Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『誘拐の掟』

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監督:スコット・フランク キャスト:リーアム・ニーソン、ダン・スティーブンス、ボイド・ホルブルック/2014年

 

わたし明日、軽井沢にスキーに行きます。オサレな響きですが、ほぼほぼ初スキーで、リエコ家族の車で私だけ連れていってもらうんです。どんな服装したらいいのか、ゲレンデに出るとき財布はどうするのん?とかイチから分からないから、手取り足取りしてもらいます。靴下までリエコに借ります。

今日になって、会社の素敵な主婦パートさんらに訊いたら、「早く言えば色々貸したのに」「なんで前日になっていうの」と昔親に散々言われたようなことを言われました。

そんなわけで、全然関係のない映画の話に移ります。

リーアム・ニーソンといえば、ド名作シンドラーのリストマイケル・コリンズなどのイメージが強く、ザ・社会派の位置付けと認識していました。しかし目を離した隙に、すっかりアクション映画御用達俳優となっていたからびっくり。しかも誘拐に巻き込まれることが多い。なお、私は『96時間』は終始無表情で鑑賞した派です。本作も『誘拐の掟』とのことで、あなたどこまで誘拐撲滅を続けるのッ、とダラダラ寝っ転がりながら鑑賞したところ、思った以上に面白くてすみませんでした。以下ネタバレです。

 

◇あらすじ

ある事件が原因で刑事を引退したマット・スカダーは、アルコール依存症を克服しつつ私立探偵として生計を立てていた。ある日、集団カウンセリングのメンバーであるヤク中の青年ピーターから、弟ケニーを助けてやってほしいと相談を受ける。

過去に傷を持つ人間は、物静かで且つ他人に寛容であるという見本のようなスカダー。リーアム・ニーソンの渋い外見がキャラクターとよく合う。リーアム・ニーソンと言えば、父親にしたい俳優十位には絶対に入る俳優だよね。ちょっと私の年齢で「父親にしたい」に挙げるのは失礼かもですが、まあ一般論ってことで。

スカダーは、ピーターの依頼を一度は断るものの、断り切れずにケニーの家を訪れる。頼まれて足を運んだというのに、ケニーは根掘り葉掘りスカダーの素性を探るばかり。だがスカダーが「じゃ、帰るわ」と立ち去りかけると、「妻が誘拐されて身代金を払ったのに殺された」と激白する。年齢にそぐわぬ豪邸から、彼がドラッグビジネスに関わっていることを悟ったスカダーは破格の謝礼を断ってケニー宅を辞す。だが後日アパートに帰宅すると、部屋の前にケニーが座り込んでいて、妻がどのように無残な殺され方をしたかを打ち明ける。

うん、最初に全部言って欲しかった。そんなひどいことされたなんて知らなかったん。それにしても、初対面の態度はツンツンしていた癖に、俯いて部屋の前で待ち伏せるとか。スカダーも絆されて依頼を引き受けるとか。

お互いツンデレ元荒くれ刑事とヤクのディーラーのツンデレ

しかもこの二人、終盤には割と良きコンビとして行動するんだ。
スカダーは、正義感と常に抱く贖罪の気持ちから、依頼を受けて捜査を行うが、そんな中ある十四歳の少女が、同じ犯人に誘拐される。

 

◇良い点。

シリアルキラーが二人組なのがもの珍しく、二人はなぜか的確にドラッグ犯罪に関わる人間を把握していて、その近親者を誘拐のターゲットとしている。警察を頼れない被害者側は金を支払わざるを得ない、とこのシチュエーションが面白い。犯人たちが何故ターゲットの情報を知っているのか、これはスカダーが他の被害者を調べる中で判明していく。長々したアクションやカーチェイスがなく、苦い過去を持つ元刑事が寡黙に調査を進める様や、全体に漂う物悲しい空気感に好感が持てる。

事件に関与した墓場の管理人が、犯人たちの手がかりを言い残して屋上から飛び降りてしまうシーン。「餌をやっていいか?」と鳩に最後の食事を与えてから、そのまま歩くように宙に踏み出すのだが、男の唐突で淡々とした人生の終わらせ方が、事件の不気味さを予感させる。

また、女性が凌辱される一部始終を映さず、光る禍々しい凶器や被害者の見開かれた目など一部分を強調することで、被害者の恐怖と犯人の卑劣さを効果的に伝える。序盤、ケニーが妻を発見する場面では、車のトランクを開くと、小分けされたビニールの包みがぎっしり詰められている。彼が扱う麻薬よろしく遺体を演出してみせた犯人の悪趣味に、背筋がぞわりとなる画だ。犯人役のキャラクターがしっかり立っている点も大きく、特に主犯のレイは全身から厭らしさが漂っていて良い。

リーアム以外の役者たちも印象的だ。誘拐されるルシアは、美貌ながらあどけなさも湛えた少女。犯人たちが彼女に心奪われる瞬間の表情はスローモーションで映され、まさに監督自身がこの美しい少女に目をつけた時の心情を見せられる気分だ。赤いフードコートは赤ずきんちゃんを連想させ、「オオカミはお前だー」と監督に突っ込みたい。このルシアちゃんことダニエル・ローズ・ラッセルは、ワンダー 君は太陽で最近見たが、よい感じに美しく成長しておりました。

f:id:yanagiyashujin:20190125155355j:plain(C)2014 TOMBSTONES MOVIE HOLDINGS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 

また、ケニーのダメ兄ピーター氏に注目したい。『ナルコス』ではDEA捜査官マーフィであったボイド・ホルブルックが演じるが、この人、何か素でヤク中っぽいでしょう。犯人たちと対峙する際、狙撃の腕を期待されライフルを託されたにも関わらず役に立たないのには笑ったが、すぐにそのツケを払うことになる。笑ってごめんネ。息を引き取るとき、「I loved...」と言いかけるピーターに、ケニーが「俺もだ」と返すのが切ない。ピーターはおそらく「キャリー」(ケニーの殺された妻)と続けたく、死ぬ前に自分の裏切りを弟に詫びたかったのだが叶わなかった。

乾いた空気に潤いをもたらすのが、テクノロジーを駆使しスカダーの捜査を助けるホームレスの少年TJ(しかし実際はほぼテクロノジーは駆使しない)。育ちが悪く口も悪い。ダイナーで「ソーダでもどう、ハニー?」と優しく訊くウェイトレスに、「俺を無精子症にする気か?いらねえよ、ネェちゃん」と返す態度がお気に入りです。TJの、「雨の音が好きでそんな日は図書館に来る」という台詞の通り、スカダーが彼に出会う図書館でまず意識に入ってくるのは、窓を叩く雨の静かな音、密やかな人々の話声などだ。ハードボイルドの空気の中に、フッと肩の力を抜く柔らかな音や画が差し込まれたり、癒しの象徴が口の悪いTJであるのも何とも良い。

 

◇良くない点。

ただ、欠点も多い。おそらく原作では説明されていることをカットしているので想像で補填するしかない箇所が多く、さらに補填しきれないのが苦しいところ。
犯人たちの正体については、「ヤク中、売人に異様に執着がある」以外は判明せずに終わる。その中途半端な情報が浮いているのみで人物像は謎のままだ。シリアルキラーが他の人間と行動を共にするのがレアなら、ターゲットの年齢層が成年から少女までという守備範囲の広さも特徴的。最後に突然仲間割れすることも含めて、二人のバックグラウンドをばっさり省いたのは、大胆というより乱暴だろう。

また、DEA(麻薬取締局)が無能すぎる。彼らはスカダーを尾行しているが、これはスカダーがDEAのマーク対象であるケニーと接触していたためで殺人事件とは無関係だという。だが一方で、彼らの言わば身内の女性捜査官もシリアルキラーたちの餌食になっており、それを知らず興味もないとは不自然だ。DEAの箇所はストーリー上必要というより、実はケニーの妻キャリーとピーターがDEAの協力者であったことをスカダーに知らせる目的で挿入されているため(多分)、DEA側を掘り下げるまでに至らず間抜けに描かれる結果となってしまった。

最も突っ込みたいのは、依頼を引き受けたスカダーの、初動捜査の手段だ。聞き込みを経て、どうやら他にも被害者がいると踏んだスカダーは図書館で新聞を調べるのだが、ドラッグディーラーの妻が殺されたなら、まずはビジネス絡みの関係者から探りを入れるのが定石だろう。あるいは元刑事のアドバンテージを活かして昔のコネを使うなり、警察側から情報を入手するのが効率的でないのか?私ならそうします。
だが、スカダーが目をつけたのはドラッグディーラーというブランドでなくバラバラ殺人という数多転がっていそうなキーワードだった。偶然出会ったTJは、ちょこちょこ検索しただけで手がかりを得、数ある殺人の中からどのような方法で同一犯による事件を特定したのかは全くの謎。というように、あるべき着地点から逆走して作られた設定に、少々無理を感じるのが残念な点だ。

 

◇カッコいい交渉場面

欠点を差し引いても、スカダーの渋い立ち姿や締まりのある演出が緊迫感をもたらし、上質なハードボイルドサスペンスになっていると思う。
特に見せ場となるのが、ルシア誘拐後、スカダーが犯人たちに電話で交渉する場面だ。個人的に、誘拐を扱った作品では、犯人からの電話を待つ時間が退屈で苦手である。待機している刑事が家族に促すまで電話の音が鳴り続けるのがストレスだし、家族の狼狽えた対応も同じなら、一度で話がつくことはまずなく再び電話を待つことになる。コレを観続けるのが面倒くさい。

その点、この映画では、いきなりスカダーが父親から受話器を取り上げ、犯人に「少女を傷つければ金は払わない」と宣戦布告する勝負の展開となる。

ルールを相手に提示することで、スカダーは自らこの事件の当事者となる。ケニーらから見ればとんだお人好しのヒーローだろうが、スカダーはスカダーで、過去に犯した罪を贖うため、自分のポリシーに従って行動しているに過ぎない。
スカダーは、犯人との何度かの電話で、ここまでの調査で入手したカードを一枚ずつ切りながら心理的な主導権を握っていく。駆け引きの緊迫感はもちろん、スカダーの淡々とした凄みを楽しめる。

 

雨の週末にでも、だらっとお酒を飲みながら鑑賞するのをお勧めしたい作品。今週末も、雨は降らなそうだけどー。