Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『ヘッドハンター』

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監督:モルテン・ティルドゥム キャスト:アクセル・ヘニー、ニコライ・コスター=ワルドー/2012年

皆さん、こんにちは。娘が連日観ている『名探偵コナン』の海で溺れそうなやなぎやです。事件とか謎解きはいいんだけど(全然よくないんだが)、「二人って付き合ってるんですかぁー」「えっ、ちょ、ちょっとやだ!コイツとはただの腐れ縁!」「そ、そうだよ、誰がこんなヘチャむくれと」「なんですってぇ」と飽きもせず繰り返される何も生まないというよりむしろ毒ガス相当のやり取りを死んだ魚のような目で見てる。名探偵コナン』において、「幼馴染」と「付き合っている」ことの威力たるや国家資格レベル。

娘にコナンの口真似をしたり、「もうッ、どこ行ってたん!?うちと○○(娘)は血の絆で結ばれとんのやからねッ!」(関西カップルの女の真似)と抱きついたりしていたら、無事怒られました。なんでこんな話をするかと言うと、コロナで延期されていた映画の新作が4月16日から公開されるからだよ~。一人でアンパンマンを観に行く方がマシ。せめてここで愚痴らせて。夫に愚痴ったら「(たかだか子供のアニメにそこまで暴走できるなんて)大変だね」と生ぬるい微笑みを向けられたから。

というわけで『ヘッドハンター』を紹介します。
全面的にネタバレです。

 

◇あらすじ

物語は、一人の男が高級住宅街の留守宅に侵入し「末路は二つ。最高価値の芸術品に出会うか、あるいは捕まるかだ」という独白と共に手際よく絵画を偽物とすり替える、妙にスタイリッシュな映像で始まる。
舞台はノルウェーオスロ。有能なヘッドハンターとして成功を収めたロジャー(アクセル・ヘニー)は、美術品専門の窃盗犯という裏の顔を持っていた。ロジャーの何よりの宝物はゴージャスな妻のダイアナ。一方で168センチの身長に過剰なまでの劣等感を抱いており、分不相応な妻を芸術品のように崇めて生身の人間として向き合うことを避け、その鬱憤を他の女で晴らしている、なかなか最低なこじらせ男である。

ダイアナの画廊のオープンパーティの日、ロジャーはオランダ人のクラス・グリーブニコライ・コスター=ワルドーを紹介される。クラスはGPS開発で著名なHOTE社の重役だったが早期退職し、祖母から相続した家で暮らすためこの地にやって来たという。クラス宅にルーベンスの『カリュドンの猪狩り』が保管されていることを知ったロジャーは、警備会社に勤める協力者のオヴェとともに絵画を盗み出すが、クラスがただの早隠居のイケ男でなかったために窮地に立たされることになる・・・。

この辺りまでは「お膳立て」の様相が濃く、蜃気楼のように危ういロジャーの幸福な生活が瓦解する予感を煽ると同時に、瓦解後の事態収拾に向けた布石が敷かれていく。例えば、共犯であるオヴェの部屋に仕掛けられた売春婦を映すための隠しカメラの存在、絵画強盗を捜査中の刑事シュペレの、敏腕だが、メディア戦略に長けた政治的野心を持つ人物であることなどなど・・・。あとからコレ関係してくるよ〜みたいなことが、思わせぶりに説明されるのね。

それにしても、身長168センチでここまでこじらせてしまうとは気の毒な話である。また妻ダイアナの背丈が抜きんでて高いもので、ロジャーとの身長差が特に目立つのだ。しかし、外見や金や社会的立場云々以前に、「自分に劣等感を抱いている男」ってのはそれだけでモテない、誓ってモテない。

脱線ついでに言うけど、北欧の連中って全体的に暗くない?なんであんな無表情でシャバシャバ話すの?寒いから、感情や表情筋の動きが最小限になるのかな?そして、陰惨でグロ系のミステリーを作るのが好きで、でもその割に大味というか大雑把というか、ちゃんと解決を示さず「あれはどうなったんだーい」と突っ込みたくなることしばしば、そしてヘンな小ネタを挟んでくるので「それはシリアスなの?笑っていいの?」と迷うこともしばしば・・・(北欧系のミステリー大好きなんです)。

 

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これだと伝わらないが、ロジャー役のアクセル・ヘニー、大塚寧々に似てます。

 

◇ロジャーの逃げっぷりがすごい

さて、絵画を盗んだ後からロジャーの命を付け狙い、どこに逃げても追っかけてくるクラス、実は、彼はロジャーの雇い主パスファインダー社の技術を盗むため送り込まれたHOTE社のスパイだった。さらに、ジェルに混ぜて付着させることが可能な超小型GPSの開発者であり、元軍人で追跡のプロ。通常なら逃げ切れるはずもないところ、ロジャーは裏稼業で培った(のか知らんが)驚くべき危機察知能力と判断力そしてサバイバルスキルの高さを発揮して、邪魔する人や犬をなぎ倒し、クラスの魔手から逃げ続ける。

このカラッポな男には最初から全く好感が持てないのだが、あまりのズタボロっぷりに応援する気持ちになってくるから不思議だ。ロジャーが観客を味方につけるきっかけは、やはり、クラスの追跡から逃れるため汲み取り式の便所でウンの中に潜る「ぼっとん便所かくれんぼ事件」であろう。ここは見逃せない。いや、人間、命の危険を感じたらアレぐらいやるのかもしれないけど、あの時点で物も言わずに追ってくるクラスの目的はまだ分からず、むしろ観客にとって悪印象なのは、(はずみで仲間のオヴェを殺した)ロジャーの方なんである。私だったら、ウンに潜る前に「なんで追っかけてくるの?」ってまず訊くと思う。

しかしこのシーン、ロジャーの選択肢がそれしかないのを悟りつつ「え、ウソ!そこ隠れるの?」と息を飲んで見守るのが楽しい。てか、便所もうちょっと掃除しといてー、でも、掃除してたら潜れてないのか。
その後も、「い、いぬ~!」「この超デブの双子の警官はなに?」など小ネタの連続。真剣なのか笑わせようとしてるのか分からない北欧センスが爆発する。

だが、文句をつけたいのは、ロジャーの暴走とともに物語だけが暴走していることだ。例えば、便所脱出後にオヴェに間違われて警察に捕まり、パトカーの中で「なぜクラスは正確に自分の居場所を把握できるのか」に気付くシーン。髪にGPS混入ジェルが付けられていることを前触れもなく悟るため、「やたらとカンが鋭いヤツ」で処理されてしまう。観客に対して「ほら、あのジェルだよ」と目くばせするようなショットというか、絵的な面白さがないんだよね。例えば、隣にいる警官が「お前が暴れるから髪が崩れちまったよ」と髪を直すとか、「こいつ、髪がやけにベタついてるな」と不審な顔をするとかさ、色々工夫があると思うんだけど・・・。

それに、ジェルやオヴェの部屋のビデオといった小道具を揃えつつ、クラスの部屋に置き忘れられていたダイアナの携帯に何の仕掛けもなかったのは間抜けだ。クラスとの浮気疑惑から、ロジャーはジェルをつけたのはダイアナではないかと疑うのだが、やがて犯人は自分の遊び相手の女だったことが発覚。おお、じゃあ浮気は誤解だったのねと思いきや、「あれは遊びよ、寂しかったの」とさめざめ泣くダイアナ。浮気はホントにしてたんかーい、携帯はただ置き忘れただけかーい。


◇面白いが、突っ込みどころも満載

そんな感じで首を傾げるところも多く、まぁ、もっとも突っ込むべきは、たかだか企業スパイが他国で警官までぶっ殺すのか?という点なんだが、ラスト、風呂敷の閉じ方もなかなかである。

ロジャーはGPSを利用し、クラスをオヴェ宅へとおびき寄せる。ベッドにはオヴェの死体とその横に座ったロジャー、彼らに対峙するクラス。隠しカメラの存在を知るロジャーの誘導により、カメラにはクラスだけが映っているという仕掛けだ。クラスとロジャーは互いに銃を発砲するが、事前にクラスの家を訪れたダイアナにより彼の銃の弾は抜かれており、クラスだけが被弾して死亡する。現場に残ったのは、オヴェとクラスの死体、そして証拠のビデオ。斯くして、二人が相打ちになったように見せかけるロジャーの偽装計画はまんまと成功したのだった・・・。

 

ちょ、待てよ(キムタク)。 ←久々だわぁ~。

 

この時点で多くの観客が思った(はず)。「いやいや、オヴェとクラスの死亡時刻が全然違うじゃん」と。私も思った。

オヴェをうっかり殺してからロジャーは農場に逃げてウンの中に隠れ、トラクターを盗んでクラスの犬を串刺しにし、夜道で事故って病院に運ばれた。その後警察に捕まり、パトカーで移送されてる最中に崖から落とされ、命からがら家までたどり着いた。どう少なく見積もっても、二日間は経っているはずである。半日でした~とか一日しか経ってませんでした~とかの言い訳は通らないわよッ。それで済んだら警察いらん。

ところが、ところがである!
ロジャーは「担当刑事のシュペレは敏腕だが野心家だ。彼は自分に解決できない事件があることを恥じるだろう」と予測、そしてシュペレはロジャーの予測通り、死亡推定時刻の矛盾を無視して事件をクローズするのである。

担当刑事の権力強すぎだぞ!さらに、警察は途中でロジャーをオヴェだと誤解して農場主殺害の容疑で拘束しているわけで、それなのに、ここまで容疑者の自宅を捜査しない警察がどこの世界にいるのよォォォ。

そんな私の文句などなんのその、こちらの剛腕北欧ミステリー、ラストは冒頭と同じくやたらとスタイリッシュっぽいカットと軽快な音楽に乗せて「私はロジャー・ブラウン。身長は168センチ。だが、それで満足だ」とかの気取った台詞で終わる。いやお前、直接的には三人、巻き添え喰った農場主や警官入れたら全部で八人殺してるからねェ~~!?「私はロジャー・ブラウン、身長168センチ」じゃ済まされませんよッ?

あんたの身長のことなんか、こちとら便所に置き忘れてきたってのに、なにを最後は「コンプレックスを克服しました」系美談に落ち着かせようとしてるのっ!?

そんな感じで、笑ったり首傾げたり忙しい映画だった。
後半の疾走感ある展開で、脚本がもっと丁寧だったらよかったなとは思うが、ロジャーの「ぼっとん便所かくれんぼ事件」あたりからのサバイバルスキルの高さには見るべきものがあるので、私はこれを食事時に観ることをお勧めします。

あと、途中で出てくるすごいデブの双子の警察官、ちゃんと双子のデブの理由があるからそこは注目だよ☆

では、また!

(C)YELLOW BIRD NORGE AS, FRILAND FILM AS, NORDISK FILM A/S, DEGETO FILM GMBH 2011