・・・。あとからコレ関係してくるよ〜みたいなことが、思わせぶりに説明されるのね。

それにしても、身長168センチでここまでこじらせてしまうとは気の毒な話である。また妻ダイアナの背丈が抜きんでて高いもので、ロジャーとの身長差が特に目立つのだ。しかし、外見や金や社会的立場云々以前に、「自分に劣等感を抱いている男」ってのはそれだけでモテない、誓ってモテない。

脱線ついでに言うけど、北欧の連中って全体的に暗くない?なんであんな無表情でシャバシャバ話すの?寒いから、感情や表情筋の動きが最小限になるのかな?そして、陰惨でグロ系のミステリーを作るのが好きで、でもその割に大味というか大雑把というか、ちゃんと解決を示さず「あれはどうなったんだーい」と突っ込みたくなることしばしば、そしてヘンな小ネタを挟んでくるので「それはシリアスなの?笑っていいの?」と迷うこともしばしば・・・(北欧系のミステリー大好きなんです)。

 

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これだと伝わらないが、ロジャー役のアクセル・ヘニー、大塚寧々に似てます。

 

◇ロジャーの逃げっぷりがすごい

さて、絵画を盗んだ後からロジャーの命を付け狙い、どこに逃げても追っかけてくるクラス、実は、彼はロジャーの雇い主パスファインダー社の技術を盗むため送り込まれたHOTE社のスパイだった。さらに、ジェルに混ぜて付着させることが可能な超小型GPSの開発者であり、元軍人で追跡のプロ。通常なら逃げ切れるはずもないところ、ロジャーは裏稼業で培った(のか知らんが)驚くべき危機察知能力と判断力そしてサバイバルスキルの高さを発揮して、邪魔する人や犬をなぎ倒し、クラスの魔手から逃げ続ける。

このカラッポな男には最初から全く好感が持てないのだが、あまりのズタボロっぷりに応援する気持ちになってくるから不思議だ。ロジャーが観客を味方につけるきっかけは、やはり、クラスの追跡から逃れるため汲み取り式の便所でウンの中に潜る「ぼっとん便所かくれんぼ事件」であろう。ここは見逃せない。いや、人間、命の危険を感じたらアレぐらいやるのかもしれないけど、あの時点で物も言わずに追ってくるクラスの目的はまだ分からず、むしろ観客にとって悪印象なのは、(はずみで仲間のオヴェを殺した)ロジャーの方なんである。私だったら、ウンに潜る前に「なんで追っかけてくるの?」ってまず訊くと思う。

しかしこのシーン、ロジャーの選択肢がそれしかないのを悟りつつ「え、ウソ!そこ隠れるの?」と息を飲んで見守るのが楽しい。てか、便所もうちょっと掃除しといてー、でも、掃除してたら潜れてないのか。
その後も、「い、いぬ~!」「この超デブの双子の警官はなに?」など小ネタの連続。真剣なのか笑わせようとしてるのか分からない北欧センスが爆発する。

だが、文句をつけたいのは、ロジャーの暴走とともに物語だけが暴走していることだ。例えば、便所脱出後にオヴェに間違われて警察に捕まり、パトカーの中で「なぜクラスは正確に自分の居場所を把握できるのか」に気付くシーン。髪にGPS混入ジェルが付けられていることを前触れもなく悟るため、「やたらとカンが鋭いヤツ」で処理されてしまう。観客に対して「ほら、あのジェルだよ」と目くばせするようなショットというか、絵的な面白さがないんだよね。例えば、隣にいる警官が「お前が暴れるから髪が崩れちまったよ」と髪を直すとか、「こいつ、髪がやけにベタついてるな」と不審な顔をするとかさ、色々工夫があると思うんだけど・・・。

それに、ジェルやオヴェの部屋のビデオといった小道具を揃えつつ、クラスの部屋に置き忘れられていたダイアナの携帯に何の仕掛けもなかったのは間抜けだ。クラスとの浮気疑惑から、ロジャーはジェルをつけたのはダイアナではないかと疑うのだが、やがて犯人は自分の遊び相手の女だったことが発覚。おお、じゃあ浮気は誤解だったのねと思いきや、「あれは遊びよ、寂しかったの」とさめざめ泣くダイアナ。浮気はホントにしてたんかーい、携帯はただ置き忘れただけかーい。


◇面白いが、突っ込みどころも満載

そんな感じで首を傾げるところも多く、まぁ、もっとも突っ込むべきは、たかだか企業スパイが他国で警官までぶっ殺すのか?という点なんだが、ラスト、風呂敷の閉じ方もなかなかである。

ロジャーはGPSを利用し、クラスをオヴェ宅へとおびき寄せる。ベッドにはオヴェの死体とその横に座ったロジャー、彼らに対峙するクラス。隠しカメラの存在を知るロジャーの誘導により、カメラにはクラスだけが映っているという仕掛けだ。クラスとロジャーは互いに銃を発砲するが、事前にクラスの家を訪れたダイアナにより彼の銃の弾は抜かれており、クラスだけが被弾して死亡する。現場に残ったのは、オヴェとクラスの死体、そして証拠のビデオ。斯くして、二人が相打ちになったように見せかけるロジャーの偽装計画はまんまと成功したのだった・・・。

 

ちょ、待てよ(キムタク)。 ←久々だわぁ~。

 

この時点で多くの観客が思った(はず)。「いやいや、オヴェとクラスの死亡時刻が全然違うじゃん」と。私も思った。

オヴェをうっかり殺してからロジャーは農場に逃げてウンの中に隠れ、トラクターを盗んでクラスの犬を串刺しにし、夜道で事故って病院に運ばれた。その後警察に捕まり、パトカーで移送されてる最中に崖から落とされ、命からがら家までたどり着いた。どう少なく見積もっても、二日間は経っているはずである。半日でした~とか一日しか経ってませんでした~とかの言い訳は通らないわよッ。それで済んだら警察いらん。

ところが、ところがである!
ロジャーは「担当刑事のシュペレは敏腕だが野心家だ。彼は自分に解決できない事件があることを恥じるだろう」と予測、そしてシュペレはロジャーの予測通り、死亡推定時刻の矛盾を無視して事件をクローズするのである。

担当刑事の権力強すぎだぞ!さらに、警察は途中でロジャーをオヴェだと誤解して農場主殺害の容疑で拘束しているわけで、それなのに、ここまで容疑者の自宅を捜査しない警察がどこの世界にいるのよォォォ。

そんな私の文句などなんのその、こちらの剛腕北欧ミステリー、ラストは冒頭と同じくやたらとスタイリッシュっぽいカットと軽快な音楽に乗せて「私はロジャー・ブラウン。身長は168センチ。だが、それで満足だ」とかの気取った台詞で終わる。いやお前、直接的には三人、巻き添え喰った農場主や警官入れたら全部で八人殺してるからねェ~~!?「私はロジャー・ブラウン、身長168センチ」じゃ済まされませんよッ?

あんたの身長のことなんか、こちとら便所に置き忘れてきたってのに、なにを最後は「コンプレックスを克服しました」系美談に落ち着かせようとしてるのっ!?

そんな感じで、笑ったり首傾げたり忙しい映画だった。
後半の疾走感ある展開で、脚本がもっと丁寧だったらよかったなとは思うが、ロジャーの「ぼっとん便所かくれんぼ事件」あたりからのサバイバルスキルの高さには見るべきものがあるので、私はこれを食事時に観ることをお勧めします。

あと、途中で出てくるすごいデブの双子の警察官、ちゃんと双子のデブの理由があるからそこは注目だよ☆

では、また!

(C)YELLOW BIRD NORGE AS, FRILAND FILM AS, NORDISK FILM A/S, DEGETO FILM GMBH 2011

『ミッション・トゥ・マーズ』

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監督:ブライアン・デ・パルマ キャスト:ゲイリー・シニーズティム・ロビンス/2000年

やあやあ、こんにちは。週4日の在宅と、卒園&入学などの雑用が重なって滞ってしまいました。卒園式は明日だけど、今の時点で開始時間も分かってないよん。

話が変わるが、職場で映画好きの女の子2人と仲良くしていて、社内チャットで映画ルームを作っています。先日1人から、こんなコメントがありました。

女子A「10年くらい前に観たもののタイトル確認漏れのためずっと探してる映画があります。父親(もしくは保護者の立場にある成人男性)と子供との関係が最終的に改善されるお話で、父は宇宙学とか天文学とかの研究者みたいな立場。途中、二人が一緒に皿を壁に投げつけるシーンがあって、最後は父が自分の学会だかの予定を子供の授業参観に変えるとこで終わった気がします。もしお心当たりあれば教えて下さい。ハートフルヒューマンドラマなので、間違いなくやなぎやさんの守備範囲外だとは思いますが・・・」

最後の一文が気になるね。

女子A「ちなみにバーサーカーではありません」

確かに「皿 投げつける 映画」で検索すると『バーサーカー』が出てくるね。
すると、もう一人の女子からすぐさまコメントが。

女子B「『ホーム・アローン』だな」
女子A「ちがう」
私「『怪盗グルーの月泥棒』じゃない?」
女子A「ちがいます」
女子B「『晴れの日は会えない~』とかいうやつ」
私「『雨の日は会えない~』だから。そこ間違えると映画の内容が変わってくるんだよ。」
女子A「どっちにしろ違います!」

質問を受けた側に全く考える気がなく結論が出ていません。父子が皿を投げ付け合って和解する映画、知ってる人がいたら教えて下さい。

さて、本日はミッション・トゥ・マーズの感想を書くが、この映画を観たのにはちょっとしたきっかけがあった。
先日『ライフ』鑑賞後、Amazonが火星関係の映画をしつこくお勧めしてきやがった。その中に「有人火星探査計画で事故が起こり、宇宙飛行士たちは火星を脱出したが、死んだと思った仲間が生きていて火星に置き去りになってしまった。さあ、彼をどう救う!?」みたいな予告があり、寝ぼけながら「面白そう」と思った。
次の日、覚えていたのが「火星」というワードだけだった。私はブライアン・デ・パルマが好きなのに『ミッション・トゥ・マーズ』は見逃していて、だから多分いつも頭の片隅に火星があったのでしょう、火星=マーズ、あ、そうか、『ミッション・トゥ・マーズ』だったか、と思って辿り着いた次第です。

お気付きだろうが、前日の予告は『オデッセイ』(2015)のものだった。すぐにどうやら間違ったなと気づいたが、面白かったのでそのまま続行、結果、素晴らしい映画だった。後日、改めて『オデッセイ』も観たが、こちらは凡作の域を出ない作品という感想。棚からボタ餅、嘘から出たまことって、このことね。


◇あらすじ

2020年、史上初の有人火星探査機マーズ1号が火星に降り立つが、調査を行なっていた乗組員たちが巨大な砂嵐に巻き込まれてほぼ全滅。生き残った1人も消息を絶ってしまう。当初マーズ1号に乗る予定だったジムは、マーズ2号に乗り込んで救出へと向かうが・・・(映画.com)

『キャリー』(1976)、殺しのドレス(1980)、ミッドナイトクロス(1981)、スカーフェイス(1983)、アンタッチャブル(1987)、カリートの道(1993)、ミッション:インポッシブル(1996)などの沢山の代表作を持つ御大パルマ氏が2000年にお撮りなった作品である。

ぎゃッ、「映画.com」での評価低い!
ひッ、パルマ氏のウィキに、「『ミッション・トゥ・マーズ』が酷評の嵐に見舞われハリウッドから干される」って書いてあるぅぅ!!

えー、そうなんだ。え~、めっちゃ面白かったのになぁ。この作品がパルマ氏のキャリアの中でどういう位置づけになるのか分からない(調べるの面倒くさい)ので、今度『シネトゥ』運営者のふかづめさんに聞いときます。ふかづめさんは今、行方不明だけど、私は絶対、彼はこの映画が好きであると踏んでいます。おい、そうだろ、ふかづめ!お前、この映画好きだろう!

軽快な音楽と共にロケット型の花火が青空に打ち上げられるタイトルバック。カメラがゆっくりと地上に向けられると背景のカラーは段々と火星を思わせる土の色へと変化し、火星探査ミッションを控え壮行パーティを楽しむ宇宙飛行士たちの様子を長回しで映していく。優秀な操縦士ジムゲイリー・シニーズは、やはり宇宙飛行士だった最愛の妻を病気で亡くしたことで探査隊メンバーを辞退し、旧知のウッディティム・ロビンスリーコニー・ニールセン夫妻とともに宇宙ステーションでのサポート任務に就くことが決まっている。ゲイリーが、ふと足元の土を、妻と共に踏むことを夢見た火星の土に重ねた次のショットでは、13ヶ月後、探査隊のルークドン・チードルらが火星で作業を行う場面へとジャンプする。

多分、ハチャメチャな映画なのだとは思う。
序盤は、誰よりも火星探査を熱望していた妻の死を乗り越えられずにいるゲイリー・シニーズの失意の姿と、彼の目を通したティムとコニーの仲睦まじい様子を中心に人間ドラマの色合いが濃い。

だが、探査隊が奇妙な音を発する小山を発見する辺りから雰囲気は一変。小山にレーダーを向けた途端に凄まじい砂嵐が発生、ドン・チードル以外の探査隊クルーは命を落とす。不快指数の高い不吉な音、意志を持って襲ってくる砂の塊、何よりクルーらの死に様が無残で、画面は一気にホラー色に彩られる。

その後、ドン・チードル救出のため捜索隊に名乗りを上げたゲイリー、ティム、コニー、フィルジェリー・オコンネルらが火星に向かうシークエンスでは、宇宙空間という舞台を存分に活かした危機的状況にハラハラさせられることになる。スペースデブリ宇宙ゴミ)により損傷した船内で空気レベルが低下、破損個所を見つけるためにドクター・ペッパーを絞り出しその行き先を追うといった遊び心ある問題解決や、破損個所を修繕するも実は燃料パイプが受けた致命的な損傷に気づいておらず、そこから漏れた燃料が宇宙空間で固って漂い、エンジン点火へのカウントダウンがそのまま爆発へのカウントダウンになるなど、次々とサスペンスが畳みかけられる。

また、デ・パルマとは何度めかのタッグとなるエンニオ・モリコーネが作り出す不穏な効果音により、否が応でも緊迫感が高まる。さらに、爆発した船を捨ててREMO(補給物資モジュール)ヘの移動を試みた先では、ティム・ロビンスが妻や仲間のために身を犠牲にする、とても悲しい展開が待っている・・・。

映像も特徴的だ。何カ所で見られる、宇宙から船を引きで撮ったカメラが段々と近づいてきて回転しながら窓の中に入ってくるといった手法、そして何より、回転式遠心装置とそれをグルグル回りながら映すカメラには頭の中が掻き回されるようで、とっても気持ちが悪い(見慣れないから気持ち悪いのであって、映像的に不快なわけではない)。

2000年に撮られたとは思えない、どこか古びた映像には、恐らく2001年宇宙の旅(1968)を筆頭とした過去作品への敬意と、本作はそれらに続くものだという意図が込められているのだろうが、ああもぐるぐるとカメラを回されては目が回る。映画の中でビデオを見るというややこしい構図も然り、話も映像も目まぐるしい作品といった印象だ。
大体、事故から半年経っているとは言え仲間を救出しに行く船内で、イチャつきながら宇宙遊泳ダンスを踊るティム&コニー夫妻の神経も少々おかしい。お前らの目の前にいるゲイリーは妻に死なれて傷心なんだぞ&よりによって音楽がヴァン・ヘイレン

ただ、全体的に熱っぽくて、とにかく面白いんである。
ところで、『2001年宇宙の旅』を最近観直したのだけど、何よりも感想は「よく冒頭あれだけサルの映像流し続けたよね・・・」だった。


◇オデッセイ

ゲイリーたちが火星に到着する前に、せっかく観たから『オデッセイ』の感想を書いておく(ネタバレよ)。

私の知識と理解力が不足していることは前提としつつ、火星に取り残されたマット・デイモンのやってることが大体わからなくて参った。種類問わず考証を必要とする映画では、あまり矛盾を追求せず細かいことを気にしないようにはしているのだが、それにしても、ジャガイモって水と人間のウンであんなにたくさんピチピチ育つの?とか、何でNASAと文字で交信できるようになったの?(ここの論理が全く分からん) 何でアレス4に向かうときローバーの屋根にあんな穴開けたの?そもそも次回ミッションに使うアレス4のMAVがもうあったのは何故?宇宙服ってあんなに簡単に穴あくの?など、ハテナの連続だったのだ。
※その後、SF好きのユーセ コーイチさんに「『オデッセイ』の考察は結構まあまあ正しいよ」と教えて頂き、「へ~」って思ったことを付け加えておきます。

あとは、なんかこう、「取り残された宇宙飛行士」を軸に周囲がドッタンバッタン騒ぐ予定調和な描写にココロがあんまり躍らない。別に宇宙へのリスペクトなどない私が言うけど、特段、火星や宇宙を撮りたい!!っていうのがないの。一人の人間が苦難を味わうための舞台装置感が強いというか、主人公が手際よく困難に見舞われ、手際よくそれが片付けられていく様子が、教科書通りで真に迫ってこないというか。ド派手な映画であるはずなのに味気ないというか(そのくせ、最後の「無事救出!」の報を受けてヒューストンの職員「ワァーーー!!」」の画はしっかり押さえてくる。それ、またやるんか)。

後半、「コイツなんかやりそう」って思っていたリッチ・パーネルがようやく動き、画期的な救出策が提案される。曰く火星から地球へ帰還中の宇宙船ヘルメスを地球の重力を利用して火星へと反転させる(フライバイ)。マットはそれに合わせアレス4用に置いてあるMAVにて火星を脱出、ヘルメスは軌道上でMAVとマットを回収し、今度は火星の重力を利用して地球へ戻る・・・というもの。

うんうん、フライバイは何となく分かったしヘルメスを使うっていうのも盲点で面白かった。ヘルメスの宇宙飛行士たちは知らなかったとはいえ生きているマットを置いてきてしまったことに責任を感じているのだ。そうだ、船長のチャステイン姉さんの出番が少ないぞ!もっと出せ。しかし、そもそも宇宙で人一人を違わず回収できる確率とは?狂わぬタイミングでMAVを打ち上げ、ヘルメスと相対速度を合わせるなんてことが可能なのか?んで、軽くするためにMAVのあっちゃこっちゃを捨てて布切れで屋根作ったんだけどマジか?それで宇宙行くんか?と、冒頭の疑問符だらけ状態に戻る・・・。

ここまでくると、リドスコ先生が加速するのは疑いようもなく、最後はチャステイン姉さん自らが船外に出てマットをキャッチする役に名乗りを上げるのである。ダメだろ、頭が自ら行っちゃ。私が出番少ないって言ったからって。
上手いことマットの乗ったMAVを視界に捉えるが、しかしヘルメスとチャステイン姉貴を繋ぐテザーの長さが足りず、マットに手が届かない!するとマットは宇宙服に穴を開けスラスター(推進システム)代わりにしてMAVを脱出、飛んできたマットを姉貴がキャーッチ!

・・・マジかよ。
中国で頻発する、ベランダから落ちるガキをキャッチするのとはワケが違うんやで。んなことあるか?宇宙服はビニール袋か?そんな上手いこと方向調整できるのか?首を傾げる私をよそに、ヒューストン「ワァーーー!!」。うん、良かったネ。そんな感想。
まあ、正直私も姉貴がマットキャッチするところでは「ワァーーー!!」ってなったし、マットが姉貴の音楽の趣味を「時代遅れのディスコミュージックばかりでどうかしてる」と一人しつこく腐すのは、かなり好きだったけど。


◇最後はすごいところに着地する

さて、火星に到着したゲイリーらは無事にドン・チードルと再会し、砂嵐の後に現れた『顔』の謎の解明に成功する。『顔』の内部へと誘われた彼らを待っていたのは、一人の火星人だった。火星人は、ここにはかつて文明があったが滅びたこと、仲間たちは既に新しい星へ移ったこと、さらに地球の生命は火星が起源であったことを示してみせる。

ここでゲイリーはある選択をする。妻マギーの残した「古代神話や文明に火星が登場するのには意味があるはず」「命は命を繋ぐ」の言葉を啓示と取り、地球には戻らず火星人と共に新天地に向かうことを決意するのである。

おお〜、そうかあ(泣)。お前行っちゃうのか。だが、ゲイリーの妻と火星への想いを知る我々は、彼に思いもかけない救いの手が差し伸べられたことを喜ぶしかない。
火星人が見せる宇宙創造の幻想的な映像とエンニオ・モリコーネの紡ぐ音楽に乗せて、虚無の空気に包まれていたゲイリーが魂を再生させるかの如く生き生きとした表情になっていくさまに胸が熱くなる・・・(私は、ヘンに火星人の姿をボカさなかったのがよかったと思う)!

さらにグッとくるのが、彼の選択を知ったコニーが一瞬ハッと息を飲み、すぐに理解の表情を浮かべることだ。そして、亡き夫ティムが大事にしていたロケットをゲイリーに渡して別れを告げる。別れの時に受け継がれる形見は、『アンタッチャブル』でも描かれていたよね。

火星の『顔』の岩といい生命起源論といい、世に溢れる仮説を基にしたストーリー自体に工夫はないが、結局のところ本作は、火星までの旅を介して、絶望の淵にいた男の魂が救われるまでを描いた映画だ。彼がまるで妻に導かれるように宇宙の彼方へ飛び立っていく結末は、壮大でロマンティックだった。

ロマンあるSFと言えば、最近藤子・F・不二雄のSF短編集を読んだのだけど、そのうちの一つ、宇宙で漂流した少年少女が最後に氷で宇宙船を作って飛び立つ話『宇宙船製造法』が素晴らしかった。SFがどんなジャンルか未だ分からないけれど、間違いなくロマンは不可欠である。こんな理解でオーケーでしょうか?

ではまた!

『ライフ』

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監督:ダニエル・エスピノーサ キャスト:ジェイク・ギレンホールレベッカ・ファーガソンライアン・レイノルズ/2017年

皆さん、こんにゃちは。

子供らの間ではまだまだ鬼滅が熱いわけで、近所の姉妹は毎日揃って鬼滅柄のマスクをしてます。うちの子供はそこまで鬼滅にハマっていないのですが、その姉妹と仲が良いため影響され、あの金髪の、映画の主役になったライオンみたいな、ホラ、穴があったら入りたい的な、ホントにド忘れしたんだけど、あの男の台詞「不甲斐なし!」をしょっちゅう叫んでいるわけ。

私も仲間に入ろうと思っ「ふがいなしふがいなし、ふがしはおかし。ナナナナー、ナナナナー」(ジョイマン)と踊ってみせたりしているのですが、子らはジョイマンを知らないらしく、娘に冷たい目線を向けられています。優しい子なのに・・・。ヨハン、素敵な名前なのに。ヤバイ、ちょっと在宅勤務が続きすぎて頭がおかしくなってるわ。相変わらず調子の出ない私をどうぞよろしくお願いします。

今日は子供たちの「わくわくする映画が観たい」のリクエストを受けて一緒に観た『ライフ』を紹介します。ベン・スティラー監督のやつじゃなくて、私のジェイクが出ている方よ。完全ネタバレですから、お気をつけあそばして。


◇あらすじ

国際宇宙ステーションISS)に滞在する六人の宇宙飛行士は、火星探査機の回収に成功し、探査機が持ち帰った土から生命体の細胞を採取する。初の地球外生命体の発見に喜ぶクルー達だったが、やがてその生命体は成長し、彼らを襲い始める。

これを観た次の日、LiLiCoがTVで「あっと驚くドンデン返し」映画として紹介していました。うーむ・・・ドンデン返しと言えばそうなんだろうけど、あのラストってもう少し別の意味があって、そして醍醐味は別にドンデン返しではないと思うのよ(リリコの映画紹介は好きだよ)。

監督はダニエル・エスピノーサチャイルド44 森に消えた子供たち(2015)がガッカリな出来だったこと以外知らん、すまん。脚本はデッドプール(2016)のレット・リース&ポール・ワーニックが担当し、同じく『デッドプール』のライアン・レイノルズがクルーの一人として出演しているが、一番先に死んでしまいます。

私のジェイクとして知られるジェイク・ギレンホールは、好んで473日間もISSに滞在し続けている変わり者の医師デビッドを演じた。「80億人のバカがいる地球には戻りたくないから」って考え方がヒネくれてる上に、相変わらずキュートォ。
検疫官ミランダ・ノースに、『ミッション・インポッシブル』シリーズのいくつかに出演しているレベッカ・ファーガソンどのミッションだったかは忘れたけれど、黄色いドレスから片足を剥き出しにしてライフル構える姿がカッコよかったよね。私は断然、ミシェル・モナハンよりレベッカ派だよ。

しかし、今回見るべき俳優は何といっても、「ショウ ムラカミ」という語呂のいい名の日本人システムエンジニアを演じた我らがHiroyuki Sanadaである!女のせいで日本からハリウッドに行ったのかと思ってたら、ちゃんと活躍していて、ヨカッタヨカッタ。

うちの子供たちは、Hiroyuki Sanadaが一番のお気に入りで、「この人好き!死なない?ねえ、死なない?」と何度も確認してくるの。ククク、死ぬで。Hiroyuki Sanadaが生命体に追っかけられるトコとか「ダメ!」「逃げて!」とすごい騒ぎだったで。
自分も覚えがある事なんだけど、この頃の映画の見方って、お気に入りのキャラ見つけてその人を応援する・・・なんだよね。不思議だわぁ。

 

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◇カルビン、コワかわ

生命体の発見は地球でも一大ニュースとなり、ある小学生によって「カルビン」と名付けられる。ちょっとだけ育ったカルビンはひらひらと動く様がまるで妖精のように美しく、宇宙生物学者ヒュー(アリヨン・バカレ)の指にじゃれついたりして、アリヨンはカルビンの養育にすっかりのめり込む。しかしカルビンはかわいい名前に反し、少しずつ不穏な形になっていく(アリヨンって響きもちょっとカワイイ)。ガーッ!ってくる形よねソレ。私の経験上、そういう形の善意の生物はいない。点検ミスによる圧力の変化でカルビンの動きが停止してしまい、アリヨンが蘇生させようと行った電気ショックが悲劇の始まりであった。

さて、見どころは何と言っても「無重力」を活かした映像である。クルーを追うカメラの動きは浮遊感があって心地よく、カルビンから逃げるときのスピード感の演出も良かったが、それ以上に重力空間とは異なる現象、液体の表現にこだわっているのがクールだった。もっと分かりやすく言うと、んー、なんだろう、「汁気」を映さなかったこと?

カルビンは、宇宙で襲ってくることでお馴染みのアイツのように、移動した後にネトネトした粘液を残したりヨダレを垂らしたり、傷口からヘンな液体を漏らしたりしない。獲物の動脈を掻っ切って血を飛ばしたりもしない。

最初の犠牲者デッドプールの死のシーンは是非見てもらいたい。カルビンがデッドプールの口から侵入したとき、多くの観客が腹を割いてピンぎゃーーー!!と血まみれで飛び出してくることを予測し期待したはず。しかし実際にはそのような派手な表現はなく、デッドプールの口からゴポッゴポッと吐き出された血が水玉のように無重力空間に浮かび、死体とともにゆらゆら漂う。血飛沫を飛ばしてみせれば観る側の恐怖感も増すし生命体の残虐性も一発で印象付けられるが、敢えてそうせず、これから起こる絶望的な出来事を予感させつつ映像美に徹した点で、数多のバケモノ退治アクション映画と一線を画したのではないかと思う。

進化と共に出来上がってくるカルビンの顔は、不気味ではあるのだが、その造形が妙にキレイで、致命的なものだと分かっていても目を離せなくなる魅力がある(もっとも最後はタコなんだけどさ)。


◇バカが住む地球と崇高な宇宙

ISS内の人間関係に雑音がないのもイイ感じだ。触わるなと言う機器に触わるバカもいなければ、隊列から離れて小便に行くバカもいない。バケモノに追いかけ回される中でドアをロックして仲間を生贄にしその隙に逃げる小賢しい奴も、カルビンをサンプルとして地球に持ち帰る極秘ミッションを遂行する奴もいないんだ!

ある程度のところで、ジェイクとレベッカを残して皆死んでしまうのだが、この死にはドラマ以上の意味がある。つまり、ジェイクの「80億人のバカがいる地球」と言う言葉の通り、宇宙から見た地球は俗で鬱陶しい場所であり、宇宙で任務のため散った彼らは崇高な精神を持つ存在なのである。

え?考えすぎだって?いやいや、だってさ。クルーたちは順番に、仲間を守るために死んでゆくのよ。デッドプールは気絶したアリヨンを助けようとして、司令官オルガ・ディホヴィチナヤはカルビンをステーション内に入れないために、自らの身を犠牲にする。そしてHiroyuki Sanadaも、生まれたばかりの子の写真を手に絶対に帰ると誓いながら、ジェイクとレベッカを巻き添えにしないよう彼らの手を振りほどき、宇宙へと消えて行くのである・・・。

さらにレベッカが辿る運命。地球のバカどもから、危険な生命体を乗せたISSを宇宙の彼方へ葬るためのソユーズが送られてくる。いざという時はクルーごと犠牲にするこの提案をしていたのは実はレベッカで、そのレベッカはどうなっただろうか。そう、他の仲間同様身を挺したジェイクによって地球に逃がされたはずが、結局一番孤独で悲惨な死を迎えることになるわけだ。

そして地球に上陸したカルビンは、バカどもを食い尽くしにかかる・・・。

タコに生きながら喰われてるジェイクが悲惨でないかどうかは、この際置いておこう。
是非、アイツに比べて汁気ないなーって視点で観て欲しい。面白いので、お勧めです。

警報:子供向けではありませんでした。

 

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