『ディスコード』
監督:ニコラス・マッカーシー キャスト:ケイティ・ロッツ、ヘイリー・ハドソン/2012年
こんにちは。先日華麗にゲレンデデビューを飾ったやなぎやです。当日初心者向けのスキースクールに友達と入って、「コーチ、イケメンかな?」「ゲレンデが溶けるほど恋しちゃったらどーする、うふ」なんつってたら、コーチが全員オヤジで涙が出るほど悔しかった。
そのとき友達に勧められた『どろろ』の新アニメから、「女王蜂」というバンドに嵌りました。一通り聴くうち、ちょっと涙が出てしまいました。私は訳もわからず涙が流れるタイプではなくて、音楽を聴いて泣いたのは中島みゆき以来です。
強烈なビジュアルインパクト、ルールも方向もないメッチャクチャな音楽性、パフォーマンスもMVなどのアートディレクションも秀逸。どちらかの性に属するなどナンセンスと言わんばかりに使い分けられるものすごい高音と低音のコントラストが衝撃。
夫も一緒にハマってしまい、やたらインタビュー記事を漁っていますが、40過ぎのサラリーマンが「アヴちゃん」(ヴォーカルの方)と普通に呼んでるのがちょっとおかしい。記事を読んだ夫が「表現が生きる意味になっていてその中で苦悶葛藤して成長して、って羨ましいな」と言っていて、表現で身を立てることを夢みて叶わなかった人の感想だなあって切なくなりました。大丈夫大丈夫、こういったいわゆる一般受けしない要素で構成されたものを、他人が作った価値観でフィルターに掛けずキャッチできるその感覚が、あなたはそこらのリーマンと違うから、と心の中で言ってあげました。二浪して美大行った意味あったよと。
奇しくもGさんが、娘さんの進路の岐路に立ち、芸術を学んだ人間が表現で身を立てることの難しさを、夜も眠れず考えているようなので、くしくもですなあ。ん、Gさん、夜はガアガア寝てそうだなあ。
というわけで、低予算ホラー代表『ディスコード』の感想です。ネタバレだよ。
◇あらすじ
ニコールとアニー姉妹の母親が亡くなる。姉妹は幼い頃、母に度を越した躾を受けており、それが原因で成長して以降は生家に寄りついていなかった。葬儀の準備のため実家に帰った姉ニコールが忽然と姿を消してしまう。仕方なく実家に戻ったアニーだったが、今度は共に家に泊まっていた従妹が消える。
ホラーが大好きだが、ちょっとやそっとでは怖いと思わなくなってしまった。ホラーに慣れた人が、映画を観て怖いと感じるには多分「ツボ」が必要で。私の場合「家」「土地」にまつわる系が怖い。人の居つかない土地。なぜか頻繁に建て替えられる家、増築されすぎて見取り図が存在しない家。あるはずのない場所に部屋があり、その家で人が消える・・・とかね。
この映画も、主人公の生家で人が連続して消えるところから始まる。冒頭、失踪前の姉ニコールが娘とチャットしながら家の中を歩き回るシーンがあり、それで一通り家の間取りが分かるのだが、全体的に画面が暗く、位置関係を把握するのにちょっと苦労した。古ぼけた壁が意味ありげに映され、壁で隠されているもの、壁の向こうから観察している何かを意識させ、観ている側の不安感と恐怖心を掻きたてる。実際に、壁紙を破るとそこに塗り込められた隠し部屋が現れるシーンでは、映像の表現が上手いこともあってゾクゾクとする。
大きなバイクを乗り回す主人公のアニーは、見た目通り愛想も口数も少ない。母親の仕打ちにトラウマがあり、現在も人生があまりうまくいっていない。アニーは、姉の娘の面倒を見ながら失踪した二人を探すが、家の中で次々と恐ろしい現象に見舞われることになる。責任感が強いアニーに好感を抱き俄然応援する気持ちになるが、霊現象に音を上げたアニーが助けを求める相手、霊能力少女スティーヴィーがまた振るっている。
恐らくこの世のものでないものを見続けたために視力がなく、そのビジュアルも不気味なら言動も浮世離れしている。スティーヴィーがアニー宅を訪れ、突然見えない力に引き摺られて、「Judas!Judas!」と狂ったように叫ぶシーンが実に怖い。
なお、同じものを観て怖がらないどころか「ルンバ」と笑う人もおりますので、気になる人は「シネマ一刀両断」 へどうぞ。
以下は本格的なネタバレです。
個人的に一番の恐怖ポイントは、隠し部屋でアニーが霊との交信を試みた際、即席のウィジャボードが描く「B E L O W」の文字である。「下」と霊が示した瞬間、ベッドが突然動き、床板が外れてぬるりと人影が現れる。
そう、この家の地下にはずっと昔から、殺人鬼「ジューダス」が匿われていた。
アニーを悩ませた霊は、それを伝えようとしていたのだ。ジューダスは隠し部屋から這い出て行き、家の中で自由に振舞う。それを壁のあちこちに開けられた穴から、息を殺して覗くアニー。ある穴から見たときは冷蔵庫を漁っていたジューダスは、いつの間にか移動して消え、慌てて別の穴から見ると今度は寝室のベッドに腰掛け頭を抱えてユラユラしている。再び見るとベッドから消えている。
このアニー視点からの、ジューダス瞬間移動がとても怖い。
隠し部屋を覆う壁は、ジューダスにとって身を潜め家族を観察するためのシェルターだったが、現在のアニーにとっては危険な相手の位置特定を阻む遮蔽物なのだ。そして薄い壁一枚を隔てて、アニーとジューダスが至近距離で対峙する。
うわあああ!!KOEEEEE!
再度申し上げますが、同じ映画を観て全く怖がらず「冬にアイス食べて寒くないのん?」などと言っている人もいますので、気になる人は「シネマ一刀両断」 へどうぞ。
さて、あちこちのレビューで指摘されている通り、ストーリー上の説明が不足しているのだが、個人的には、示された手がかりから十分想像で補えるレベルだと思っている。
◇なぜママは姉妹に度を超す躾をしていたのか?
姉妹は何かにつけ仕置き部屋に閉じ込められていたが、これはもちろんママの兄で殺人鬼「ジューダス」が隠し部屋から出たとき、子供たちに接触させないためだろう。姉妹がドアを開けないよう、躾と称して縛ったりしたのかもしれない。結果、姉妹にとっては、母親は病的に厳しい人物と印象付けられてしまった。また、これも各所で触れられている通り、地下に他人が潜み時に上階に上がってくるのに姉妹が気付かないのは不自然との指摘は真っ当だが、まあ、姉妹の記憶に刻まれた「ママの折檻」を度々強調しているのは、その点の辻褄を合せるための苦肉の策だったのだろうと思う。
◇オッドアイの意味は?
ラストで、アニーの目がアップで映されるが、ジューダスと同じオッドアイであることから、二人が親子であることは明白。最後の被害者ジェニファー・グリックはママと同時期に妊娠しており、それを示す写真が意図的に隠されていたこと、写真のジェニファーが下げていた十字架のネックレスを現在はアニーが着けている事実が、アニーがジェニファーとジューダスの子供であることを示唆している。というより、それ以外に解釈のしようがない。オッドアイをキーに、アニーはママと兄ジューダスとの近親相姦の結果の子供であると解釈するレビューを見かけたが、そんなことを示す材料はない。
ジューダスは自分の子を産んだジェニファーすら毒牙にかけ、ママがアニーを自分の子供として育てたと解釈するのが妥当だろう。ただ、この辺りは確かに不透明すぎる。何らかの形で、ジューダスとママとジェニファーとの関係性、ママがなぜ、彼らの子供を引き取り、子供達に犠牲を強いてまで殺人鬼の兄を匿ったのかの理由が説明されれば良かったのではないかと思う。
霊現象がメインと思っていたら、実際の敵は生きてる人間だった!と斬新な展開が楽しかった。霊現象×ミステリーという、一粒で二度おいしい映画。おススメです。