Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『独立愚連隊』

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監督:岡本喜八 キャスト:佐藤允中谷一郎/1959年

皆さん、ど~も~。

今年度も残り半分となったこの時期に、小学校のクラスでPTAの役員と係決めが行われました。もう今年は流すものと思ってたよ・・・。

一年生の係決めのとき、知り合いもいなければ勝手も分からない私は、きゃあきゃあと黒板に名前を書くママたちを尻目に「あたいは最後、残ったところに名前書くけん」と動かざること侍の如しの姿勢を取っていた。そして、担当になったのは「環境美化係」。

環境を美化する係。聞こえはいいが仕事はたった一つ、校内の草むしりです。いや、「むしる」などと生易しいものではない。実施は9月と3月、特に9月は残暑厳しい上に、運動会に来場する保護者の目を意識する先生たちのチェックも厳しい。当日は、長そで長ズボン、タオルと帽子、水分必須。そして、一人一つ、鎌を渡される。

何だかよく分からない暗がりの草むら。澱んだ水の溜まった側溝の中で、引っこ抜いたらいいのか刈ったらいいのか分からないほどにワサワサと高く生えた外来植物。飛び出してくるミミズに蚊。降り注ぐ灼熱の陽光。
しかもママたちときたら存外に真面目で、私は「わあ、綺麗になったね!」と五分おきに終わろうアピールしたのに、結局二時間半やっていたね。

娘が三年生の今年、知り合いのママたちに「白衣点検係が楽だよ」と教えてもらった。何やるんだか知らないけど、楽ならそれがいい。いざ係決めとなり、他のママたちを張り手で押しのけて黒板に辿りついた私は無事、白衣点検係に記名。もう一人が加わって二名の定員をオーバーすることなく、楽な係をゲットしたのだった・・・。

と思ったら、PTAの人が紙を取り出し、「本日、○○さんが出産間近ということで欠席されています。できれば『白衣点検係』をやりたいと希望しているのですが・・・」。

なぁにィ!?出産間近なら、係免除してやれやぁ。

もう一人のママを見ると、正面を見つめて動かざること侍の如き姿勢を取っていた。仕方ないので、「じゃあ、私移るわー」と手を挙げ、行きついた先は・・・。

環境美化係ッ。イェイイェイ、今年も草を刈りッ。

長くなってしまいましたが、本日は『独立愚連隊』です。

 


◇あらすじ

太平洋戦争末期の北支戦線。将軍廟という町に荒木と名乗る従軍記者が現れた。彼は大久保という見習士官の死に興味を抱き、彼の最期の場所である独立第九〇小哨、通称「独立愚連隊」を訪ねる。

 

太平洋戦争末期、1944年の北支戦線。「こだま隊」の駐留する将軍廟に一人の兵士がやってくる。この隊では、ある下士官が謎の死を遂げており・・・ってどこかで聞いた気がすると思ったら、以前本ブログで取り上げた血と砂にシチュエーションや展開がそっくりだった(こちらもシリーズの一つとして位置付けられているらしい)。

 

yanagiyashujin.hatenablog.com

 

また本作は、次作『独立愚連隊西へ』(1960)とで役者がダダ被っており、そのくせ二つに関連性は一切ない。なぜ、喜八っつぁんはこうもそっくりな設定の作品を重ねて撮ったのでしょーか?

一つに、コミカルさやアクションの娯楽性を前面に打ち出しつつも、そこに上手く流し込まれた戦争への皮肉な視線が『独立愚連隊』シリーズの特徴であり魅力だが、どうやら一作目の『独立愚連隊』では、それがうまく観客に伝わらなかったことが原因のようだ。

公開時には、ラストの八路軍との派手な交戦を指して、大量虐殺、好戦的との批判を受けた。これを受けて続編の『独立愚連隊西へ』が製作され、以降『砂と血』に帰結するまで何だか沢山作られたわけだが、共通しているのは、軍国主義の慣習や柵を、無頼漢たちが悠々とコケにしていく爽快なさまである。一方で、彼らも軍人たる自分の仁義に命を捧げて戦場に散っていく・・・と、ここが大事。だからこそ、悲劇的な幕引きであっても、妙に爽やかな後味を残るのだ。

岡本喜八始め、当時の映画人は多くが戦争を経験していたわけで、まだ戦争は日常の中にあったからこそ繰り返し撮らずにはいられなかったってことなんだろうねえ。唐突な例えを出すけれど、モネが季節や時間を変えて様々な『積みわら』の表情を描いたように、喜八っつぁんにとっての『積みわら』が、自身が経験した戦争であり中国戦線だということかもしれないよ。

 


◇本題に入っていきます。

さて、『血と砂』では、潰れたカニのような顔で、炊事係兼お笑い担当として終始わあわあ騒いでいた佐藤允が本作の主人公。若さと愛らしさが弾けており、佐藤允の不敵な笑顔を観るだけでも鑑賞の価値があると言える。

ストーリーはね、もう言ったけど大枠は『血と砂』とそっくり。八路軍に包囲され、軍旗を守りつつ後退するタイミングを窺っている児玉隊の駐留地へ、各戦地を転々としているという佐藤允がぶらりとやって来る。従軍記者を名乗る佐藤は、優れた射撃の腕といい肝の据わり方といい記者にしては異質の男で、それもそのはず、実は隊で謎の死を遂げた大久保見習士官の兄であり、弟の死の真相を探るため北京からこの地を訪れた元軍曹だった。弟がクセ者の寄せ集め「独立愚連隊」に所属していたことを知った佐藤は、八路軍の包囲網真っ只中にある愚連隊を目指す。ここに、以前彼と夫婦の約束を交わした雪村いづみ演じる売春婦やら、馬賊の集団やらが絡み、様々な人間模様が描かれていく。

西部劇へのオマージュに溢れると言われているが、私にはいまいち、どこに西部劇色があるのかはわからず。無法者と対決するどころか、無法者とばかりウマが合ってしまう主人公に、敵側の中国人もいい奴ばかり。何より、西部劇のラストって、主人公は一人荒野に消えていくものではない?佐藤允馬賊の仲間になって去ってくからね。

昼寝をしていた佐藤允が起き上がり、崖下の馬の背に飛び乗る、生き生きとしたアバンタイトルは、スピルバーグインディ・ジョーンズ 最後の聖戦』(1989)のリバー・フェニックスが馬に飛び乗ろうとして失敗するシーンにて再現したとか、しなかったとか。

 

ようやく愚連隊の下に辿り着いた佐藤は、哨長の石井軍曹中谷一郎が弟の死に関係しているのではと疑うが、中谷の豪放磊落さ、隊員たちの結びつきに惹かれてゆく。彼らと行動を共にするうち、児玉隊副官の藤岡中尉中丸忠雄らが不正に金品を搾取していたことを突き止める。

という感じなのだが、まあ話の中身よりも、佐藤の死地を潜ってきたがゆえの太々しい面構えと、愚連隊の連中の緊張感のない様子が見所である。特に中谷一郎は、本作にて見出されて以降、喜八映画の常連となり、私生活では岡本さんちの敷地内に居候させてもらうまでの仲であったらしい。

あ、あれよ、初代「風車の弥七」よ。風車の弥七」って聞くと、私はぱっとこの人の弥七が思い浮かぶんだけどね(わたしだけ・・・?)。

特筆しておきたいのが、登場する中国人や朝鮮人馬賊八路軍、農民等)は全て日本人に演じさせているのだが、その、喋り言葉から濁点を取りちょっとなまってみせる、という強引かつシンプルな方法。中でも雪村いづみ慰安婦仲間、中北千枝子のキャラは無視できない。「なんだよ」は「なんたよ~」、「バカだな」は「パカだな~」などに変換し、朝鮮人役を押し切る。

本作は「中国人を悪く書いている」という理由でも批判されたようだが、これらの省エネ的外国人演技が批判されたのだろうか?ちなみに続編『独立愚連隊西へ』では、フランキー堺八路軍の指揮官を演じさせるなど更にパワーアップ。他にも神聖な軍旗を佐藤允の腹に巻かせるなど、不謹慎警察が悲鳴を上げそうなことを堂々行っているのがまた爽快だ。

そして、当時スターであった三船敏郎鶴田浩二の扱いがこれまたスゴイ。『血と砂』ではあんなにカッコよかった三船敏郎は、本作では神経症を患った上に崖から落ち、完全に頭がおかしくなってしまったかわいそうな大隊長役。早々に後方と下げられてしまうのだが、三船敏郎である必要があったのだろーか?

唯一の登場シーンでは、売春婦の二人がお喋りしながら洗濯をしている後ろで、「敵襲~、てきしゅうぅぅ~!!」とまなこをひん剥いて走り回り、二人を指して「バカ!バカ!この非常事態になにを洗濯などしておるか~!」と渾身の気違い演技を披露(しかも飯を食って腹がくちくなった時だけ正気に戻るというアホキャラ)。

そんな三船に「またたよ、きのとくたなあ〜」(まただよ、気の毒だなあ)と憐憫の目を向ける、中北千枝子の絶妙な舌足らず演技が光る・・・!

鶴田浩二は一体いつ出てくるのかしら?と観ていたら、よく分からないが馬賊の親玉として登場、この馬賊自体、本作に必要だったのかが分らんかった。。。

愚連隊は、軍規や常識に囚われない破天荒な連中の集まりだが、彼らには彼らなりの信義がある。八路軍の迫る将軍廟で警備を続行せよとの無茶な命令を残して本隊は退却してしまうが、「命令は無視できない」と軍人の矜持を貫こうとする。結局は愚連隊らしく、「やっつけろとは言われてないもんね~」と隠れて八路軍をやり過ごす作戦に出るのだが、皮肉にも無頼漢たちの象徴であった賭け事のサイコロが原因で八路軍に存在がバレ、愚連隊は全滅してしまうのである。

生き残った佐藤允は、鶴田率いる馬賊の仲間になることを決め、彼らと共に去っていく。腐っても日本軍人の集まりであった愚連隊の全滅を機に、一人の日本軍人が日本も日本人であることも捨てる、としたラストに痛烈な戦争批判が見て取れるよなあ。

大変面白かったですが、残念ながら、今回は『血と砂』の仲代達矢に匹敵する萌えキャラはおりませんでした・・・。藤岡中尉の中丸忠雄は、何だろう、お腹が一杯なときに出される大福って感じがして、私には重かったわぁ。