Yayga!

イェイガ!(Yay!+映画)- 叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります

『ファウンド』

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監督:スコット・シャーマー キャスト:ギャビン・ブラウン、イーサン・フィルベック/2012年

 

最近面白かったことを二つ話します。

一つ目。会社のチャラ系営業が、それはもう本当に会話の中で「マジすか」を連発するので、三十も過ぎて「マジすか」と言う人は中丸くんくらいだよ、いい加減にやめたらどう?と注意したところ。彼は『育ちの良さは作れる』とかの本を読んだそうで、「今、育ちの良さを作ろうとしてるんスよね」とかで、ここ最近「本当でございますか?」と連発するようになった。その思考回路にツボってます。

二つ目。先日、ロックのロの字も知らない親友のリエコ(好きな曲はレミオロメンの『3月9日』)が「私、あのロックミュージシャンは好きよ」と言い出し、誰よ?という話になった。そのうちリエコが「あのねえ、映画に出てた。確かUボートっていう映画」と言い、私の頭の中は疑問符で一杯になり、「え?『Uボート』って、ウォルフガング・ペーターゼンの?」「80年代の、しかもドイツ製作だよ。あーたがそんな映画知ってるわけないじゃん」と問い詰めた結果。

正解:ジョン・ボン・ジョヴィ
出てた映画:『U-571』(2000年)

みんな、感覚で話すのはやめた方がいいと思う。

さて本日は、前にinoチャンが推していた『ファウンド』が想像以上に面白かったので紹介します。inoチャンは「モツデロン」や「魔改造」などの名言を生み出した人体人心破壊映画ブログの運営者であり、今やTwitterの一コマ漫画が大人気だが某料理サイトとは微妙な関係にある新潟の小娘です。

★今回は劇中で登場するレンタルビデオ『Headless』を観るまでの私と、以降の私で感想が別れております★

 

 

◇あらすじ

ホラー映画が大好きな11歳の少年マーティ。学校でいじめられている彼にとって一番の楽しみは、家族の秘密を覗き見すること。母親がベッドの下にラブレターを隠していることや、父親がガレージの奥にヌード雑誌を置いていることを、マーティだけが知っていた。そんなある日、マーティは兄スティーヴのクローゼットに人間の生首が入っているのを発見する。(映画.com)

 

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◇とりあえず、「お兄ちゃんはクローゼットに生首を隠している」って台詞から始まって、お茶を吹きました。

途中までは、生首inクローゼットのパワフルワードに相当するような衝撃的な画や展開は特にない。お兄ちゃんはスレていて両親には攻撃的だが、カッコいいし、ちゃんと仕事に行っているようだし、何よりマーティには優しい。

マーティは学校でいじめられてはいるが、放課後には親友と大好きな漫画を描いたり秘密基地で遊んで過ごす楽しみがある。

この辺りの映像は幻想的ですらあり、何といっても、しつこいほどに兄弟を美しく撮った画が印象的。マーティの日に焼けた艶やかな頬とそばかす、陽光に透ける金色のくせ毛が度々アップショットで強調され、全てが順調なわけではないが、それなりに幸福な、多感な少年の日常が淡々と描かれていく。

父も母もそれぞれに抱えている「秘密」。まだ秘密を持たないマーティにとって、兄が隠している生首は魅惑的で、自分を特別な存在にしてくれる宝物のようなものだ。学校の同級生などには想像もつかない秘密を知っていることに対する自負、お兄ちゃんは恐ろしいことをしていて、そのお兄ちゃんは僕にだけ優しいんだぞという優越感。

なるほどなるほど。見栄や自我が芽生えだす年頃にありがちな、やや残酷な願望をテーマにした青春物語といったところね。

少し考察すればわかるけれど、殺人鬼のお兄ちゃんはメタファー、生首はマクガフィンなのよね、コレ。深層心理に潜む黒人への侮蔑の感情、いじめっ子の同級生へ殺意、自分では叶えられない残酷な願望を実行してくれる絶対的存在、それがスティーヴで、マーティは兄への思慕と畏怖との間で揺れているわけ。

さらに考察するならば、スティーヴは実在しない妄想の人物、あるいはマーティ自身の将来の姿という読み方もできるわね。・・・もし鼻についたらごめんなさい。考察には少々うるさいタチなもので、つい深読みしてしまうのね。

レンタルビデオ店で借りることができなかったホラー映画『Headless』を兄の部屋で見つけ、親友(ぽっちゃりめ)と二人で観るシーンも、怖いもの見たさと相手への見栄や強がり、子供らしい自意識をうまく溶かしているっていうか、昇華させたシーンっていうのかな?ジュブナイル的。うん。スタンド・バイ・ミー』を代表とする思春期の自我を描いた作品群に捧げたオマージュも感じられるような、メタファーに満ちたシャレた作品よね。単館系って、たまにこういう隠れた名作があるから、メジャー以外の映画探求もやめられないのよね・・・。あ、失礼、『Headless』が始まるわ。

 ↑↑↑↑(ここまで)劇中の映画『Headless』を観るまでの私。(ここまで)↑↑↑↑

 

↓↓↓↓(ここから)劇中の映画『Headless』を観たあとの私。(ここから)↓↓↓↓

 

え、マジすか?

 

ホントすみませんでした。

自分、ちょっと甘かったっす。正直、『Headless』ナメてました。
自分、ひどいグロでも大体友達なんスけど、なんかこれはドストライクというか、あの目玉をくり抜くとこと、首からボタボタ垂れる血を必死こいて浴びるとこはポカーンと口が開いてた。

つまり、マーティと友達のオタクのデブ(←もはや言葉も飾れない)が怖いもの見たさで観たビデオ『Headless』がヤバイ。チープなんだが、それゆえにスナッフビデオ感があり、殺人鬼が行う一連の残虐行為と液体多めの死体損壊描写は妙に凄惨、やたらとリアル。
何よりアレっす、生首の切り口にチ●チ●突っ込んでハァハァするやつ・・・。うわうわ、マジっすかー。そして更にヤバイのが、このヤバイ映画を十歳そこそこの子供たちが観ているという事実。映画の外から、映画の中で映画を観ている子供たちを心配するという妙な感覚。

マジすかとヤバイしか言葉が出てこなくなった。
ちょっと落ち着こうか。


~30分後~


ただいま。うん。

映画の中の殺人鬼の行為と兄の行為を重ねたマーティは、ようやく兄に恐怖を覚える。「ワルだけどカッコいいお兄ちゃん」の偶像は瓦解、唯一の理解者だと思っていた友人もこの出来事をきっかけに悪意を噴出させ、マーティはそれまでの幻想的な世界から現実に引きずり戻されるのだ。

その後のマーティが、もう非常にかわいそうでだな。
兄への恐怖心から逃れるため、自分も兄の側に堕ちることで心の均衡を保とうとするのである。黒人もいじめっ子も害悪だ、排除して何が悪いの、お兄ちゃんは正しい!ってとこだな。

これでマーティが兄の意志を継ぎました・・・なんてオチだったら如何にも過ぎて不満が残るところなのだが、この映画は、ある意味きちんと、幼く健康な心が異常なものを飲み込み切れずに壊れていくさまを描いていく。

兄に依存することで精神の崩壊を本能的に防いでいたマーティが我に返るのが、ついに兄が両親に手をかけようとするとき。

いやもうさー、このオヤジがフラグでしかないからね。兄ちゃんの異常性は両親により育まれたのだろうと予測できるダメ夫婦ではあるのだが、それでもマーティにとって親は親。懇願するマーティを拘束し、スティーヴが隣室で繰り広げる両親への残虐行為は、音だけであることも含めて、なんともサディスティック。

簡単に言うと、非現実→現実→非現実→現実を目まぐるしく経験した少年が、ついにリミットを超えて、ラストの台詞通り「こんな経験をしたら正気でいられるはずがない」と正気を手放す、ホラー映画兼青春映画みたいな感じかな。なんつー映画作るんスか、アホか。でも面白かった。

ちなみに問題の『Headless』は、数年後にスピンオフ作品として映画化されている。アホか。見るか。

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2020年『子供に観せたくない映画ナンバーワン』に決定です。おめでとうございます。